第76話 いや、ここは大奥かいっ!
「お待ちしておりました。」
あっという間にルミエラスに到着した。
前はもっと時間がかかった気がするのに、あっという間に感じたのはやっぱり色々考えこんでしまったせいだろうか。
行きたくなかった、せいだろうか。
これ以上何も考えたくなくて、船を降りてすぐ出迎えてくれたヒヨルドさんが連れてきてくれた馬車に乗った。そしてそこでウィルさんに、あっさりとお別れを言った。
「またすぐ会えますね、きっと。今度はルミエラス側で交渉の場につかせていただきます。」
「そりゃ手ごわい敵が出来てしまったね。」
出来るだけ明るく言うと、ウィルさんも明るく返してくれた。最後に「みなさんによろしく」とだけ言って、私の家となるお城へと向かった。ウィルさんがどんな顔をしているのか気になったけど、もう絶対に後ろは振り返らなかった。
☆
「お待ち申し上げておりました。」
お城に着くと、こちらの人たちはみんな明るく出迎えてくれた。
あんなに悲しい別れをしてきたからやっと明るく接してもらえたことが嬉しくなって、「はじめまして」の声が少し大きくなってしまった気がする。
「こちらがお部屋になります。」
来るのは2回目だけど、やっぱり豪華なお城の中は何度見ても素晴らしい。いちいち豪華な装飾に見とれながらお城の中を進んでいくと、メイド長さんみたいな人が、奥の方の扉を一つ開けた。
私はその奥に自分の部屋があるんだと思った。
でもその扉の奥に続いていたのはピンク色で統一された通路で、その通路にはさらに4つの扉があった。
「ここって…。」
「こちら、王妃様方のお部屋になります。」
「王妃様…方?」
"方"ってなんなんだよ。
思わず食い気味でそうツッコみそうになるのを抑えて聞き返すと、メイド長さんは不思議そうな顔で私をみた。
「はい。こちらではすでに第一王妃様と第二王妃様、そして第三王妃様がお住まいです。」
「え…?!」
え、待って待って。
ってことは、ってことはだよ…?
ってことは…。
「私って…。」
「はい。第四王妃様でございます。」
いや、大奥かよ!!!!!!
と、小さな私がツッコんでいた。
え、あんだけ一生の別れしてきたのに、
私4番目の女ってこと?
最悪すぎだろ、あのくそじじぃの4番目って!
よ!ん!ば!ん!め!!!!!!!!
「こちらです。」
キモすぎる。どう考えてもきもすぎる。
断れよ、過去の私!断ってくれよ!
今考えたら確かにおかしい。
アイツどう見ても40代な気がするのに、
それまで結婚してないとか王様なのにありえないよね。
いやいやいやいやいや…
「アリア様?」
「あ、はい。し、失礼いたします。」
感傷に浸っている暇なんて全くなく、内なる私はずっとツッコミを続けていた。だからと言って「じゃあやめます」なんて出来ないのは分かっていたことだから、私は天使の仮面をかぶったまま、悪趣味なほどピンクな部屋へと足を踏み入れた。
「この後、王様がすぐにでも会いたいと仰せられております。」
「かしこまりました。少しお直しさせていただきます。」
ティーナは丁寧にメイド長さんにそう言って、ドアを閉めてくれた。
私はというとツッコミと移動につかれたせいか、デジャブと言わんばかりにベッドへとダイブしてみせた。
「ねぇ、ティーナ。」
私がいつもこうしているせいで、ティーナはダイブしたところで驚かなくなってしまった。今だって私のことは無視して準備を進めながら、「なんでしょう」と言った。
「私、四番目だってさ。」
「ご存じなかったのですか?」
「いや、誰も言ってくれないし。」
"知ってました"ってテンションで、ティーナは言った。
もしかして私が知らなかっただけで、ルミエラスのあのじじぃにたくさん嫁がいるのって、有名な話なのかなと思った。
「ってかこの部屋、まじで悪趣味じゃない?最悪。落ち着かなさすぎる。」
「リア様。聞こえますよ。」
ティーナはやっぱり冷静に言って、私の体を起こした。昔はあんなに動揺ばかりしていたはずなのに、私といるせいで肝が据わってしまったなと思った。
「私、他の女とうまくやれる自信ない。だって絶対よく思われないじゃん。」
後から入ってきた新しい王妃を、今までいた人たちが歓迎するわけがないと思った。その上私はリオレッドという異国から来た身であり、この国ではほぼ絶滅しているに等しい、エルフ族だ。
そんなのどう考えても3人の王妃が良しとするはずがない。
「確かにそれはそうかもしれません。」
私はどこかで、「そんなことないですよ」を待っていたのかもしれない。なのにティーナは励ましてくれることもなく、珍しくストレートに言った。
「でも…。」
その後すぐに、ティーナは付け足すように言った。これ以上何を言われるんだろうと身構えていると、今度は私をみてにっこりと笑った。
「でも間違いなく、リア様が一番美しくて賢いです。」
他の女のことなんて何も知らないだろうに、ティーナは自信満々に言った。それがなんだかおかしくなって、私は思わず笑って「ありがとう」と言った。
まだ切り替えが出来ていない私とは反対に、ティーナはテキパキと動いて私をベッドから無理やり鏡台へ連れて行った。
「では、はじめますね。」
「はい。」
いつの間にかたくましくなったティーナの顔を鏡越しに見て、一緒に来てくれて本当によかったと思った。もし一人だったらもうすでにホームシックになっていたかもしれない。
「ありがとう。」
「まだ終わってないです。」
これからきっと私には、大変なことや辛いこともたくさん待っている。
でもティーナに"犠牲になった"なんて思わせないためにも、私はこの国の王妃として、ティーナが誇れる私でいようと心に決めた。
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