リッチ・マリア〝クラン〟

重永東維

プロローグ

 いち華の母「しず江」が〝誘拐〟されたのは、ちょうど半年前のことだった。日の沈みかけた夕暮れ時、二人で歩いてたところを熊に襲われたという。それも、見たこともないような大きな熊に遭遇したという話だった。

 いくら都会はずれの山村とはいえ、ここは腐っても東京。

 ……少々奇妙な話だ。たとえ熊が出たとしても精々、ツキノワグマと言われる小型の熊ぐらいだろう。本来であれば熊は臆病な生き物。腹を空かせて集落に降りてくることも滅多になく、集落の老人たちさえ、ここ数年は見た覚えがないと口を揃えていたほどだ。仮に、ヒグマのような大きな熊が出たとしても、その痕跡を猟友会の連中が見逃すはずもなかった。

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