40.第8階層青エリア - 第8清水町 - 2 -
「すいません、食事から泊まるところまで用意してもらっちゃって」
翔琉たちは青の湯でモクレンの作る料理に舌鼓を打っていた。
「良いってことよ!たっぷり資材を持ってきてもらったからこっちも大助かりだよ。久しぶりに娑婆の料理も食べられるしね」
モクレンとその夫であるヒイラギは翔琉の持ってきたレトルトカレーを美味そうに食べている。
「下に長いこといるとこういう何でもないものが懐かしくてねえ」
「それにしても8層はこんなに拓けていたんですね。もっと人とか全然いないと思ってました」
「ハハハッ、それもこれも吸熱石のおかげさね」
翔琉の言葉にモクレンが豪快に笑った。
「吸熱石が発見されたおかげでここはダンジョンの中でも特に一獲千金を狙った連中が目指す場所になっちまったんだよ。おかげで私らみたいな商売人でも暮らしていけるって訳さ」
そう言うとモクレンは不意に沈んだ表情を見せた。
「そのせいでずいぶんとガラの悪い連中も集まってきちまったんだけどね…」
「それって、町に来る人間から金をせびってる奴らですか?」
先ほど出会った男たちを想像しながら聞いてみるとモクレンは顔をしかめながら頭を横に振った。
「あいつらも大概なんだけどね。それよりも酷いのが…」
モクレンが話を続けようとした時、突然外から怒声が聞こえてきた
「おい!てめえ!」
それは先ほど翔琉たちにたかってきた男たちの声だった。
外に出てみるとそこには男たちと1人の少女の姿があった。
いや、少女と見紛う背丈だったけどれっきとした大人の女性だ。
鍔広の帽子と肩口で切りそろえられた髪、金属フレームの眼鏡が印象的な、こじんまりとしてるけどすっきりした美しい顔立ちをしている。
「うるさいなあ。そんなに大きな声を出さなくても聞こえるとも」
その女性は自分よりはるかに体躯で勝る男たちに囲まれていても全く動じていないようだ。
「だったらさっさと出すもん出しやがれ。この町を通るには俺様たちに通行料を払う義務があんだよ。あんただって痛い目には遭いたくねえだろ?」
「ふん、そんな脅しは通用しないよ。大方君たちは訪問者を脅して金品を巻き上げる類なの輩だろう?そちらこそ悪いことは言わないからさっさと引き上げたまえ」
「てめっ…」
男たちの脅しを鼻で笑い飛ばす女性に男たちの額に血管が浮かび上がる。
「まずいぞ、早く止めないと!」
(いや、その必要はねーだろ)
止めに入ろうとした翔琉の頭にリングの声が響いた。
(どう考えてもあの姉ちゃんの方がつええよ)
(は?そんなわけ…えええええ?)
言われて改めてその女性を確認した翔琉は驚きに目を見張った。
その女性のレベルは周りにいる男たちとは文字通り桁が違っていた。
男たちのレベルはせいぜい8か9、大してその女性は10倍以上ある。
おそらくレベル90、いや100近くあるかもしれない。
「この
男の1人がその女性に掴みかかる。
が、胸倉を掴むや否や突然青い顔になり、苦し気に腹を押さえてうずくまった。
額には脂汗が浮かんでいる。
見る間に周りの男たちもばたばたと跪いた。
「て、てめ…何をしやが…」
「だから言っただろう?さっさと引き上げたまえと」
女性は薄い笑みを浮かべながら男たちを見下ろしている。
「ク、クソ…覚えていやがれ…」
典型的な捨て台詞を残しながら男たちはヨタヨタと逃げ去っていった。
「死ぬことはないから安心したまえ。まあしばらくはトイレにこもっているがいいさ」
女性は朗らかに笑いながら男たちを見送ると突然翔たちの方に振り返った。
そしてツカツカとこちらに歩み寄ってくる。
(な、なんだ?今度はこっちに来る気なのか?)
その女性は青の湯の前で足を止めると手を上げた。
「モクレンおばさん、お久しぶりです」
「あら、美那ちゃん!久しぶりじゃない!なんかずいぶん深いところまで行ってたそうじゃない!」
モクレンは嬉しそうにその女性に駆け寄り、強烈なハグをした。
(美那?それがこの人の名前なのか?)
「そういえばみんなは知らないかもしれないね。この人は美那ちゃんと言ってかの有名なケイブローグのメンバーなんだよ」
モクレンが振り返って翔琉たちに美那と呼ぶ女性を紹介した。
「初めまして。ケイブローグの泊式
泊式 美那はそう言って軽くお辞儀をした。
「こ、こちらこそどうもよろしく。僕の名前はカケルといって運び屋をしてます。こちらが治療士のナナ、忍のナイトライトです」
翔琉は美那に挨拶を返した。
「ケイブローグの一員ということは美那さんはダイゴと一緒にダンジョン探索をしているんですか?」
「カケル君と言ったかな、君のことはダイゴから聞いているよ。ずいぶんと面白いジョブを持っているそうじゃないか。それに…」
美那が眼鏡を持ち上げながら翔琉の方を向いた。
その眼の奥に好奇心の瞬きが見える。
「いや、それはまだいいか。ともかく君はなかなか興味深い存在のようだ。今後とも色々縁があるかもしれないからよろしく頼むよ」
そう言って右手を差し出す美那の目は全てを見透かすように翔琉を見つめている。
「こ…こちらこそよろしくお願いします」
その手を握り返しながら翔琉はまるで体の奥を覗かれているような気分になっていた。
(まさかとは思うけど…リングに気付いているのか?)
(それはあるかもな。この姉ちゃんのジョブは鑑定士だ。レベルは…100ってとこか。そのくらいあれば俺の存在くらいには気付くかもな)
(マ、マジかよ!)
翔琉は改めて美那の方を見た。
それに気づいた美那が笑みを返す。
「言い忘れていたが私のジョブは鑑定士でレベルは100だ。何かあったら遠慮なく聞いてきてくれて構わないよ」
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