隣人ガチャ

チューブラーベルズの庭

旧友からの電話

 大学時代に一番仲の良かったエミとは、今でも時折連絡しあっては旧交を温めている。

 卒業して地元で就職したわたしと違い、活発だった彼女は都会に出て職を得た。


 その彼女が最近悩んでいると言う。

 電話の向こう、声のトーンがすこぶる低い。

「どうしたの?」と聞くと、はぁーと大きなため息が返ってくる。


「……この前、わたし引っ越ししたって言ったでしょ?」


「うん、前のマンションを出て賃貸の一戸建てに移り住んだんでしょ? 犬を飼いたいって」


 動物好きの彼女はずっとそう言っていた。

 一度だけ、前住んでいたマンションに遊びに行ったことがある。

 典型的な一人暮らし用のマンションで、狭いながらも小綺麗な部屋だった。

 だが動物は飼えない。


「もう飼ったの? ワンちゃん」


「うん、子犬をね、保護施設から引き取ってきてね」


「へぇー、良かったねえ。かわいい?」


「かわいいよぉー。本当すごくかわいいんだから。ねぇ」


 どうやらすぐ隣にいるらしい。

 あやす声が聞こえる。


「だけどね、うちの隣に住んでる女の人がね……」


「お隣さん?」


「うん……」


「なに? 気が合わないの?」


 彼女はうーーんとうなり、


「最初引っ越した時にね、挨拶に行ったの。そしたらさ、なんかすごい感じの悪いおばさんで、『あぁ』とか『はぁ』とか……。とぉーにかく、もう愛想が悪いの。わたしだけ変にペコペコしちゃって」


 と言う時の『と』にめっぽう力がこもっていた。


「わたし、隣人ガチャ外れちゃったかも」


 エミは自嘲じちょう気味に笑った。

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