第18話 ホームシックにかかりました


孤独を感じ始めてから、ついに1か月が経過した。

一度感じてしまった孤独はそう簡単に消えなくて、夜はロクに寝られない毎日を過ごしていた。そのせいで昼間はすごく眠たくて、寝ている日が増えた。それと同時にご飯があまり食べられなくなって、私は自分でもわかるくらい、見る見るうちに弱っていった。



「リア様、お痩せになられました…?」



出来るだけ他の人には気が付かれないようにしている。

ドレスを着ると体のほとんどの部分がカバーされるから痩せてもあまり気が付かれないんだけど、毎日着替えを手伝ってくれるティーナには隠し切れない。



「分かる?エバンさんが帰る前にダイエットしようと思って。」



苦しい言い訳を聞いて、ティーナは困った顔で「そうですか」と笑った。内心「心配かけてごめんね」と言いながら、私も無理やり笑って「うん」と答えた。




それから数日が経った頃、私はついに体調を崩した。

寝れないってのは免疫力にダイレクトに作用するらしい。その上あまり食べられてないってのもあって、熱を出してしまった。



「何か食べられそうですか?」

「う~ん、そうだな…。あまり食欲ないから、とりあえず寝ようかな。」



今日はティーナに強がったことも言えそうにない。

力なくベッドに体を倒しながら言うと、ティーナはとても心配そうな顔をして「かしこまりました」と答えた。




「リア?入っていい?」



するとその時、外から遠慮がちな声が聞こえた。それがエリスの声だってのがすぐにわかった私は、ベッドに座ったままティーナに「ドアを開けてくれる?」とお願いをした。



「リア。」



ティーナが開けたドアから、エリスが心配そうな顔で入ってきた。きっとレイラさんが心配して呼んでくれたんだろうけど、その気遣いすらもすごく申し訳なく感じた。


「大丈夫?」

「うん。ごめんね、心配かけて。」


エリスは心配そうな顔をしたまま、ベッドにゆっくり腰を下ろした。そしていつもエバンさんがしてくれるみたいに、私の髪をゆっくりとなでた。



「リア。」



何度も大丈夫だという私を、エリスはそっと抱きしめた。抱きしめる手がすごく優しくて、まるで壊れ物を持つみたいだなと思った。



「今日はリアの好きなアイスカレーを持ってきたのよ。食べられそう?」

「ほんと?嬉しい。」



私の返事を聞いて嬉しそうな顔をしたエリスは、どこからかアイスを持ってきてくれた。私は「ありがとう」とお礼を言いながら受け取ったアイスを、そのまま素直に口に運んだ。すると口の中に入れた瞬間広がる甘くて懐かしい味が、全身に一気に広がっていった。



「おい、しいっ。」



アイスの甘さが全身にいきわたって、寂しさで押しつぶされそうな心が少し温かくなる感覚がした。アイスは冷たいのにね。


久しぶりにほっこりした気持ちになって、「ありがとう」と笑顔でエリスにもう一度お礼を言った。



「きっともうすぐ、お兄ちゃんも帰って来るよ。」

「うん。そうだね。」



1か月が経ったけど、もうすぐ帰るという連絡は一切耳に入ってこない。だからきっとまだ時間がかかるんだろうけど、エリスは私を励ますためにもそう言ってくれたんだと思う。



「寂しかったらいつでも呼んでね?」

「ありがとう。」



人に恵まれて生きているはずなのに、孤独が埋まらないのはどうしてだろう。

私は暖かいことを言って去って行ったエリスの背中に「ごめんね」と一度謝って、またベッドへと寝転んだ。



「ティーナ。」



ボーっと天井を眺めて、また"天井交換"を思い出そうとした。

でもやっぱりメロディは全然頭に浮かんでこなくて、余計に具合が悪くなりそうだと思った。



「ママやパパは、元気にしてるかな。」



そして見慣れない天井を見ていると、リオレッドの部屋の天井が恋しくなった。じぃじが私のために作ってくれた、20歳にはかわいすぎるくらい可愛い部屋の、あの天井。



ああ、そうか。

これって、ホームシックだ。



テムライムの人たちはみんなとてもいい人だし、私を大歓迎で迎えてくれた。本当にここに来てよかったと思うし、みんなのためになりたいとも思う。

でもやっぱり、20年間暮らしてきたリオレッドを離れて、いつもそばにいてくれたパパやママ、メイサにすぐ会えないっていうのは、思っている以上に精神的な負担になっていたみたいだ。


今まではエバンさんがいてくれたからそれを感じることもなかったんだけど、いなくなってしまったせいで、ホームシックを強く感じてしまった自分に初めてそこで気が付いた。



「きっと元気にされてます。リア様もよく寝て、早く元気になられてください。」

「そうね、そうする。」



どうしたらこの胸の空白が埋められるのか分からなくて、途方に暮れた。

もう寝て意識を失うしか方法が思いつかなかった私は、ティーナの言う通りそっと目を閉じて、ゆっくり寝ることにした。

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