第34話 小さい恋、みーっつっけた!


「クソガキ!来たか!」


日に日にアルの態度は悪くなっていった。私はそれに毎回イラっとしていたけど、メイサに怒られないように、こちらは丁寧なあいさつを返していた。



腑に落ちん。



「アル様。本日も外でお勉強しましょうか。」

「おう!そうしよう!」



アルはメイサにも慣れてきたみたいで、メイサに対してもそんな態度をとる。私のメイサになんて失礼な口の利き方をするんだって本当は怒りたかったけど、それも我慢するしかない。



「リア様、参りましょう。」

「はぁい。」



正直言って、アルとの勉強はほんっっとに退屈だ。一人で勉強していた時の方が何倍も楽しかった。それにそもそも、5歳児と10歳児が同じ内容を勉強するなんて普通に考えておかしい。

通常なら私がついていけないってなるんだろうけど、私の中身は34歳だし、それにアルの中身はたぶん5歳児にも達していない。


だから私たちは毎日同じことを勉強しているんだけど、アルの進みが遅いせいで退屈で退屈で仕方がない。


でもパパはメイサから私とアルの様子を聞いて、「友達ができてよかったな」なんて言ってくる。こんなやつ友達でもなんでもないって思ってるけど、私はパパの前では天使でいるために、毎回元気に「うん」って答えている。



「それでここは…。」



今日もメイサは苦戦しながら、アルに丁寧に勉強を教えている。退屈であることには変わりないけど、最近外で勉強出来るようになってからは眺めるものがいっぱいあるし、なにより気分がいいからまだ耐えられる。

私はメイサの言葉を音楽みたいに聞き流しながら、ボーっと周りを眺めた。



カルカロフ家のキレイな庭には、交代で警備をしている部下の人たちが何人か立っている。メイサの話によると、その人たちもカルカロフ家の人たちと同じように警察みたいな役割はしているけど、階級で言えば私と同じらしい。


マールンの中でも剣術や武術に秀でた人たちは、騎士団への入団試験を受けて騎士になれる。



っていうことはあのお兄さんたち強いってことね…。



それにしても、こんなところで立っているだけの仕事、暇でしかないよね。

動いていないといられない性格の私には到底つとまりそうにない仕事だな~と思いながらじっくりみていると、その中の一人が、こちらを見ているのが目に入ってきた。




あの人って…。




その人はこの間、ジルにぃの後ろを歩いていた部下の一人で、メイサのことをジッと見つめていた人だ。今日もその人は職務放棄をしてメイサのことを見つめているように見えて、私は逆にその人にくぎ付けになっていた。




――――なるほど、好きになっちゃったのね。



その目を見てすぐ、分かってしまった。あの人はきっとメイサに一目惚れをしたんだ。


5歳をしていると色恋沙汰からしばらく遠ざかってしまっていた。こんな身近で甘酸っぱい話を見つけられるなんてなと、思わずにやけている私がいた。



「リア様、どうされました?」



意識を完全に勉強から飛ばしている私に、メイサは言った。私は視線をすぐにメイサの方に戻して、「なんでもない」と言ってごまかした。



「ねぇ、メイサ。私疲れちゃった。ちょっと休憩していい?」



本当は疲れてなんてないけど、いてもたってもいられなくなった私は、メイサにそう提案した。するとメイサも「そうですね、少し休憩しましょう」と同調してくれたから、私はそれを合図に席を勢い良く立った。



「ちょっと走ってくる!」

「リア様!」



休憩だと言っているのに、私は駆けだした。後ろでクソガキが何かを叫んでいる声が聞こえたけど、私はそれを気にすることもなくとりあえず全力で走った。

ストレートにお兄さんのところにいくと、メイサがすぐにたどり着いてしまうかもしれない。だから私はメイサもアルも見えない位置から大きく回り込んで、さっきのお兄さんに近寄っていった。



「ねぇ、お兄さん。」



背後からそっと近づいて、小さい声で話しかけた。お兄さんは私に気が付かなかったみたいで、ビクッと肩を揺らして後ろを振り返った。



武士が背後を取られるなんて、どういうことだと思った。



「私、アリア。アリア・サンチェス。」

「は、はい。存じ上げております。」



私たちは同じ身分にいるはずだ。でも私は王様に呼ばれたこともある天才児っていう評判が回っているせいか、お兄さんはこんな幼女に体を固くしたままそう言った。



「お名前は、なんですか?」

「あ、はい。レオンと申します。」

「レオンさん。」



「初めまして」と、今度は丁寧にあいさつをした。するとお兄さんも敬礼をしてみせてくれた。



「レオンさん。」



もし話してみてきもいやつだったら、メイサから遠ざけようと思っていた。でもレオンさんからは何となく悪い印象は感じられなかったし、何より子供の私にも丁寧に接してくれるなんて、真面目でいい人なんだろうなと思った。

だから私はにっこり笑ってお兄さんの警戒心を解いた後、ストレートに聞いてみることにした。



「レオンさんさ。メイサのこと、好きなの?」

「えぇ…っ?!?」



レオンさんは大げさに驚いて言った。私にはそれがもう、「そうです」っていう答えに聞こえて、思わずにやけてしまった。



「リアに任せて!」



私がそう言った頃には、レオンさんの大きな声を聞いて私に気づいたメイサが、こちらに走ってきていた。レオンさんはメイサが近づいてくるのを見て頬を赤く染めていて、それがうぶで、とてもかわいかった。



「リア様!勝手に走ってはダメです!」



メイサは息を切らして走ってきて、レオンさんに「すみません」と謝った。レオンさんはそれだけで顔を赤くして体をこわばらせて、「とんでもないです!」とまたおおきな声で言った。




「おい、リア!お前悪い子だな!兄ちゃんに言いつけるぞ!」




その時アルが、思いっきり邪魔をしながら言った。

今後は絶対邪魔するなよって思いながらにらみつけると、アルは「お前なんて全然怖くないよ!」と言ってさらにからかってきた。



「リア!アル!」



するとその時、遠くの方からまた大好きな声が聞こえた。私は反射みたいに反応して、その声の方に勢いよく走り出した。



「リア様!ダメです!」



後ろでメイサが私を呼ぶ声が聞こえていたけど、私は声の方に走り続けた。

すると声の方にはやっぱりジルにぃがいて、なんとその横には、久しぶりに登場したこわ顔おじさんが、こちらをにらみつけながら歩いてくるのが見えた。

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