第21話 幸せな取り合い
「あれ、私…。」
夜中まで止まらずにおしゃべりしていたはずが、目を覚ますともう辺りは明るくなっていた。起きた時こんな風に全身で「寝た~!」と感じるのは久しぶりだ。
ようやく冷静になってきた頭で隣にいるエバンさんを片手で探ってみると、何度探してもエバンさんを見つけることが出来なかった。
「え?!?」
体を起こしてベッドの上を見てみると、そこには誰もいなかった。
昨日の出来事はもしかして夢だったんだろうか。頭がボーっとしているせいで一瞬は判断がつかなくなりそうだったけど、でもベッドの右側にはなんとなく、まだエバンさんのぬくもりが残っている気がした。
「もしかして…っ!」
私がのんきに寝ている間に、もう仕事に行ってしまったんだろうか。
気を遣って起こさずにいてくれたのかもしれないけど、だとしたらひどすぎる。挨拶くらいしてくれなきゃ、また寂しくてウサギみたいに死にそうになってしまう。なんなら月に帰るからな!!
ぬくもりを感じるという事は、まだ遠くには行っていないかもしれない。
そう思った私は勢いよくベッドから立ち上がって、パジャマのまま部屋のドアを勢いよく開けた。
「お願い…っ。」
お願いだから顔くらい見せてほしい。また会えなくなる分だけ抱きしめて、行ってらっしゃいを伝えてさせてほしい。
しばらく寝ていたせいか足は重くてうまく動かなかった。それでも出来る限り足を速く動かして、勢いよく階段を降りた。
「…っ。」
部屋から玄関の距離なんてそんなにないはずなのに、息は完全に切れていた。寝てばかりいるせいで体力が完全に衰えてしまっていることを自覚して、早く元気にならないとなと思った。
玄関までの距離が果てしなく感じられたけど、ようやくその扉が目に入ってきた。そしてもうすぐ玄関にたどり着くというその頃、タイミングよく扉が開いた。
するとその扉の先に立っていたのは、予想もしていない人の姿だった。
「リア…?」
「パ、パパ…っ!!」
さっきまでエバンさんを探していたはずの私は一瞬でそれを忘れて、目の前にいるパパに飛びつくようにして抱き着いた。パパはしっかりと私を受け止めて、力強く抱きしめてくれた。
「リア、久しぶり。」
「パパっ、パパ…っ。会いた、かった…っ。」
久しぶりに感じるパパのにおいが、胸いっぱいに広がった。エバンさんに会えたことで満たされたはずの胸は、パパのにおいでもっといっぱいになって、その気持ちがまた涙に変わった。
「よしよし。分かったから。」
パパは小さい頃ママに怒られたときにしてくれたみたいに、優しく頭を撫でてくれた。その行動がまた涙を誘ったせいで、私はしばらくそのままの状態で泣き続けた。
「ダメじゃないか、体調が悪いのに走ったら。」
ようやく泣き止んだ私に、パパは言った。その言葉で冷静さを取り戻して一気に恥ずかしくなった私は、恐る恐る周りを見渡してみた。するとそこにはエバンさんだけじゃなく、ラルフさんやレイラさん、使用人の人たちが大集合していた。
「ご、ごめんなさい。私…。」
いい大人なのに、っていうかおばさんのくせに、寂しさでおかしくなってつい取り乱してしまった。みんなが微笑ましい顔でこちらを見ていることに気が付いた瞬間さらに恥ずかしくなったけど、私以外のみんなは暖かい雰囲気で笑い始めた。
「僕に会った時よりいい反応されると、嫉妬するな。」
するとエバンさんは悔しそうな顔をして言った。それを聞いたパパは愉快な様子で笑った後、「ごめんね」と言った。
「しょうがないよ。僕とリアはもう20年間愛し合ってる仲なんだから。」
パパは私をまたギュっと抱き締めながら言った。私もそれにこたえるようにパパを抱きしめ返すと、エバンさんは分かりやすく「はぁ」とため息をついた。
「僕もまだまだですね。」
「うん。しばらく譲る気ないからね。」
「大人げないですよ。」
「ふふっ。」
大好きな二人に取り合いをされているなんて、なんて幸せなんだろう。大きすぎる幸せに思わず笑ってしまうと、パパは大きな手を私の頭にポンと乗せた。
「部屋に戻ろう。まだ少し体が熱い。」
「うん。」
パパの言葉に素直にうなずいて、私はそこにいた人たちにぺこぺことあいさつをした。そしてパパは私の腰をしっかりと支えてくれて、私はそれに甘えながら部屋へと向かった。不安になって確認してみると、その後ろからしっかりエバンが付いてきてくれていた。それにもホッと胸をなでおろしながら、転ばないように慎重に階段を登った。
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