別世界の王のDifferent world 金彩の戦火

白糸総長

一章 召喚と圧倒的な力

第1話 異世界召喚

 輝く王。

 

 優しくて、誇り高い。

 この世のすべてに絶望しながらも、民を見捨てることをしなかった。

 その姿は太陽のように眩しく。地上を照らし、導いていた。

 争いを好みはするが、無駄な殺生はしない。

 神に近い力をつけ、まるで制裁を与えるように邪魔をする者を排除する。


 ええ。そう──

 

 私は知っている。

 その輝きは世界を照らしている。

 運命はこれからの道を照らしている。


 いつかは離れ、ピタリと消えてしまう。

 だがその時まで、世界の巨悪を引き裂きながらまた戻ってくれる。

 

 黄金に輝き、地上を明るく照らす船と一緒に。


 ──また戻ってきてくれる。


                  ⚔

                  

              別世界の王のDifferent world 金彩の戦火


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 異世界。

 現実とはかけ離れた世界。

 剣、魔法、神。

 それぞれが、人々の幻想の中にある幻。

 だが、この話は獣人、エルフはいない。

 人間自身の純粋な戦い。

 正義を語る王たちの戦い。

 だが共通する願いは、人々の平和。

 欲はあれど、人の理を反することは無い。

 約束された地、ヴァルガン大陸。

 物語の異世界。

 五十ある国が争い、殺し合い。自分の利、民の利のために戦い合う。

 


 サブラダ王国──

 

 自分の利益のために動く数少ない強欲で色欲の王ゼラードが統治する国だ。

 全体の半分が砂漠に覆われ、王の私欲によりここに住まうものはみんな貧困に耐え、苦しい生活を余儀なくされていた。

 

 東の砂漠地帯──

 

 ここに一人の騎士が地に伏せながらも何かを書こうと必死になっていた。

 

 「おのれ……あの王め。最初からそのつもりか」


 騎士は誰かへの恨み言を、血を吐きながらつぶやいている。

 かなりの距離を這いずりまわる跡が、地面にくっきり残っていた。


 「勇者として戦い、魔王を滅ぼしたのもすべては己の私欲のため、己の領地拡大のためであったか」


 勇者と名乗るその男は全身血まみれで、その命は風前の灯火。だが男は何か、魔法陣のようなものを書いている様子であった。

 月明かりに照らされ、騎士の銀色の鎧がその光を反射する。


 「私は最後まで……あの忌々しき王の傀儡であった。

 ならば、たとえこの命が尽きようとも、残りのすべての魔力を使い貴様らの陰謀を阻む者をここに、神に等しき存在を呼び出すこの禁忌!!使わざるしてなんとする!」


 暗く気温も低い砂漠で、流れ出る血により己の体温が低くなっていくのを感じながら、一人の騎士はまるで己の恨みを示すがごとく、自らの血で召喚の陣を描く。


 「私の残りの魔力ならば、弓の大英雄やすべての聖剣を統べる聖なる王に匹敵する者を召喚できるはずだ」


 男は、己の勇者としての可能性を信じる。

 自分も召喚された者ならば、少なからずこの国の人間よりは、もっと強い人間を召喚できる。そう考えていた。


 「必ずや我が妻、剣聖レイナの仇、そして我が恨み必ずや」


 騎士は掌の血が少なくなると自らをまた切りつけ、大きな魔法陣を描く。その大きさは半径五メートルほどあり。常人には絶対に不可能であろう複雑な模様が描かれている。

 月明かりに照らされ赤く照るその様は、騎士の恨みを象徴していた。


 「これで、できた」


 男は残りの命を削りながらも作り上げた魔法陣を見ながら、喜びに打ち震え、涙を流していた。

 

 男は見てしまったのだ、妻の遺体を。

 妻と共に戦い、男は各国の軍隊と共に魔王を滅ぼすことに成功した。

 その戦いの後、妻への愛に目覚めていた勇者は、意を決して告白した。

 妻は頬を朱に染めながらも了承して、新婚の幸せな生活を送っていた。

 自分を召喚したゼラード王に騙し討ちされるまでは……

 王は英雄としてもてはやされ、栄光を手にしていた男を疎ましく思っていた。

 勇者が帰ると、木に磔にされた妻の姿があった。

 そう、王は勇者がいないうちに一族もろとも殺していたのだ。

 怒りに打ち震え、王を討ち取ろうと単騎で突入を図ったが、圧倒的武力を前に敗北し、命も消えかかる結果となった。

 

 だが、その怒りは消えない。

 そして男は一矢報いるために、最強の者をここに召喚する。

 男は魔法陣に手を掲げ詠唱を始めた。


 「──我が声を聞き給え。森羅万象の門の守護者」


 赤い血で作られた魔法陣が光る。

 そして、中心に浮かび上がった生贄を求める門が開く。


 『──願いを求める』


 門から男の低い声が聞こえるが、男はそれに臆することなく続ける。


 「──我が願いをここに乞う。この我が恨み晴らすため、我が妻の仇を取るため、そのお力を貸していただき、必ずや我が願いを果たせるものをここに召喚していただくことを我は願う」

 

 『──承認』


 魔法陣の一番中心の円に光が灯る。


 『──生贄を求める』


 門の中から生贄の提示を求められる。

 男はそのまま門からの求めに応じ続ける。


 「──汝との約定に我は生贄を差し出す」


 男がそのように言うと、門から真っ白な手が伸びてきた。

 男は掌に魔力の塊を作ると、魔法陣の門から伸びる手に渡す。

 そして差し出す生贄を述べる。


 「我が提示したる生贄は我がすべての魔力。そして足りない分はこの命で補おう!」


 『──承認』


 男がそう言うと、門から伸びる白い手が突如男の腹を突き破る。

 

 「ゴフッ!」


 男はあまりの痛みに口から大量の血を吐き散らす。

 だが、勇者のため容易には死ねない。

 男は簡単に死ぬことを許されない痛みに必死で抗った。

 それは門より承認の声を聴くために──


 『──承認。条件は満たされた』


 門から承認の声を聞き届ける。


 「おぉ、私の声が受け入れられた」


 求めに応じられたことに感動を覚え、騎士は再度大粒の涙を流していた。

 今、この痛みも復讐のための代価なら安いと思えるほどの感動である。

 そんな男をよそに門は召喚の儀を続ける。


 『──天上天下を治め、その頂点となった王。レヴェルトの召喚を開始』


 そう言うと門は消え、魔法陣で溢れる魔力の流れが大きくなる。

 見よ!今、魔力の光が魔法陣から放たれる様を。

 もう終わりだゼラード。

 今、私が召喚したこの者が貴様を地獄へ突き落してくれよう。

 この我が恨みを持って──


 目の前の魔法陣はその暗闇を照らすがごとく光り輝き、天までその光は伸びていった。

 その光は天を掻き回し、稲妻を発生させる。

 やがて光は人の形を作っていき、神であり、すべてを統べる王を召喚したのであった。


 「貴様か、人の分際で余を召喚した凡俗は」

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