第34話 あの人に出会ったのだって何かの縁で
「あの、密輸ルートの件ですが…。」
話に一旦キリが付いた頃、部下の一人の方が恐る恐る言った。王様もいる中で声を出すなんて相当勇気が言っただろうなと思って、私は出来る限り優しい声で「なんでしょう」と言った。
「ルートを固定して定期的に運航すると…。いつかこちらの動きがバレてしまうのでは…。」
「そうですね。その通りだと思います。」
本当にその通りだと思う。
最初はこのルートで行くことを伝えてきたからこの通り行かないといけないと思うけど、今後も定期的に同じルートをたどれば、相手に動きを悟られてもおかしくない。
「3つほど、ルートを作りましょう。そしてそのルートに色を付けるんです。」
だから私は船に乗っている間に考えた案を口に出した。
みんなが頭にはてなをたくさん浮かべて私の方を見ていた。
「そうですね。3つのルートは赤ルート、黄ルート、青ルートとしましょう。そして次どのルートで運ぶのかを、食べ物で伝えます。」
「たべ、もの…?」
「ええ。」
今まで色の話をしていたのに、急に食べ物が?と思っているんだろう。みんなの頭にはまだたくさんのはてなが浮かんだままだった。
「例えば次のルートを"
「な、なるほど。」
回りくどい方法かなとは思った。
でも念には念を入れて、回りくどくしておいた方がいいと思った。するとみんな「いいですね」と言って、私の案に賛成してくれた。
「そしてそのルートの伝達ですが、暗号を使って行います。」
「暗号を…?」
一度は納得したみんなが、また首を傾げて私を見た。さらに念には念を入れるために、この方法を私ともう一人にしか伝わらない方法で伝達しようと思った。
「ええ。実はあちらでポルレさんにお会いしたんです。」
「ポルレって、あの…。」
名前を聞いて、王様は不思議そうな顔で言った。私は笑顔でうなずいて、「昆虫博士のです」と答えた。
「私とポルレさんには、私達にしか伝わらない暗号があります。それを紙に書いてポルレさんに渡し、次のルートをカルカロフ家に伝えてもらいます。」
暗号や謎解きみたいなものも、解かれてしまえば終わりだ。
唯一解かれない方法と言えるのが、"日本語"で伝達することだった。そして日本語を分かってくれるポルレさんとあそこで出会ったことにも、何か意味があるのではないかと思っている自分がいた。
「ここまでする必要はないのかもしれませんが、少しでも長く密輸を続けるために必要だと思います。いかがでしょうか。」
「ああ。いいだろう。よく考えられていると思う。」
私が提案した案を、王様は笑顔で肯定してくれた。安心した私は王様と同じように笑って、「ありがとうございます」と言った。
「では早速私はそれを手紙にします。一番最初の密輸で手紙を運んでもらって、この方法を伝えたいと思います。もちろん、暗号を使って。」
リオレッドに滞在している間は冷静に考えることも出来なかったから、この案を伝えてくることも出来なかった。改めてこれを伝達するために日本語でポルレさんに手紙を書こうと思っていると、ラルフさんが不審な目で私の方を見た。
「いつの間に暗号なんて…。」
そして疑いを含んだ声で言った。
確かに私とポルレさんが二人にだけ伝わる"暗号"なんて使っているのはおかしな話だ。ピンチだから何も考えず口に出したけど、ラルフさんの疑問も当然だと思う。
「えっと…。」
言い訳を考える時間を作るために言葉を出した。でもこれから5分考えたっていい考えが浮かびそうになかった。
「秘密です。」
返答としては最悪の答えを口から出した。すると横に座っていたエバンさんが、小さな声で「ふふ」っと笑うのが聞こえた。
「とにかく。明日にでも会議を開くことにしよう。」
少し戸惑った様子のまま、王様がそう言った。するとラルフさんも訳が分からないって顔をしながら、「かしこまりました」と返事をした。
私のいないところでとても大事なことが決まると思ったらやっぱり少しソワソワしたけど、王様の言う通り今回は私が行かない方がうまく行くのは明白だ。だとしたら今私に出来ることは"ポルレさんがまだあの場所にとどまっていてくれますように"と祈ることくらいだと、まったく役立たずなことを考えた。
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