第17話 弓の青年

 ブリザード国の街はずれ──


 ここではレヴェルトの話よりも、こちらの話題が重要であった。


 「ゼラード王のこともそうだが、こっちの方が俺たちにとっては一大事よ。連合がまた五帝王相手に戦を起こすらしい」


 「魔王の次はどちらを狙うのかね」


 「だが魔王の時も多くの犠牲を出して何とか勝ったて話だろう」


 「また人が死ぬのか」


 連合軍。

 五帝王に対抗すべく組織された国々の集合連合軍。

 人外の力を持っている五帝王は誰かの力を頼らずとも、国を守ることが出来る。だが、他の国々がそうというわけでは無い。

 彼らが何万という軍を持っていようとも五帝王の前ではただの紙切れ同然。

 そのため、彼らは戦力が必要であった。

 生贄を用いた勇者召喚。

 レヴェルトが呼ばれたのもこの勇者召喚である。この召喚は国々で行われていたが、ある時一人の男が言った。協力すれば勇者だけの軍隊が作れるのではないかと。

 国々がその意見に同意した。彼らは強い生贄を差し出し、より強いものを召喚する。そうして五帝王にも匹敵する最強軍隊を作り上げた。

 魔王掃討大戦によって五帝王の一人を倒すことに成功したが、五帝王たる実力は本物で、多くの犠牲を出すことになった。

 その連合がまたしても五帝王に宣戦を布告した。そのことに住民は気が気ではない。


 街の人がそのように話していると、少し日焼けのした、ガタイのいい青年が話しかけてくる。


 「その話、詳しく聞かせてくれ」


 赤い剛弓を持った、爽やかな青年だ。年の頃は17だろうか?いかにも若い弓兵といった感じだ。


 「んっ?兄ちゃん弓兵かい?ずいぶんいい弓持ってるねー」


 「おっ!わかるかい!これはうちの爺様の代から伝わる弓でね。これが引くのにえらい苦労すんだよ」


 そう言うと中年の男性が周りをキョロキョロして様子をうかがう。

 どうしたのだろうか?と思ったが、その男性が肩を掴んでひそひそと耳に声をかける。


 「おいおい、ここでそんな話しちゃいかんよ。その大事な弓取られちまうぞ」


 ──なんだそんなことか。


 青年は胸を撫で下ろす。

 何か自分が失礼なことをしたかと思ったため、心配して損した。


 「大丈夫だって!どうせ使えやしねぇよ。ほら引いてみるかい」


 そうやって青年は弓を男の人に渡す。


 「おっ、兄ちゃん舐めない方がいいぜ。今は商人だが、昔は冒険者だったんだ。こんな弓くらい……」


 どうということは無いと言って男は弓の弦を引くがびくともしない。

 それどころか自分の指がちぎれるのではと思うほどであった。


 「なんだこの弓は……びくともしねぇ!」


 「なっ、言っただろう!」


 男は何とか引いてみようと躍起になっていたが、指が痛んできたので諦めた。


 「ああ、これじゃあ誰も扱えねぇから盗んだところで値打ちもつきやしねぇ。

 だけどよ兄ちゃん。あんたは本当にその弓を引けるのか?」


 「やってみるかい?ほら、貸してみな!」


 男が手渡すと、青年は「ふん!」言って、いとも簡単に引いて見せたのだった。


 「うおっ! 嘘だろ!」


 「だから俺にしかできないって言ったろ」


 「指とか大丈夫か?」


 「おおよ!問題ない!」

 

 男性は手の指を見たが、傷一つ付いていない。そして気づいたが、その男の指は常人よりもかなり太かった。

 きっと相当な鍛錬をしたに違いない。男は元冒険者の血が騒いだのか、青年に興味がわいた。


 「こりゃたまげた!すげぇよあんた!」


 青年は褒められて照れ臭そうにしていたが、話を本題に戻す。


 「でさぁ、さっきの続きなんだけど……」


 「ああ、分かってるって。まぁ、奢ってやる!あっちの店で話してやるよ」


 男は青年にそう言って飲み屋に入って行ったのだった。

 男は少しのご飯と酒を頼み、会話を楽しむ。


 「おお、ここの酒もまたうまい」

 

 「おっ、気に入ったかい。ここは俺の行きつけでな。よく来るんだよ」


 「へぇ」


 冒険者時代の話や、鍛錬の話を交えながら昼間から酒を飲む。

 そして本題の連合の情勢について話した。

 しばらく話した後、男は寂しそう言う。


 「そうか、また連合が……」


 「ああ、次はどのくらい死ぬのかね」


 「そうだな、ありがとよ!奢ってもらっちまって」


 青年は席を立つ。


 「いいってことよ!いいもん見せてもらったし。ところでよ兄ちゃん!名前はなんていうんだい?」


 男がそう言うと、青年が振り返り言った。


 「ガラシュールだ」

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