第28話 カルカロフ家御一行に出会うの巻


「ん…っ、パパァ?」



目を覚ますと、私はパパの背中に乗っていた。パパは私が起きた声を聞いて「おはよう」と言った。


「王様は…?」

「もう今お城から出るところだよ。また来てねって言ってくださったよ。」


よく見てみると、私たちは朝通った道を帰っていた。前にはミアさんが歩いていて、辺りは少し暗くなり始めていた。



「パパ。」



王様も王妃様もとてもいい人だった。

とはいえやっぱり緊張していたらしい私は、一気に緊張がとけてパパの背中に抱き着いた。



「よく頑張ったね、リア。」

ワッフルせんべい、美味しかったよ。」



パパが少し困った顔をして笑うから、私は元気だよって伝えるために出来るだけ元気にそう言った。するとパパも表情を崩して笑って、「よかったな」と言ってくれた。



「…ゾルド様。」



するとその時、前を歩いていたミアさんがピタッと止まってあのポーズをした。何があったのかとパパの背中から覗いてみると、ミアさんの前にはいかにも強そうな見た目で大きな剣を腰に差したおじさんが立っていた。



「お久しぶりです、ゾルド様。」



するとパパも、ミアさんに続いて敬礼をした。パパが片手で私を持つから思わず落ちそうになって、小さく「きゃあ」と声をあげてしまった。



「リア、すまん。」



パパは私をそっとおろして、自分の前に出した。



「娘の、アリアです。」



パパは焦って私に何も言わないまま紹介してきたけど、私は空気を読んで今日何度目かも分からない「はじめまして」の挨拶をした。



「王に、呼ばれたと聞いている。」



おじさんは私のあざとさなんて無視して、厳しい声で言った。手ごわそうねと思いながら、私は挨拶の姿勢を崩した。


「はい。先ほどまでお伺いしておりました。」


パパがそう言うと、怖いおじさんは私の方に視線を落とした。

まるでウマスズメに始めて出会った時みたいな動物的恐怖を感じた私は、思わず後ずさりしてパパの足に隠れた。



「おい、アル。」


怖いおじさんは怖い顔をして私を見たまま、誰かを呼んだ。すると後ろの方からぴょっこりと、小さな男の子が出てきた。


"小さな男の子"とは言ったけど、今の年齢で言うと私より少し上だと思う。多分9歳か10歳かそのくらいのアルとよばれたその子は、不愛想な顔をしてこわ顔おじさんの横に立った。



「ご挨拶。」



こわ顔おじさんはすごく厳しい声で言った。すると男の子はみんながするみたいに敬礼のポーズをとって、ビシッと立った。



「カルカロフ家三男 アラスターと申します。」



子供らしくもなく、男の子はきっちりとした挨拶をした。こわ顔おじさんが相変わらず怖い顔をしているから私はパパの足の後ろに隠れたままでいたんだけど、パパはそんな私の背中を押した。



「ほら、リアもご挨拶を。」

「いやぁ…。」



あの目に殺される。

本能がそう判断してしまっている私は、パパの足をがっちりと掴んでそこから動けなくなった。それでもパパは私を前に出そうとしていると、こわ顔おじさんの後ろの方から、若いお兄さんが歩いてくるのが見えた。



「お父様。」



そのお兄さんはおじさんの横まで来て軽く敬礼をした。そしてこちらに向かっても同じポーズをとって、「ゴードンさん、お久しぶりです」と言った。



「ジル君、久しぶりだね。」



パパがそう言ったのを聞いて、お兄さんは敬礼をやめた。そして少しだけ前に進んできて、ゆっくりとしゃがんだ。



「初めまして、お嬢さん。」



こわ顔おじさんにどことなく顔が似ているから、多分あの不愛想男の子のお兄さんなのだろう。それなのにこの人だけは柔らかい笑顔で笑って、私にも敬礼してくれた。



「はじめまちて、アリア・サンチェスともうちましゅ。」



やっと緊張を崩した私は、作法を丁寧にした。するとお兄さんはもっとふわっと笑って、「上手に出来ました」と言ってくれた。



「お父様、いつまでもそんな怖い顔をされていると、小さい子は勘違いしてしまいますよ。」

「怖い顔なんてしておらん。」



めちゃくちゃ怖い顔で、おじさんは言った。

ジルさんは「はあ」とため息をついて、「アリアちゃんごめんね」と言った。



「もともとああいう顔なんだ。怒ってないから大丈夫だよ。」



ジルさんは聞こえないくらいの小さい声でそう言って、私の頭を撫でた。

多分このお兄さんは、年齢は18歳くらいだと思う。こわ顔おじさんと同じように腰には大きな剣を指していて、おでこには傷跡みたいなものがあった。



「弟も愛想なくてごめんね。でも本当は前から会いたがってたんだよ。」

「そんなことない!」



アルは顔を真っ赤にして、ジルさんのいう事を否定していた。


――――照れてやがんな、かわいい奴め。


心の中ではからかいながら、「お会いできて光栄です」と大人びたことを言っておいた。



「ジル。行くぞ。」

「はっ。」



おじさんはずっと怖い顔をしたまま、ジルさんにも指示をだした。その声を聞いてジルさんはさっきとは別人みたいにキリっとした顔をして、こわ顔おじさんの後ろに走って向かった。



「それではゴードン、またな。」

「はい。」


お父さんが敬礼をするから、私もカルカロフ家とその家来たち御一行に挨拶してみせた。最後までおじさんとクソガキは不愛想だったけど、ジルさんだけは表情を崩して手を振ってくれた。

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