第14話

 中間テストが始まった。

 テスト期間中は午前中で学校が終わる。

 優人は、特に急ぎもせず教室を出て、靴を履き換えて玄関口を出た。

「お兄ちゃん。」

 雪奈が、待っていたのか声をかけてきた。

「今日は一人か?」

 周りに雪奈の友達がいない。

「うん。明日はみんなでお昼ご飯を食べる約束だから、今日は何も無いよ。」

「そっか。」

 二人並んで歩き出した。

「お兄ちゃん、テストはどう?」

 そう言いながら、雪奈が左手で、優人の右手を握ってくる。

 近くにいる生徒達が見てくるが、雪奈はまったく気にしていない。

 優人のほうも、雪奈がそうしてくるのは慣れっこなので気にならなかった。

「今回は、なかなかいい感じだな。」

「ふーん。」

 雪奈が不機嫌そうな声を出した。

 どうしたのかな、と優人が雪奈ほうを見る。

 雪奈は、大きな眼を少し細めて、真っ直ぐ前を見ていた。

 五月中旬を過ぎた暖かな風が、雪奈の柔らかな髪を優しくなびかせていた。

「雪奈はどんな感じ?」

 優人が話題を変えるために質問をした。

「あたしはいつも通りだよ。」

 雪奈は、集中力があるため、そんなに勉強をしていなくても毎回平均点以上は取ってくる。入学試験みたいな特別なときだけは、毎日ずっと机に向かっていた。なるべく勉強以外のことに時間を使いたいのだろう。

「雪奈は頭がいいからな。」

「そんなことより、お兄ちゃん。」

「ん?」

「勝負のこと忘れてないよね?」

「うっ。」

 不機嫌の理由はそれだったのか。優人は顔色を隠すために俯いた。

「ゆ、雪奈さんは、忘れてなかったのね。」

「あんな大事なこと、忘れるわけないでしょ。」

「そ、そうなんだ。」

「テストが終わったら、毎日お兄ちゃんのカバンの中身をチェックするからね。」

「えっ、う、うそっ?もしかして、服のポケットなんかも見ちゃうの?」

 思わず、優人が顔を上げて大きな声を出し、狼狽しながら雪奈を見つめた。

「へえー、ポケットに入るぐらい小さいものなんだぁ。」

 雪奈が握っていた手に力を込めた。雪奈の眼が座っている。

「ひっ!」

 優人が、雪奈の視線に耐えられず顔を背けた。

「ひょっとしてあれかなあ?」

「な、何?」

「漫画とか?」

「そ、そうね。」

 雪奈の勘違いに、優人はほっとしていた。

 まさか下着だとは思っていないようだ。

 雪奈には、あの冷徹そうな霧沢の雰囲気からは想像がつかないのだろう。

「先輩、漫画コーナーにいたし、文庫サイズならポケットに入るしなあ。」

 雪奈は、思案顔で、自分が辿り着いた答えを反芻している。

 ちゃんと考えておかないとな。

 優人は優人で、下着を貰った後のことを、考えていなかった自分の愚かさを悔いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る