43.第8階層青エリア - 第8清水町2 - 2 -
そこにいたのは町に入る時に翔琉たちにいちゃもんをつけてきた男たちだった。
通りに置かれた休憩用のテーブルでカップラーメンを食べている。
そしてそれは翔琉が買ってきた、一昨日発売したばかりの期間限定スパイシートムヤムクンラーメン海老とココナツ増量タイプだった。
「どうしたの?」
翔琉は不思議そうに聞いてきたナナの顔を無理やりテーブルに引き寄せた。
「しっ!みんな通りの向こうは見るな。ひょっとしたらあそこにいる奴らが何か知ってるかもしれない」
「は?どういうこと?」
「通りの向こうにいる男たち、あいつら青の湯から奪われたカップ麺を食ってるんだ」
「!?」
翔琉の言葉に一斉に緊張が走る。
「何故あれが君の持ってきたものだと分かるのだ?」
「あれは昨日発売されたばかりの新製品なんだ」
「…なるほど、しかしよく気付いたものだね」
美那が感心したように呟く。
(全くだ。よく気付いたよな)
(まあな。運び屋たるもの、自分の荷物が近くにあればわかるのよ)
感心する翔琉にリングが得意そうに答える。
「しかしどうしたもんかな。あいつらに聞いても素直に話してくれるとは思えないけど」
「私が後をつけようか?」
灯美の提案だったが美那は頭を横に振った。
「あれだけ騒ぎを起こしたのだ。怪しまれないためによほどのことがない限り連中のアジトに行くことはないだろう」
「じゃあどうすれば…」
「簡単なことさ」
美那がにやりと笑った。
「そのよほどのことを起こしてやればいい」
◆
「いやー、上手く盗賊が持っていってくれましたね」
突然横から聞こえてきた声にカップ麺を啜っていた
そこにいたのは男女の2人組だった。
隣にあった丸テーブルに向かい合わせに座り何やら熱心に話し込んでいる。
よくよく見るとそれは昨日あたり場尻の言うがままに大金を払ってきた若造と、金をせびろうとしてきっぱり断ってきた不気味な女だった。
(なんなんだ?あいつらコンビだったのかよ。ふん目障りな奴らだぜ)
カップラーメンを啜っている場尻の耳に2人の会話が漏れ聞こえてくる。
「予想以上に被害は大きかったけどとりあえず目的は達成しましたね」
翔琉は男がこちらの話を聞いているのを確認して話を続けた。
「ああ、吸熱石だけでなく私たちの用意した食料も持っていってくれたな。これでこの町を荒らしまわっていた盗賊たちもお終いだ」
美那が相づちを打つ。
その言葉に場尻の背筋は氷でも突っ込まれたかのような寒気に襲われた。
(どういうことだ?まさか今日の襲撃がばれていたってのか!?)
「場尻の兄貴、どうしたんすか?急に黙りこくっちまって」
「うるせえ!ちょっと黙ってろ!」
周りにいた子分たちが不思議そうな顔で尋ねてくるのを小声で叱責すると場尻は横にいる2人の会話に集中した。
「しかしえげつないこと考えますよね~。まさか持ち込んだ食料に毒を仕込むなんて」
翔琉は場尻には構わずに話を続けた。
「ククク、ネズミには毒餌と相場が決まっているからな。薄汚いラットライダーズ共には相応しい最期だろう?ダンジョン由来の猛毒を仕込んでやったのだ、遠からずあの無法者共に相応しい天罰が下るだろう」
美那も話を合わせている。
「それにしてもあえて全部には入れずに珍しい製品にだけ毒を入れるなんて上手いこと考えますよねえ~」
「ひょっとしたら部下に毒味をさせるかもしれないからな。トップ連中だけが食べるような新商品にのみ毒を仕込んだのだ。なんだったかな…確か…トムヤムなんとかだったか?」
場尻がポロリと箸を落とす。
それを見て美那は知らんぷりをして話を続けた。
「毒の効果は24時間後、猛烈な眠気から始まる。この時点でレベル10治療士が治療を行ったら助かるが、まず気付くものはいないだろうな。やがて全身を貫く痛みで目を覚ますわけだが、その時にはもう遅い。その後24時間続く地獄のような苦しみの果てに絶命することになる」
美那の話を聞いた場尻の顔からどっと汗が吹き出す。
「この毒は微かな酸味と辛みがあるのが特徴なのだがトムヤムクンの酸味が上手いこと消してくれるから食べる時にはまず気付かないだろうな。スープを一口でも啜れば致死量の毒を摂取することになる」
「奪ったものに毒が仕込まれいると悟ればラットライダーズも思い知るでしょうね。でも知らずに手引きした奴は無事では済まないでしょうねえ。生き残った連中からどんな目に遭わされることやら」
もはや2人の会話は場尻には届いていなかった。
フラフラと夢遊病のように立ち上がると席を去る。
「ば、場尻の兄貴、どこに行くんすか?」
子分共が慌てたように後を追う。
(今なら、今ならまだ間に合う!ラットライダーズのところには治療士もいたはずだ。事情を話せばきっと助けてくれるはず!きっと上手くいくはずだ!)
場尻は最悪の事態に慄きながらも早足で町を通り抜けていった。
◆
「上手くいったみたいですね」
町から消えていった場尻を見送って翔琉はほっと胸をなでおろした。
「連中の追跡は大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ないよ」
美那はそう言うと水晶球のような透明の球体を取り出した。
「こいつは追跡球といってマーカーを付けたモンスターの行動を調べるアイテムでね、さきほどあの男に付けたマーカーをこいつで追うことができる」
追跡球の中には小さな光が瞬いていて、それが徐々に下へと下がっているのが見える。
「ふん、やはり思った通りだ。連中は下の階層から来ているようだな。おそらく10層へ向かう秘密の通路があるのだろう。だが場所さえわかってしまえばこっちのものだ」
美那が危険な顔でにやりと笑った。
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