~楽園崩壊~ 異世界転生した僕は闇組織に奴隷として過ごしていたがドMだった為、楽園の様な環境だったのに……どこかの国がその場所を潰して勝手に僕を保護してしまった。

糖来 入吐

失われた楽園編

第1話助けられた子供

凍てつく寒さ、薄汚れた壁、害虫が湧いている石畳、悪臭のする牢獄、血の染み着いた布切れが落ちていた。

とても人が住める状態でなく、それを証明するように死臭が漂っていた。

そして、続く廊下には無数の牢屋がありその中に腐ったような死体もあった。

そんな中1人の女性が走っていた。

すると


「ううおおおおおおおおおお!! 糞おおおおおおおおお!」


と襲い掛かってくるフードを被った男が剣で叩き切ろうとするが、


「フン!!」


ズパン!!


「ぐがああ!!」


とその襲い掛かる直線を避けてそのまま流れるように持っていた剣で切り裂いた。


ブシャアア!


と血が一気に噴き出しながらそのままバタンと倒れ込む。

女性は鎧に包まれながらも銀色の髪を揺らしながら走っていた。

するともう1人女性が現れた。

その女性はもう1人の女性と同じような鎧に包まれており紫の髪の色と碧い瞳のおっとりとした女性であった。

彼女は悔しそうな表情で


「リブアイ聖騎士長……牢屋に入っている者達は全員死んでおります……おそらく減った分を補充する為に外に出てきた組織の者を着けてしまったようです」


握り拳を作りながら報告した。

それを聞いてリブアイと呼ばれた女性は


「そうか……だがそれでも誰が生き残っているかもしれない……まだ諦める段階ではない……しっかり探すんだ」


と悲しそうな表情をしながらも部下を励ました。

そんな時だった。


「グラアアアアア! てめえら! よくもやってくれたな! この採掘主任のジョイミール様がお相手してやる!」


とムキムキの薄汚れた鎧を着た女であるかも分からないぐらいの男勝りな表情をした女が現れた。

ジェイミーと名乗った女は大きな斧を振り上げながら


「ダリャアアアアアアアアアアアアアアア!!」


と声を上げ思いっきり振り下ろした。

ゴシャアアア!!

と轟音が鳴り響きながら土埃が舞う。

そして、視界が元に戻った時地面は大きく抉れていた。

だがそこには先程のリブアイと呼ばれた女性ともう1人の女性はすでにいなかった。


「な! ドっどこに!!」


と慌てながらあたりを見回す。


「ここだ」

「!!」


との声と共に

スパン!

と音が鳴った瞬間、ジェイミーの視界が思いっきり下がった。


「へ? 何が……」

ゴシャ!!


と呆けていると頭が地面にぶつかった音が耳元に鳴る。


「へ……」


とジェイミーが言った瞬間意識が途絶えた。

そして


ブシャアアアアアアアアアア!


