第36話 俺たちは俺たちで人を救う


「結局あちら側から正式な発表はなく…。ただカルカロフ家から、どんどん難民は増えていると報告がありました。」



マージニア派を表明したテムライムに対して、"難民お願いしま~す!"とはまあ言えないだろう。だったとしても反対声明くらい出してもいいものだと思うけど、静かなことが反抗の姿勢なのかもしれない。



「表のルートで受け入れをすれば、ゴードンに迷惑がかかるかもしれない。そうなると食糧の密輸に滞りが出るから、やはり難民に関しても裏ルートでの受け入れをしよう。」




これ以上あちらの反応を待つ必要はない。今この瞬間だって路頭に迷っているリオレッド国民は増えているわけだし、今から動いても遅いくらいだ。私は王様を見て大きく一つうなずいて、「そうですね」と力強く答えた。



「そこでだ。この間から受け入れの場所を作り始めた。」



すると王様は、少し笑って言った。

"難民キャンプ"みたいな場所だろうか。テムライムはそこまで大きな国ではないけど、人不足ってのもあって土地は余っているはずだ。とは言え環境を整備しないと受け入れてもまた路頭に迷わせることになるから、早めに準備を始めてくれているのはすごくありがたいお話だと思った。



「作っているのはワシライカと、そしてカワフルのやつらだ。」

「そう、ですか。」



仕事が、繋がっている。

それを聞いてすごく嬉しくなった私は、王様と同じように笑って返事をした。エバンさんもラルフさんも同じように笑っていたから、きっとみんな同じ気持ちなんだと思う。



「使っていない船で中型のもの何隻かあるから、それを賊のやつらに使わせよう。1度で50~100人程度は連れてこられるはずだ。」



それでも少ないのかもしれないけど、目立ってしまう大型船で密輸をするわけにはいかないからしょうがないことだと思う。私はその言葉に大きくうなずいて、「お願いします」と言った。



「それでは私は手紙を書きます。食料受け渡しの場所に随時難民の方を待機させていてほしいと。」

「ああ。ありがとう。早速次の密輸から受け入れを始めたいことも、伝えてくれ。」



本格的な支援が始まってからというものの、私はただの書記と化していた。

すごくしょぼい仕事に思えるけど、これは紛れもなく私にしか出来ない仕事だから、今回もしっかり任務を果たそうって思った。ポルレさん、いや、田中さん。すごく巻き込んでしまってすみません。



「あの…。戦況は…。」



本当は一番気になっているのは、リオレッドが、そしてカルカロフ家の現状がどうなっているかってことだった。あまり聞きたくもない気がしたけど恐る恐る口を開くと、王様は少し困った顔になって「ああ」と言った。



「正直に言おう。劣勢だそうだ。」



そしてはっきりと、そう言った。

でも変に隠されて後から本当のことを知るよりかはマシだと思って、なんとか声を絞り出して「そうですか」とだけ言った。



「昨日カルカロフの軍とラスウェルの軍がついに直接対峙したようだ。大きな決戦が行われる日も近いだろう。」



いつだって彼らは危険な仕事をしていたはずだけど、いざその時が来るとなるとやっぱり落ち着かない。



「俺にはなぜか…。」



一人で勝手にソワソワしていると、王様が少し深刻な声を出した。まだなにか聞かせたくないことでもあるのかと、思わず少し身構えた。



「これが一種の作戦のように思えている。」



それなのに王様は、すぐに笑って拍子抜けすることを言った。

いつも焦っている誰かをなだめるのは私の仕事だったのに、今回は全く逆になってしまったなと思った。



「マージニア側にいるのは、3国内でも最強の参謀だ。最強がこんなに簡単に侵攻を許すのか…。それがすごく疑問なんだ。」



確かにウィルさんは今まで出会った人の中でも一番賢くて、やり手な人だと思う。王様は私を安心させるためにそんなことを言っているのかもしれないけど、言われてみれば確かにウィルさんが緻密に作戦を立てたんだから、簡単に攻められてたまるものかって気になってきた。



「だから信じよう。そして俺たちは俺たちで人を救うんだ。」



俺たちは俺たちで人を救う。

その通りだと思う。っていうかそれ以外出来ることはないと思う。


これから受け入れの調整や準備とかで、書記の私もきっと忙しくなる。こんな弱気でいては仕事もはかどらないと自分自身に喝を入れて、「そうですね!」と元気に返事をしておいた。

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