第5話 朗報です、私にチャンスが与えられたそうです


輪っかを取り付けた天使は、またこれもわざとらしく指をパチンとならして、今度は天使っぽい羽根を出現させた。何もかも胡散臭いし、今何が起こっているのかも全く把握できなくて、夢なら早く覚めてくれと思った。



「私があなたに用意したチャンスが、異世界への転生のチャンスです。」



私が疑っていることなんて気にすることもなく、天使はやっぱり笑ったままそう言った。


最近、転生するのってすごい流行りですもんね。

一人の時間を謳歌するあまり、アニメを少し見すぎたかなと、今になって反省した。



「菜月さんにはこの理不尽な死を迎える前に、転生を選択できるチャンスが与えられました。」

「はあ。」

「大チャンスですよ!」



天使は本気でそう言っているみたいに見えた。でも本気で言われたところで、やっぱり全然ピンとは来ない。



「転生を選ばなかったら、どうなるの?」



もう意味がわからないからこんな申し出は無視すればいい。

半分そう思って言うと、天使はやっぱりニコニコ顔を崩さなかった。



「転生を選ばなかった場合、その後の行き先については私にもわかりません。でも恐らく、好条件で転生できるという可能性は低いと思われます!」

「じゃあ今転生すれば、好条件で転生できるの?!」



そう言えば最近はやっている転生と言えば、無敵なスキルを手に入れたり王女になったりと、そんなのが多い。特に秀でたものもない私でもそうなれるのかと期待して聞くと、天使は初めて表情を困ったような顔に変えた。



「う~ん。そうですね。悪条件にはなりませんが、菜月さんの想像されている王女みたいな地位になれるのかと言われれば、それも私にはわかりません。」



いい加減な転生だなと思った。

そもそもってなんなんだ。


いよいよ私もそこで、自分の頭がおかしくなりはじめたのを感じた。



「行き先は抽選なんです。」

「抽選…。」

「ええ。主に人口の減っている異世界へ転生していただきますが、行き先に関して保証はできません。」


人口が減っている異世界って…。

私が住んでいる地球では人口がどんどん増加中みたいだけど、人口が減っているところもあるんですねと、冷静なことを考えた。



「なんにせよ、見ず知らずの女の方に殺されて人生を終えるなんて、そんなの理不尽だと思いませんか?」

「確かに。」



それは確かにそうだ。

私の人生なんて人に自慢できたような素晴らしいものでも何でもないけど、少なくとも田中華なんて聞いたこともない女に刺されて終わらせていいものではないと、そう思う。



「いやいや、と言いましても。急に天使だの死にますだの言われても私だって"はいそうですか、転生します"とはお答えしかねます。」

「確かに。そうですよね!」



天使は明るくそう言って、くるっと一回転した。私は知らないうちになぜか正座で、陽気な天使を見つめていた。



「それでは信じていただくためにも、一度戻っていただきましょう!」

「はあ。」

「目を覚まされますと、南出様より連絡が入っています。カラオケのお誘いです。そして実際カラオケに行った後、南出様はこういいます。」



いつしか私は正座をしたまま、前のめりになって天使の話を聞いていた。こんなこと起こっているはずがないのに、なぜか夢だと思いきれないのはあまりに感覚がリアルだからだろうか。



「"俺、初めて会った日からなっちゃんに恋してる。返事は急がなくていいけど、そう言うつもりで俺と会ってほしい。"と。」

「なるほど。」



天使は南出さんの顔真似をしながら言った。全くもって似ていなかった。


いや、それにしても。

全然納得はしていないけど、予知夢だとしたら最高過ぎる。

いやいやってことは、そのあとに私が襲われて死ぬところまで、本当になる、のか…?



「わからんな。」

「そうですね、分からないと思います!ですのでぜひ体験してから、どうするか決めてください。」

「え、あ、はい。」



まだ私が戸惑っている間に、天使は「またお会いしましょう」と言って指パッチンをした。

その瞬間に私の目はばっちりと開いて、目の前には見慣れた部屋の光景が広がっていた。

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