番外編 ゴードンのリア遠隔観察日記
「ゴードンさん、テムライムからロッタ様がお話に来たいとのことです。」
「わかった。日程を調整する。」
「了解です。」
リオレッドのドレスをテムライムでも売り始めて早5年。
その売り上げは年々伸び続けて、今やドレスはリオレッドを支える産業の一つになったと言っても過言ではない。
でもその成長に乗じて、テムライム産のドレス産業が低迷しているという話はなんとなく耳に入っていた。だからきっとその話なんだろうなと予想しながら、日程の調整をすすめた。
「…というわけで、期間限定で少しドレスの値上げをさせていただきたく…。」
予想通り、やってきたロッタさんはとても申し訳なさそうに言った。
でも申し訳なさそうにする必要なんてない。今はドレス産業が盛り上がっているせいでこういう事態が起こっているけど、いつか逆の立場にだってなりえる。
俺は立場上、リオレッドの利益のことを一番に考えなければいけない。
でもテムライムなしでは今のリオレッドの繁栄がありえないこと、そして前王様がテムライムとの関係を大切にしていたということも充分理解しているから、その要求を拒否する選択肢なんてあるはずがなかった。
「もちろん、大丈夫です。様子を見ながらこちらからの出荷も制限しましょう。」
「ありがとうございますっ。」
唯一の関門と言えるのが、現王様への説明だ。
前王様が政治の実権をマージニア様に譲るという遺言を残してくれたからマージニア様にだけ説明をすればいいのかもしれないけど、"王様"という名前がついている以上、イグニア様にだってこのことを報告しなくてはならない。
言い方次第では"こちらが儲かってるんだからいいだろう"と言われてもおかしくないから、どう説明しようか考えなくてはなと、その時から頭の中で対策を考えた。
☆
結局王への説明は問題なく終わった。前王様がお亡くなりになった後しばらくはずいぶん苦労したけど、最近今の王様への対処の仕方にも慣れてきた気がする。
そしてそれから数か月後。
予想していたよりもずいぶん早く、テムライムから制限を全て解除していいとの通達が入った。1年くらいは様子を見なくてはいけないかなと思っていたから少し驚きはしたけど、早く解除されることがお互いのためにもなるから、とてもいいことだと思った。
「おかえりなさい。」
「おかえりなさいませ。」
知らせを受けたその日。
早めに家に帰ると、メイサが家の掃除をしてくれているところだった。いつも通り「ただいま」とあいさつをしたはいいものの、メイサの姿になんとなく違和感を覚えた。
「メイサ。いつもと、違う…?」
「あら。よく分かったわね。」
するとアシュリーがとても嬉しそうな顔で言った。
何か違うってことはわかったけど、すぐに何かわからない俺がジッと見つめていると、メイサは恥ずかしそうに「ドレスです」と言った。
「ああ、テムライムの。」
そう言えば最近、テムライムから新しい給仕ドレスを仕入れ始めたという報告は受けている。仕入れる前に自分の目で見たつもりだったのに、すぐに見分けがつかない自分がはずかしい。
「すごく動きやすいです。」
するとメイサは本当に嬉しそうに笑って言った。
このドレスはなんでも、ディミトロフ家の新しいドレスを一般販売したものらしい。それがテムライムで爆発的にヒットして、結果リオレッドにも仕入れることになった。そのドレスの制作に誰がかかわっているかなんてことは、聞かなくても明白なことだった。
「リアは…。」
リアとはもう、子どもたちが生まれた時に会いに行って以来会えていない。
子どもがまだ小さいから、頻繁に帰ってこれないのは分かっている。俺たちが寂しくないようにとよく手紙を書いてくれるから、最近どう過ごしているかも分かっているはずだ。
でもリアはすごく優しい子だから、テムライムに行ったばかりのときみたいに、俺たちを心配させないように無理をして書いているんじゃないかと考えることもある。
でもテムライムのことを考えて新しいことを始めているって情報が入ってきた時は、同時にリアが元気だっていう知らせを受け取ったような気持ちにもなった。
「とても元気そうだな。」
「そうみたいね。」
「ですね。」
すると二人も同じことを考えていたらしく、ほぼ同時に返事をしてくれた。なぜだかそれがすごくおかしくて、3人で目を合わせて笑ってしまった。
どこにいたって元気で幸せに過ごしているならいい。
今も変わらず誰かのためになりたいと頑張ってくれているなら、それでいい。
でもそろそろ愛しいリアの顔も、まだ一度しか見れていない小さいあの子たちの顔も見たい。そして「頑張ったね」と言って、抱きしめたい。
今まで遠慮していて書かなかったけど、次の手紙には「そろそろ帰っておいで」と一言付け足そうと、心の中でひそかに決めた。
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