と先程まであったジェイミーの顔面は首から落ちており、そこから大量の出血をさせながら体が崩れ落ちる。

リブアイは


「行くぞ……見つけ出すんだ……誰か……生き残っている子がいると信じて……1人でも多く……」


と言いながら険しい表情で走る。

しかし、どこを探しても死臭を巻き散されており、そこには子供達の無惨な姿しかいなかった。

それを見て


「糞おおお!! 糞! 糞! 糞おおおおおお!!」


とリブアイは壁をドンドンと拳を叩きつける。

悔し涙を流しながら


「……どうして……いつも間に合わないんだ……」


と膝を落とした。

その時だった。


「リブアイ聖騎士長!」


と先程の女性の声がした。

リブアイはハッとなり涙を拭い、すぐさま声のする方へと走った。

そして、


「生存者を見つけました……ただ……」


と言って目をやると

そこには栗色のボサボサとした髪の少し筋肉質のある少年がいた。


「ハア……ハア……」


その少年は息を荒く頬に熱を帯びていた。

それを見てリブアイは


「まずい! 早くこの子を医務室に運ぶべ!! 早く!! ベリダ!」


と言って足を持った。

ベリダはすぐに反応して頭を持った。

そして、2人は生存者であるその子供を運んでいった。

そこにはセミロングの髪色は黒、眠たそうな目で瞳がグレー、のっぺりとした顔の女性がいた。


「ナンジーさん! 生存者です! お願いします! 酷い熱を!」


とナンジーと呼ばれた女性に言った。

ナンジ―は眠たそうな目を擦りながら


「了解した」


と言ってその少年を抱えて連れて行った。

そして、2人は再び牢屋に入れられている子供達を探しに行った。

しかし、見つけ出せた子供はその少年1人のみで他の子供達は全員死んでいた。

ある者は血にまみれて、ある者は疫病に掛かって、ある者は自らの命を絶ったのか、鋭いいしで首を掻っ切っていた。

それぞれが絶望の表情でその場に倒れていたのであった。


--------------------------------------------------------


その後少年は王城の医務室へと連れて行かれた。

そこは、布で敷居がされていて、ベッドが数台置かれていた。

その一つに寝かされている少年の周りにリブアイとベリダが立っていた。

リブアイは眠っている少年の頭を撫でながら


「結局、見つかったのはこの少年だけか……」


悲しそうな表情で少年を見つめた。

それを聞いてベリダも


「はい……そのようです……」


と暗い表情で頷いた。

リブアイは


「すまなかった……我々がもう少し早く見つけていれば、お前の友達を救えたかもしれないのに……」


と俯きながら少年の頭を撫でた。

それを聞いてベリダは


「リブアイ聖騎士長のせいではありません!! これも全てデンダ―組織のせいです!!」

「分かっている! だが自分の不甲斐なさが情けない!!」


と言ったがすぐさまリブアイに言い返された。


デンダ―組織とは

捨てられそうな子供を親から多額の値で買い取りや攫った子供を奴隷のように酷使し、壊れた子供の臓器を売ってお金を稼いだり、綺麗な娘の場合は人に倍の値段で売りつけたりする人身系統の組織である。

中には麻薬や洗脳した戦闘員を売りつけて戦争の道具にしていたりする。

子供以外にも借金をした大人を攫うこともある。

そこに攫われると二度と帰ってくることはないと言われている。

かなり巨大な組織であり、どこかの国と繋がっているという噂もある。

しかし、その実態はまだまだ謎に包まれていた。


「しかし、この少年1人だけでも救えたことに神様に感謝をしないといけないな……誰も救えなかったと思うと……」


リブアイはそんな状況を想像しただけで身震いをした。

ベリダも


「そうですね……そんな事考えたくもありません」


と辛そうな表情になりリブアイに寄り掛かる。

その後、2人は自分の業務に戻り少年の回復を待った。

そして、2時間後

ナンジ―医師に呼ばれて2人は少年のいる部屋へと向かった。


「お待たせ、もう大丈夫でしょう、次期意識も回復します、強い子ですよ、体の傷も殆どなく、あの環境下でもちゃんと生きていたのですから、傷の方は魔法で回復出来ました、衰弱の方は栄養のあるものを液体にして飲ませましたので後は目覚めるのを待つだけです」


