第42話 メイド萌えって、意味違う!
「お、おはよ…。」
前の日遅くまで飲んできたらしいエバンさんは、珍しく私より長く寝ていた。目を覚ました時は少し眠そうにしていたけど、少したったら切り替えてシャワーを浴びに行った。
「エバン様、リア様。」
エバンさんがシャワーを浴び終わったくらいの時、扉の向こうからマリエッタさんの声がした。体調が万全じゃなさそうなエバンさんの代わりに「は~い」と言って扉を開けると、マリエッタさんはすごく丁寧に頭を下げて「おはようございます」とあいさつをしてくれた。
「今晩のことですが…。」
今日の夜ティーナが呼び出されていることは、軽くマリエッタさんに話をしてある。わがままを言ってティーナにその時だけ仕事を入れないように頼み込んだけど、もしかして急用でもあるのかと少しゾッとした。
「リア様も、エバン様と一緒に行ってきてください。」
するとマリエッタさんは私の予想に反してそんなことを言った。
段取りではブルース君がティーナを呼び出して、後はもう二人にお任せするっていう風になっていた。私はカイトやケントがいるし離れられないからエバンさんに変わりに見届けてもらおうと思っていた。
「カイト様とケント様のことはお任せください。」
マリエッタさんは続けて言った。でも祭りのフィナーレのイベントと言えば、だれだって見たいものなのではないか。マリエッタさんだって見ないともったいないと思って「でも…」というと、彼女は「大丈夫ですよ」と笑った。
「私はもう何十回もみていますから、飽きたくらいです。それに最近お二人でお出かけになることなんてないんじゃないですか?」
マリエッタさんの言う通り、二人が生まれてからエバンさんとデートをする機会なんて一切なくなっていた。日々忙しすぎてそんなことを考える余裕すらなかったんだけど、マリエッタさんに言われてハッとした自分がいた。
「たまにはデート、してきてくださいな。」
「お言葉に甘えようよ。」
それでもまだためらっていると、すっかりスッキリした顔になったエバンさんがこちらに近づいてきた。マリエッタさんはそれを聞いて、「お任せください」と言って手で胸をポンと叩いた
「それでは夜だけ…よろしく頼みます。」
「お安い御用です。」
さっきまでためらっていたはずなのに、いざデートが出来るとなるとなんだか嬉しくなり始めた。私はまだ朝だっていうのに、ティーナのことも忘れて、夜はなにを着ていこうかなんてうきうきしながら考え始めた。
「それじゃあまた迎えに来るから。」
「は~い。」
さっきまで二日酔いっぽい雰囲気を出していたくせに、エバンさんはまた元気に出かけて行った。私は彼が次迎えに来るまでドキドキしながら、その時を待つことにした。
「リア様。」
「どうぞ~。」
するとその時、外から遠慮がちなティーナの声が聞こえた。ドキドキしているとはいえ実感のない私が気の抜けた返事をすると、ティーナは「失礼いたします」と言って部屋に入ってきた。
「あの、私…。」
ティーナはすごく言いづらそうに言った。
そう言えば今日、ブルース君がティーナを誘ってるってことを、私は知らないことになっている。
「ど、どうしたのぉ~?」
それを思い出して急に緊張し始めた私が、下手な演技をしながら言った。するとティーナは私のそんな変化に気が付くこともなく、「えっと…」と言ってもじもじし始めた。
「あ、今日はお休みでいいよ!」
言いにくいだろうなと思って、先手を打って言った。するとティーナは少し驚いた顔をして、「よろしいのでしょうか」と言った。
「うん。今日はエバンさんもいないし、夜はマリエッタさんが二人のお世話をしてくれることになってるの。だからティーナもお祭りを楽しんで来たら?」
はい、ナイス。
心の中で自分で自分を褒めてあげた。
私の言葉を聞いたティーナは「では…」とまた遠慮がちに言った。私はニヤケそうになる口を何とかおさえながら、「楽しんでね」と言った。
「え、ってか。」
「行ってきます」と言って今にも部屋を去ろうとするティーナを、私は止めた。ティーナの姿を見た私の頭には、一つの疑問が浮かんでいた。
「その格好でいくつもり?」
まさかなという私の想いとは反対に、ティーナは当たり前という顔をして「はい」と言った。ティーナが着ていたのはいつも家事をしてくれるために来ているメイド仕様の服で、髪の毛だっていつも通りしっかりとまとめられていた。
いや、メイド萌えってあるけどさ。
あるけどそういうことじゃないでしょ!
と、内なる前世の私が全力でツッコんでいた。
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