第9話 詰んだ
本当はその場ですぐ動き出したいくらいの気持ちだったけど、一旦冷静になるためにもそれはやめておいた。その日はカイと2人で一緒に寝て、カイは朝元気に訓練へ向かった。
「リア、大丈夫だった?」
ゆっくり休ませるために入院させていたのにという目で、エバンさんは私を見た。でも連れてきてくれたおかげで復活できた私は、素直に「うん」と返事をした。
エバンさんはそれでも空元気だって思っているのか、今日もまだ帰ることを許してくれなかった。でも私にとって、それは好都合だった。ここにいた方がゆっくりと、これからどうしようか考えられると思ったから。
私はエバンさんにすら自分の精神が復活していることを隠して、一人静かにベッドの上で、自分に何が出来るのか考え始めた。
大人しくしているのが"正解"ではないって思ってみたはいいものの、だからと言って出来ることは何かって考えても浮かばない。
今すぐリオレッドに行って、あのクソを説得でもしてみるか?
いやいや、私がいって説得とか一番ダメだ。
あいつは私のこと目の敵にしてるんだから、
私が行った時点でパパやママは間違いなく死刑…。
それならなんだろう。
カルカロフ家に加勢して攻めるか?
弱すぎる。
私一人が加勢してどうにかなる話じゃない。
やっぱり護身術くらい学んどけばよかったかな?
前世で合気道とかやってれば、ここでも生かせたのかな?
だとしたらこの世界で道場を作って最強を育てるとかそっちの物語に…。
いやいや何考えてんだ。
ここに来て主題を変えようとしないでくれ。
そもそも私の考えがこんな風に脱線してるもの、
情報が少なすぎるからだ。
情報がないと、どう動けばいいのかそもそも考えられない。
エバンさんをじわじわ攻めて聞き出すしかないか…。
でも私が復活してるってバレたら、
何かしでかすと思われて軟禁されちゃったりして。
実際今悪だくみしてるわけだし…。
「リア?」
「…ん?!」
気が付けばエバンさんが心配そうな顔をして私を覗き込んでいた。やっと意識を取り戻した私が慌てて返事をすると、エバンさんはまだ心配そうな顔で私のおでこに手を置いた。
「熱は、ないみたいだね。」
「う、うん…。」
やっぱり私がおかしくなっていると思っているらしいエバンさんは、私の肩を持ってゆっくりとベッドへ倒した。
「とにかく、ゆっくりしてて。」
「うん。」
心の中では"ごめん"と言いながらも、頭の中ではどう行動しようかを考え続けている自分がいた。エバンさんは少し悲しげに笑った後、「ちょっと行ってくるね」と言って部屋を出て行った。
いつから私はこんなに止まっていられなくなったんだろう。
カツオか。マグロか。あれ?どっちだっけ?
まあそんなことはどうでもいい。
そもそもこの世界にカツオもマグロもいないし。
今考えるべきなのは、どう動くのか。
まずはどう情報を得るか、だな。
情報を得る方法と言えば…。
まずエバンさんからこっそり引き出す。
もしくは団員を買収して、情報を売ってもらうか。
いや、それは危うすぎる。
すぐにエバンさんにバレそうだ。
だとしたら…。
行っちゃう?百聞は一見に如かずつって。
いや、そんな簡単に行けるもんじゃないだろ。
レルディアに足を踏み入れたことがバレた瞬間に、私まで殺されそうだ。
バレる…。か。
ってことは、バレなきゃ、行ける…?
でも内戦が起こったらレルディアに物を売りに行くどころじゃなくなりそうだし、船もそんなに頻繁にでないかも。
もしかしたらもう止まってるかも…。
だとしたら…。だとしたら、
「密輸…。密輸されるか。」
そうか。密輸されればいいんだ。
さらわれたあの日みたいに、公式じゃない船に乗って、密輸をされればきっとバレずに見に行ける。
「でも誰に…。」
港にいる人に声をかけても、きっとすぐ情報が伝わってしまう。
それでは"密輸"にならない。
レルディアに行く船が止まっているとはいえ、多分すべてなくなっているわけじゃないからこっそり乗れれば一番いいけど、通関制度を取り入れてしまったせいで、リオレッドで私が乗ってることがバレてしまえば一巻の終わりだ。
「作るんじゃなかった~~~~~。」
通関制度なんて、作るんじゃなかった。自分の作った制度で自分の密輸を阻止されるなんて。私のバカっ!
もう正規ルートは多分無理だ。何か別の手を使って密輸されるしかない。
別の手を使って…、密輸…。
「もしかして…。」
もしかしてあの人たちに頼めばいけるのかもしれない…。
いや、でもまずそもそも頼みに行くまでのハードルが高すぎる。
っていうか行けたとして、密輸されたとして…。
それがバレた時、私だけじゃなくてディミトロフ家に迷惑がかかる。
密輸なんて違法な方法を取ってしまえば、エバンさんが騎士王じゃなくなるかも…。
「それは、だめだ…。」
それはダメだ。
私がこの世に存在してしまったことが、ジルにぃを騎士王の席から降ろすことの一つの原因になってしまったのは間違いない。それなのに今度は自分の夫を今の地位から引きずり下ろすなんて。
「詰んだ…。」
完全に詰んでる。やっぱり私に出来る事なんてないのか。
ここで大人しくしていることがすなわち、"信念"を貫くってことにもつながるのかな…。
「わかんない…。」
トントントンッ
完全に詰んでしまった私の思考回路を一旦断つように、ノック音が聞こえた。それに反応して「は~い」と声を出すと、ゆっくり開いた扉から顔を出したのは、ラルフさんとレイラさんだった。
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