第3話

「じゃあさ、お兄ちゃんの目の前にいる女の子はどんな子?」

「どんな子って言われても。」


「お兄ちゃんが思ったことを言ってみて。」

「それじゃ、妹。」


 やっぱりあたしのことは妹としてしか見ていない。

 相変わらず鈍い人だ。

 ストレートに言うより、自分の頭で考えさせたほうがいいかな。

 ちょっとは自覚して貰わないと二人の関係は何も進展しない。



「他には?」

「他?他か・・。じゃあ、背が高いけど可愛い顔をしてる。」


「うんうん。他には?」

「眼が綺麗で、長い髪も綺麗。」


「そうなんだ。他には?」

「頬っぺたが柔らかくて、とてもいい匂いがする。」


「そうだね。他には?」

「怒ると怖い。」


「それはお兄ちゃんが悪い。」

「うっ。」


「もっと他には?」

「優しいし、横顔が綺麗。」


「なるほど。他には?」

「手足が長くて、スタイルもいいしモデルみたい。」


「へえ~。他には?」

「う~ん。」


「もう無いの?」

「あの、言っても怒らないかな?」


「怒らないから言ってみて。」

「お、おっぱいが大きいです。」

 優人が恥ずかしそうに顔を背ける。


「ちゃんと言えましたね。えらいえらい。」

 雪奈が身を乗り出して、優人の頭を撫でた。


「どうして褒められたのか分からないんだけど。」

「次の問題に移りたかったからね。」

 雪奈は、組んでいた足を戻し膝を揃えて座り直した。


「じゃあね。今度は、あたしの体を触ってみて。」

 雪奈が膝に手を置き少し身を乗り出した。


「えーと、どこでもいいのか?」

「うん、いいよ。」

「それじゃ、ここかな。」

 優人が、雪奈の膝の上に置かれた手の甲の上に自分の手を置いた。


「あのね。滅多に触らないところを触ってみて。」

「そういうことならここかな。」

 雪奈の膝に触る。


「他には?」

「ここだな。」

 雪奈の二の腕をぷにぷにする。


「他は?」

「じゃあ、ここ。」

 手を伸ばして、雪奈の耳たぶを指で摘まむ。


「お、いいね。他には?」

「何がいいのか分からんが、ここだな。」

 雪奈の鼻を摘まむ。


「どうして鼻を摘まむの?」

 雪奈の眉がぴくりと動いた。


「えっ、だってどこでもいいって。」

「もっとさ、ほら触ってみたいところがあるでしょ。」


「どこだろ?」

「女の子がどこでも触っていいって言ったら、あそこしかないでしょ。」


「あそこと言われてもな。」

「ほれほれ。」


 そう言って、雪奈が背筋を伸ばし柔らかそうな胸を突き出した。


「うっ、そ、そこを触れということか。」

「触ってみたいでしょ。」

 雪奈がニヤニヤしながら優人を見ている。


「そ、そんなところは触らないぞ。」

「いいから触りなさい。」


「ど、どうして?」

「男の子ならおっぱいに触りたいでしょ。」


「い、いやしかしだな。」

「早く触れ。」


「くっ。あ、兄は妹の胸なんか触らないぞ。」

「はぁ、またそれなの?」


「大体だな。兄にとって妹の胸なんぞ無用の長物だ。」

「もうっ。ほんとめんどくさいんだから。」


「当たり前のことを言ったまでだ。」

「じゃ、手を貸して。」


「何をするんだ?」

「いいから。」


 おずおずと優人が右手を差し出した。

 その手首を、雪奈が右手でがっちりと掴み自分に引き寄せる。

 優人の体が前のめりになった。


「えっ?やめて。何か怖い。」

 優人が怯えた表情を見せる。


「胸を触るのはだめなんでしょ。」

「と、当然だ。」

「ならここかな。」


 雪奈は、左手でスカートの裾を持ち上げ、優人の右手をスカートの中に差し込んだ。

 自分でも大胆な行動だと思うが、これぐらいしないと分かって貰えない。

 店員の目が気になるが、背中で隠しているので見られていないはずだ。


「な、何するのっ!雪奈さんっ!」

 雪奈のその行為に驚いて、優人の声が上ずった。


「女の子にこんなことしたことないでしょ。」

「あ、当たり前だ。」

 雪奈の柔らかな太腿から、手の平に温もりが伝わってくる。

 手の甲に触れているつるつるしたスカートの裏地が心地良かった。


「もう手を放していいよ。」

「まったく。何てことをするんだ、この妹は。」

 優人がスカートの中から自分の手を素早く引っ込めた。


「ふふ。これで結論が出たでしょ。」

 相変わらず、雪奈はニヤニヤしながら優人を見ている。


「え、結論て?」

「さっき彼女が欲しいって言ってたこと。」


「それとこれがどう繋がるんだ?」

「だから、お兄ちゃんには彼女が必要ないってことだよ。」


「えっ、オレには彼女がいらないの?」

「そんなのいらないでしょ。」


「どうして?」

「もうっ!ほんと鈍いんだから。」


「そんなこと言われてもだな。」

「あたしのことを、可愛くてスタイルが良くて胸が大きいって言ったでしょ。」


「うん。言ったな。」

「そんな女の子のスカートの中に手を入れたんだよ。」


「い、いや。あれは雪奈が勝手に。」

「あたしが勝手にやったとしても、どこでも触れるんだよ。」


「さ、触らないぞ。」

「だからね、可愛くていつでも体を触れる女の子が側にいるの。」


 雪奈の瞳がキラキラ輝いている。

 彼女にするなら理想的な女の子がここにいた。


「ああ、ようやく分かった。つまり、オレには彼女みたいな存在がもういるってことだな。」

「そういうこと。あたしがいれば、他の女の子はいらないでしょ。」

「そ、そうだな。雪奈の言うとおりだ。」

 でもやっぱり妹と彼女は違う、という言葉を優人は飲み込んだ。

 野暮なことを言って、雪奈の機嫌を損ねたくなかった。


「あたしがお兄ちゃんの彼女になってあげるね。」


 雪奈が満面の笑顔でそう宣言した。

 自分の手を優人の手の上に優しく添える。

 これで二人の距離はぐっと縮まるに違いない。


「あ、ありがとう。」

 口元がやや引きつりながら、優人はその手を軽く握った。

 だが、兄妹として一定の距離は保って置かないといけない。


「うふふ。彼女がいるんだから、もうあんなことをしたらダメだからね。」

 雪奈が握っている手に力を込めた。目が笑っていない。


「は、はい。肝に銘じておきます。」

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