第49話 私、いらなくない?パート2


「それではわたくしより報告いたします。」



自分にはきっとこの会議で何も発言する機会はないんだろうけど、もしあるとしたらここだと思った。だから私はロッタさんが声を発すると同時に、心なしか背筋を伸ばして彼の言葉を待った。



「海の状態はずいぶん安定し、以前のようにトラブルを受けることは少なくなっています。」



その話はキャロルさんから直接聞いていた。

保険制度が出来たことで安心して貿易が出来るようにもなったそうで、キャロルさんはすごく喜んでいた。



「その代わりに最近一つ問題となっているのですが…。」



するとロッタさんは少し困った顔をして言った。最近問題になっていることがあるなんて一つも聞いていなかった私は、ロッタさんの次の言葉に耳をすませた。



「リオレッドのドレスが、最近より一層人気を呼んでいます。」



おお、あの時の商売が役に立っている。

売り込んだ張本人の私が少し鼻を高くしてロッタさんを見ると、彼はなぜか申し訳なさそうな顔をして私を見返した。



「その影響で…。テムライム産のドレスの売れ行きが、落ちているそうです。」




ガーーーーーーーーーーーンッ

やって、しまった…。



平成生まれだったはずの私は、昭和みたいなテンションで思った。

そもそもここは平成も昭和も、令和だって関係のない世界なのに。



リオレッドの観点から見たら、"貿易黒字"という現象だ。

貿易黒字とは輸出額が輸入額を上回ることを言い、要はリオレッドは今とても儲かっている状態だといえる。


でもテムライムからすれば、それは反対に"貿易赤字"という状態になる。

貿易をする上でもちろんその額がピッタリ半額とはならないけど、どちらかの黒字が大きくなり、それが拡大し続けると"貿易摩擦"という現象になりかねない。


輸出入のバランスが崩れて貿易摩擦が起きてしまうと、両国が緊張状態になり、それが戦争に発展するということもすくなくない。まだ今は小さな小さな問題なのかもしれないけど、これは早急に対応すべき問題だと、心の中で思った。



「そこで考えたのですが…。」



対処法を今にも前のめりで発言しようと思った。

私が今対策を練らないと事態がもっと最悪の方向へ向かってしまうと、そう思っていた。でも私が偉そうに声を出すその直前、ロッタさんは続けて何か提案しようとし始めた。



「リオレッドの商品を今より少し高く売る、というのはどうでしょうか。」



会議室にいる大臣たちは、"どういうこと?"という顔をしてロッタさんを見ていた。が、私は思った。



――――やるじゃん、ロッタ氏。



それはまさに、"関税"の考え方だ。

関税とは輸入されてくるものに課せられる税金のことで、まさに貿易のバランスを保ったり自国の商品を守ったりする目的で導入されるものだ。

私が提案しなくても、もともと使っていた関税の概念を引き出したロッタさんに、後光がさしているようにすら見えた。



「リオレッドのものが高く売られていれば、その分テムライムのものを買おうという動きが多少できるのではないでしょうか。」



ええ、その通りですね。

と、心の中で思った。するとその説明を聞いた大臣たちも王様も、うんうんと納得したようにうなずいていた。



いや~~~久しぶりに思う。

私、いらないじゃん。



テムライムにパパと初めて来た時、そう言えばそんなことを考えたことを思い出した。今度はパパがその知識を共有したロッタさんの口から、私が提案しようとしていたことを聞くことが出来た。



――――素晴らしい、本当に。



それは本当に、素晴らしいことだと思う。

誰か一人の力ではなく、色んな人の力でトラブルに対処できる体制が出来るという事は、大きな国の強みだと思う。



「うん。理にかなっていると思う。」



すると王様も、それに賛成するように言った。

もう会議に参加する必要がなくなると思うと、なんだか少し悲しい気もした。でもそもそも働く必要なんてなかったんだから、隠居生活でも楽しむかな~なんて、老人みたいなことを考えた。



「リアは、どう思う?」



すると間抜けなことを考えている私に、王様は穏やかな顔で話を振った。

私は王様に答えるようににっこり笑って、「素晴らしいと思います」と答えた。

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