人形と言う生き物

「改めましてー、わたしは“Homunculus:works317ホムンクルスワークスサンイチナナ”通称ミイナです」


部屋にやってきたミイナはそう名乗った。


「ホムンクルスってことは…本当に人造人間なの?」


「はい。マスターに創っていただいた人形ですよ?」


「うにょ~!そのマスターって人に会ってみたいにゃ~」


「やめといたほうがいいぞ。代わりに何されるかわからないからな」


驚きを隠せないトウヤと、嬉しそうに興奮するリンシェン。


科学世界ではホムンクルスは有名な存在のようだ。


「そのワークスって言うのはどういう意味?」


「マスターの戦闘型メイドを総称してそう呼ばれています。

他にも愛玩型とマスターの趣味の一部として創られているのもいますよ」


「にゃあにゃあ、触ってもいいか?」


「どうぞー」


「うにょ!?肌触り本物見たいにゃ」


「マスター好みの肌を使っているそうですよ」


「にゅふ、にゅふふ、もっと触っていたいにゃ」


「おい!」


リンシェンが変な方向に目覚めそうだ。


「317と言うのは番号か?ってことは君みたいなのが他に三百人以上いるのか?」


「はい。見た目はみんなバラバラですがワークスだけで四百近くいるはずです」


「あ、あのーそろそろいいかな?」


ホムンクルスと言うものに興味津々のトウヤとリンシェンの質問攻めが終わる気配が無いので、

クルルは無理矢理でも割って止めた。


「交流は後でね。今は当初の目的の話を進めましょ?」


「早く決めて練習に入った方がいいぞ」


「あ、ああ。そうだな」


でゅふでゅふ言いながら触りまくるリンシェンを引き剥がしながらトウヤは席に着いた。


どっちが年上なのやら。


「でー、わたしへのお願いとはどういったご用件でしょうか?」


「それはね、ミイナにストームギアの大会に参加してほしいのよ。

昔かなり上手に乗ってたでしょ?だからいい戦力になるんじゃないかなって思ったのよ」


「わたしよりも上手なのはいますよ?ニイナとかコロちゃんとかすごいですよ?」


「いやいや、ニイナちゃんはともかく、コロちゃんはマズイでしょ?

それにワークスの中で一番私達に協力的で、こういうの頼めるのはミイナだけだと思うよ?」


「んーそうでしょうか?」


「ま、身内と他人の評価は変わるでしょ?…で、ミイナ的にはどう?興味ある?」


「そうですね、わたし個人では面白そうだと思います。

あとは……マスターへはわたしからお願いした方が良さそうですね」


「そうしてもらえると助かるわ」


あっさりとても戦力になりそうな人が仲間になった。


「マスターってそんなに面倒なの?」


トウヤが素朴な疑問を投げかけると

「とんでもなーい!マスターはとても素晴らしい方ですよー」

と褒めるミイナに対して、クルル、ミナ、ルーは一様に引きつった顔をしていた。


ミイナは造られた人形、おそらく忠誠心も植え付けられているだろう。


となると他のメンバーの反応が正しい可能性が高い。


能力としては一目置くほど高いかもしれないが、人としては性格に難ありと言ったところだろう。


面倒な人物であることは何となくわかった気がする。




「誰!?」


さっそく練習を始めることになったが、全く知らない人が現れた。


「こっちがクルル、こっちがミイナだよ。

二人とも有名人で身元を隠さないと騒ぎになりかねないから変身魔法を使ってるんだ」


「この姿の時はミオって呼んでね」


「わたしはナナでお願いしまーす」


変身魔法で見た目はもちろん、クルルの特徴的な髪色も変化している。


「でも声は変わらないんだな」


「そりゃあ見た目だけの魔法だからな」


「声でバレるんじゃね?」


「そ、そうかな?」


トウヤは親しい間柄でなければ、どちらかと言うと声で人を判断している。


しかし一般的には人を見た目で判断するようなので問題ないかもしれない。


「まあ騒ぎになる程度でしょ?そこまで気にすることないかな?」


「そ・ん・にゃ・こ・と・よ・り・も!おいらは二人の能力を見てみたいにゃ!」


割って入ってきたリンシェンが話の話題を変える。


「私は“祈り歌の毒オラトリオ”と言う生物を召喚する魔法よ」


聖譚歌オラトリオ…だから星歌の君なのか…」


「うにゅ?どういう事にゃ?」


聖譚歌オラトリオ、つまり歌を歌うことで召喚するんじゃないか?」


「え!?ええ、よくわかったわね」


「地球にも聖譚歌オラトリオって言う祈りの歌があるからね」


「おみゃあ変な事ばかり知ってるにゃ」


「…一応、教会で育った人間だからな。そういう基礎的なことは知ってるよ」


「ん?歌の意味はわかったが、星はどこから来てるにゃ?」


「たぶん花の形だ。アマリリスって花は星の形をしているからな。

聖譚歌オラトリオと星の花で星歌の君ということじゃないかな?」


「す、すごい。よく知ってるわね」


「たまたま知っていただけだよ。でも歌を歌うなら能力でバレるんじゃないか?」


「声量は関係ないわ。小声で歌っていれば問題ないし、媒体も少しあれば十分よ」


「媒体?」


「私の魔法の条件よ。召喚する生物と同じ色の媒体が必要なの」


「へぇ、じゃあ妨害面は問題なさそうだよね。ミイナはどんな魔法使うの?」


「わたしは兵器の生成が得意なんですー」


そういうとミイナの腕から幾つもの銃口が現れた。


「うお!?これ打てるの?」


「もちろん、連射も出来ますよー」


「砲撃主でランナーとして一流。このチームの切り札だな」


「レースの時はもっと強力な腕と足に取り換えておくので期待してください」


「へ!?取り換える?どういうこと?」


「わたしは人形なので換えが利くんですー」


ミイナはそう言いながら腕を外して見せた。


「うにゃ!?」「う!?え!?え!?」


あまりの光景にトウヤとリンシェンは驚き、混乱した。


「こらミイナ。前にいきなり見せちゃダメって言ったでしょ?」


「あー、そうでしたー。すみませーん」


事情を知っていたクルル達は冷静だった。


ミイナの腕は魔方陣で切断面を覆っていて血などは出なかったが痛そうな光景である。


「ってかそうやって簡単に腕を切るとか平然とやるなよ」


「えー?どうしてですかー?」


「どうしてって…痛くないのかよ」


「わたしは人形なので痛覚が鈍く造られているんですよー。だから全然痛くないんですー」


「だからって簡単に外すなよ」


「そういう造りなんですよー?」


「そうでも外すなよ」


「何でですかぁー?」


「はいストップ!」


トウヤとミイナの長く続きそうな問答を止めたのはクルルだった。


「そうやって簡単に外してるけど、それなりの魔力を使っているんだから、

大事な所で使えなくなったら困るでしょ?」


「大丈夫ですよー。魔力は多い方ですからー」


「それでもよ。お願いね」


「んーそうですねー。マスターも無駄は極力無くすべきって言ってましたねー」


しっくりとこないがミイナは納得したようだ。


「キミもミイナに関しては割り切ったほうがいいよ?」


「割り切ったって…」


「彼女は私達と根本的に違うの。だからキミが感じた不快感もわからないのよ」


「不快感って…」


「そんなんじゃあんたが参っちゃうわよ」


トウヤの肩にルーがポンと手を置き、マッサージするように動かす。


「でも…」


「あんたそういうとこ子供よね」


「はあ!?」


気にしなければいいものを気にして勝手に参ってしまう。


トウヤにはそれがうまく出来ないようだった。

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