と疲れたように言った。

それを聞いて2人は


「ありがとうございます! ナンジー医師!! 感謝します!」

「良かったですね……本当に……」


とリブアイは嬉しそうにナンジー医師の手を握り、ベリダは目に涙を浮かべながら頭を下げた。


「何かあったら呼んでください、私は今日の負傷者を見てきますので」

「はい、何から何まで本当にありがとうございます!」

「いえいえ、これが私の仕事ですから」


と笑顔でその部屋から出て行った。

そして、


「良かったですね!! リブアイ聖騎士長!!」

「ああ! 本当に良かった……」


と嬉しそうに2人は喜んだ。

しかし、リブアイはすぐに浮かない顔になった。

それを見てベリダは


「どうかしました?」


と不思議そうにしながら聞いた。

するとリブアイは


「いや、あの子の仲間達を救う事を言わないといけないからな……喜んでもいられない」


と辛そうにしながら少年を見つめる。

それを聞いてベリダは


「確かにそうですね……それでも……」


と言いながら少年を見て辛そうにするリブアイに


「それでもちゃんと伝えるべきです……変に誤魔化してしまう方がこの少年の為にもなりません」


とリブアイの手を握りながら言った。


「そうだな……我々の務めだ……怖気ついてなどいられない」


とまっすぐ前を向いた。

それを見てナンジーは


「取り敢えず様子を見に来てください、声を掛ければ目が覚めるかもしれません」


と言って2人を連れて医務室へと向かった。

部屋に入ると少年は少し顔色を良くした状態で眠っていた。

そして、3人が近づいた瞬間


「うう……うう」


と振り絞るように声を出した。

リブアイは


「!! 気が付いたか!」


と言ってすぐに駆け寄った。

少年は眩しそうにしながら目を開けて


「ここは……」


とリブアイの方へと視線を向けて質問をした。

リブアイは


「ここはジャーティス国の王国の医療所だ……デンター組織にいた君を救助してここへ連れてきた」


と話した。

それを聞いて少年は目を見開きながら


「えっと……そのデンター組織は? 労働は?」


と震える声で聞いた。

リブアイは


「大丈夫だ、追ってくることは無い、君がいた施設の者は全て倒した、しかし君以外の子供達は全て殺されていた……だが君は生きている! だから世界に絶望しないでくれ!」


と優しい表情で言った。

しかし少年は震えながら涙をボロボロと流し始めた。

それを見てナンジーは


(やはりショックが大きいか……それも当然か……支え合った仲間が死んだと聞いて平気でいられるわけがない……)


と考えていた。

すると少年は


「なんてことだ……何という事だ……どうして……どうして……」


と頭を抱える。

リブアイもベリダも申し訳なさそうにする。

少年は涙をこぼしながら


「どう……てえ……」

「?? 何か言ったか?」

とボソっと言った少年にリブアイが聞き返すと少年は悲鳴を上がる様に


「僕の楽園を壊したというんだあああああああああああああああああああ!! うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


と言いながら泣き出した。

3人は


「「「!?」」」


と予想外の言葉に言葉を詰まらした。

だがそんなことお構いなしに少年は


「どうじてえええええええ!! どうじでええええええええ!! 俺の! 俺の楽園ガアアアアアアア!!」


とベッドを両手で殴りながら泣き叫んだ。


「お! 落ち着け! もう大丈夫なんだぞ! 君はもうあそこで苦しむ必要はないんだ!」


とリブアイは少年を落ち着かせようとする。

しかし、少年は


「分かってない……分かってないよ! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! 僕にとってあそこは! あそここそが居場所だったのにいいいいいいいいいい!」


と絶望しながら泣き続ける。

ナンジ―はそんな少年を見て異常に感じた。

少年がデンター組織を居場所と言った。

そんな酷い怪我を負っているにもかかわらず少年は苦しそうに絶望していたのである。

普通ならばあそこから助けられれば泣くにしても絶望することは無いとばかり思っていた。

しかし、そんな常識を覆すように少年は泣き続ける。

ナンジ―は今見ている光景を信じることが出来なかった。

そして、ナンジーはこう考えた。


(まさか! この子に対して何か洗脳の様な事を施したの! そうでもないとここまであの組織に! あんなおぞましい組織に拘る理由がない! まさか! あの組織に入る前に親に虐待され捨てられた可能性もある! こんなただの少年を! 彼は……彼は今までどんな酷い生活を送って来たというの!)


と様々な想像を巡らせながら少年を見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る