第23話 始めてくる場所、見るもの

それからティーナが急いで支度をしてくれて、私は何とか朝ご飯に間に合った。会場にテムライムの人がいたらどうしようと少し緊張をしたけど、そこにいたのはみんな見慣れた人たちで、ひとまずホッとした。



「おはよう。」



パパは私の顔を見るなり、何事もなかったかのようににっこりと笑って挨拶をしてくれた。



「昨日は本当にごめんなさい。」



他の人も同じようにあいさつをしてくれたのにさらに罪悪感が加速して、深く頭を下げて謝った。するとパパは「大丈夫」と言って席に座るよう促してくれた。



「長旅で疲れてるだろうからって、王様も言ってくださったよ。それに無理やり起こせばいいところ、パパがやめてって言ったんだからリアは悪くないよ。」

「でも、みんな疲れてるのは同じなのに…。」



一緒に来た人たちだって同じように疲れているだろうに、私だけ朝まで寝てしまった。やっぱりそれが申し訳なくて出してもらった朝ご飯にも手を付けないでいると、パパは「リア」と私を優しく呼んだ。



「リアはとっても賢いし、大人に負けないほどの発想力があるけど、まだ子供なんだ。気を使うことはない。」

「パパ…。」



パパはやっぱりすごく優しい。優しくされればされるほど申し訳ない気持ちが育ちそうな気もしたけど、私は何とかそれをおさえて「ありがとう」と言った。



「早く食べなさい。今日はとりあえず街を視察するから。」

「はい。」



昨日からご飯を食べていないってのもあって、お腹がペコペコに減っていた。その上殺人級のいい香りがさっきから部屋中にただよっていたから、我慢できなくなった私は、目の前の料理をガツガツと食べ始めた。



「失礼します。」



ちょうど朝ご飯が終わった頃、ドアをノックする音と同時に誰かが入ってきた。お腹がいっぱい過ぎてまた眠くなりそうだな、なんて考えながらそちらを見ると、入ってきたその人はテムライムの制服みたいなものを身につけていた。



「おはようございます。」



誰かは分からないけど、とりあえず立ち上がって挨拶はしておいた。するとその人はパパたちに昨日のお礼なんかを言った後、私の方に寄ってきた。



「初めまして。テムライム王国にて運送を任されることとなりました、ロッタ・ラスマンと申します。」

「昨晩は失礼いたしました。リオレッド王国サンチェス家長女のアリア・サンチェスと申します。」


自己紹介してくれたその人は、いわゆるテムライムで言うパパの役割を担うことになった人だった。王様は私のアドバイス通り、早速担当者をつけてくれたのかということが少しうれしくなってしまった。



「いいえ、こちらこそ。ご負担をかけるとは思いますが、よろしくお願いします。」

「お力になれるか分かりませんが…。全力を尽くします。」

「それでは早速参りましょうか。」



王様は今日もくると言ったらしいけど、王様が街を歩けば国民たちが緊張してしまうから普段の生活が見られないと言ってパパはそれをお断りしたらしい。テムライムの王様もすごくいい人だからいいんだけど、いるとやっぱり私も緊張してしまう。


心の中で"ナイスっ!"とパパにグーサインを出しながら、私たちはロッタさんに連れられるがまま、馬車リゼルに乗り込んだ。



「こちらから何箇所か案内させていただきますが、途中で気になることや見たいところがあったら何なりとおっしゃってください。」

「はい。」



その言葉通り、ロッタさんは街をめぐりながらいろいろな場所に案内してくれた。隣国と言っても雰囲気が全然違ったし、立ち並んでいるお店も全然違った。来るまではいきたくないと思っていた私だけど、しばらくはその景色に見とれていた。



この世界に転生してから17年間、私はとても狭い世界で生きていたみたいだ。でもこの世界にもいろいろな国があって、それぞれに文化がある。




「…すごい。」

「リアは初めて見るもんな。」

「うん。街並みも文化も全て特色があって…。本当にすごい。自分の足で歩いてみたい。」



運送のことを考えなきゃいけないなんてことすっかり忘れて、私はしばらく初めてのものすべてに感動し続けた。

途中でパパが真剣な顔で街並みを眺めているのにやっと気づいて一瞬何か真面目なことを考えてみようと思ったけど、やっぱり意識はすぐに初めてみるものに惹かれていった。そして街並みを眺めているうちに、近く見て見たいという気持ちが、どんどん大きくなっていた。

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