第45話 さあ!開戦です!
「ごめんなさい。」
みんながまだ不思議そうな顔をして私を見ているもんだから、緩んだ顔を何とか戻して謝った。そしてもう一度、あざとさ全開の笑顔を作って座り直した。
「あまりにも美味しくて、つい。」
それは建前ではあったけど、決して嘘ではない言葉だった。するとグレッグさんは少し嬉しそうな顔をして、「それはよかった」と言った。
「それで今日はどうしたんだい、家族そろって。」
そしてグレッグさんは、まるで何もなかったかのような顔をして言った。わざとらしさにブチ切れてやろうかとも思ったけど、とりあえずあざとい笑顔のまま様子を見てあげることにした。
「この間、リアがリオレッドに帰っていたんだ。」
するとラルフさんがにこやかな笑顔で言った。いつも優しいラルフさんの目が、さっきのグレッグさんに負けないくらい怖く見えた。
「そうか。帰省は楽しかったかい?」
グレッグさんはニコニコ笑って私を見て言った。
その言葉を聞いたラルフさんとエバンさんの雰囲気が、少し変わったのが分かった。
「グレッグ。お前、知らないのか?」
「何をだい?」
グレッグさんは半分ニヤケながら言った。その笑顔がすごくわざとらしくて、そしてすごく不気味だった。
「あれだけ騒ぎになっていたじゃないか。リアがリオレッドでテムライムの輩にさらわれたと。お前も王から報告は受けているはずだが。」
私が誘拐されたというニュースは、テムライム中で話題になった。
それに王が注意喚起のために大臣たちを集めたはずだから、この人だって知らないはずがないんだ。
「あ~。そうだったな。ごめんごめん。」
それなのにグレッグさんは、またわざとらしく大きな身振りをして言った。演技が下手すぎて、俳優にはなれないぞと思った。
「無事でよかったよ、リア。」
わざとらしい顔のまま、グレッグさんに言われた。よかったなんて一つも思ってないはずなのに。
それにいきなり馴れ馴れしすぎる。リアって呼ばれるのは好きだけど、お前に限ってはアリア様とお呼びなさい。
「犯人が誰なのか、調査をしてたんだ。」
「つかまったんじゃないのかい?」
意味の分からないポイントでキレている私が何か言葉を発する前に、ラルフさんが話を続けた。伝わってくる二人の空気は、相変わらずすごくとがっている感じがした。
「ああ、捕まったさ。実行犯はな。ワシライカの輩だったよ。」
空気はすごくとがっていたけど、ラルフさんはとても冷静だった。内心メラメラとしているはずなのに、とても冷静なトーンで会話を進められるのはさすがだと思った。
「ワシライカと言えば…。お前が昔制圧した地域じゃないか。その頃からの恨みなのか…。それは気の毒だったね。」
でもグレッグさんも負けないくらい、とても冷静だった。
また白々しいことを言って私に悲しそうな顔を向けたけど、目の奥が笑っているのを見逃すほど愚かな私ではない。
「もっと下っ端はトムナ地方の失業者だと、お前も報告を聞いているはずだが。」
見張り役をしていた失業者の人たちは、どうやらトナム地方という工場地帯の人で、そのトナム地方を管轄しているというのが何を隠そうオルドリッジ家らしい。
そりゃ失業者がいて、その人たちが私に恨みを持っているという話も知っていて当然だと、初めて聞いた時思った。
「そうだったな。リア、すまなかったね。」
まるでちょっと肩がぶつかっただけみたいなテンションで、グレッグさんは私に謝った。それに本当に謝ってないことなんて言葉を聞かなくても明白で、はらわたが煮えくり返るってこういう事かと実感できるほど胸が熱くなり始めた。
「本来はそちらから謝罪に来てもいいくらいだと思うが。」
「そのうち行こうと思ってたんだ。最近忙しくてな…。」
ラルフさんはグレッグさんの話を遮るように、「もういい」と一言言った。
お前の"そのうち"はいつからいつまでの間なのか具体的に聞いてやろうか。"行けたら行く"って言葉くらい信用ならないな、むしろもっと信用ならんわ!
「それにな、ワシライカのやつらは、カワフルのやつに脅されて計画を実行したそうだ。」
「カワフル?やつらがどうして。」
湧き上がってくる怒りの感情を抑えるために、頭の中をごちゃごちゃと働かせた。その間にもラルフさんはとても冷静に話を進めてくれていた。
思えば私が一言も話し合いに参加しないうちに、ここまで話が進むのは初めてな気がする。本当は座っているだけだから楽な仕事なはずなのに、今回ばかりはジッとしていることがとても辛く感じられた。
「知らない、というのか?」
「ああ、知らないな。」
もう帰りたいとすら思った。
話は円滑に進んでいるし、グレッグさんの顔は笑っているはずなのに、部屋の雰囲気は凍り付いていて、私の体も固まっていた。
なんで全部任せなかったんだろう。
心の底からムカついてたし、絶対にこいつらのこと許せない。
でもこんな風に怖い想いをするくらいなら、
ついてこなきゃよかったじゃん。
ラルフさんだってエバンさんだって、
私が行かないと言ったら
分かったって言ってくれたよ。
私って毎回自分で首ツッコんで、毎回自爆して。
え、もしかしてドMなの?
自分でも知らなかった性癖かなんかなの?
変態なの?ど変態なの?
「これでも、でしょうか。」
体が固まっているせいか、頭はすごくうごいていた。
そのせいか意味の分からないことを考え始めていた私に対して、とても冷静そうなエバンさんが懐から何かを取り出した。
え、何それ。聞いてない。
味方のはずのエバンさんが不意に自分の知らない攻撃を繰り出したことに、私は心底驚いた。動揺は何とか隠そうとしていたはずなのに、私は思わずエバンさんの取り出したものを勢いよく見ていた。
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