30.第6階層藍エリア - 4 -
「んん…」
少女は軽く呻きながらうっすらと目を開けた。
(なんで私はこんな所に…)
しばらくの逡巡のあとで石喰いに襲われていたことを思いだす。
(確かあの時私の後を追って2人の男が…)
そこまで思い至って少女はがばりと身を起こした。
「あ、目を覚ました」
翔琉がそれを見て振り返った。
少女は素早く後ろに飛び退ろうとし…全身を貫く激痛に身をよじらせた。
「あ~、駄目だよ、動いちゃ。あなたさっき石喰いに巻き付かれたせいで何ヶ所か骨折してるから」
ナナの声も少女の耳には入っていないようだ。
脂汗を流しながら再び身を横たえた。
「…あなたが…助けてくれたの?」
少女は息を整えながら翔琉の方を向いた。
「俺だけじゃないけどね。とりあえず無事でよかったよ」
翔琉は石喰いの肉をかじりながら答えた。
今は真っ赤に焼いた石喰いの殻の上で先ほど見つけた新種のモンスターと石喰いの肉を焼いて食べている最中だ。
「これはタコとサザエを合わせたような美味さだな。ビールも持ってこればよかった」
「マジでそれ!今ならビールのミニ缶に1万まで出せる!」
オットシとダイゴが石喰いの肉に舌鼓を打ちながら盛り上がっている。
「よっしゃあー!レベル6治療士ゲットォ!」
ナナが突然叫んだ。
「ちょっと待っててね」
そう言うと少女の前に近寄り、手を差し出した。
「ダンジョン保険には入ってる?」
「?」
ナナの言葉に少女が不思議そうに首を振る。
「まあそうだよね~。本当だったらお金を取る所だけどそこのカケルが立て替えるって言ってるから特別に治したげる。お礼ならカケルに言ってね」
ナナはそう言うと治療を開始した。
ものの1分も立たないうちに少女の怪我は完全に治り再び立ち上がれるようになった。
「良かったらこっちに来て一緒に食べないか?」
翔琉の言葉に少女が口を開きかけたが同時に腹が大きな音を立てて鳴り、真っ赤な顔でうつむいた。
「別にどうこうする気はないからさ。ほら、まだ肉はいっぱいあるから食べていきなよ」
少女は顔を伏せながら翔琉の隣に腰を下ろし、渡された肉にかぶりついた。
「美味しいっ」
一口食べて驚いたように目を見開く。
「それは良かった」
翔琉の言葉に少女は頬を染めながらも手を止めずに食べ続けた。
「なんで私を助けたの…?」
人心地ついたのか食事の後で少女がポツリと漏らした。
「なんでと言うか…怪我人を放っておくことなんかできないよ」
「私はあなた達から魔石を盗んだのに」
「それはそれ、これはこれだよ。とはいえこれは俺たちに必要なものだから返してもらったけどね」
翔琉はそう言って淡く虹色に輝く魔石を取り出した。
「そう言えばまだ名前を言ってなかったね。俺の名前はカケル、ダンジョン名も本名も同じなんだ」
「…私は…ナイトライト」
少女はそう名乗った。
「そうか、じゃあナイトライト、経緯は色々あったけどとにかく無事でよかったよ」
翔琉がそう言って笑いかけるとナイトライトは悲しみとも悔恨ともとれる表情でうつむいた。
「…なんで、私を捕まえないの…」
それは自分を断罪してほしい、そう言っているようにも響いた。
「…そうだね…」
翔琉は上を向いて考えながら口を開いた。
「捕まえてほしいんなら捕まえるけど、ナイトライトがああしたのは何か事情があるんだろ?だったら警察に引き渡すよりもその事情を解決した方がいいのかもしれない。そう思ったからかな」
そう言ってナイトライトの方を向く。
「もし良かったら事情を話してくれないか?ひょっとしたら力になれるかもしれない。お金が必要なら一緒に稼ぐことだってできるんだし」
「相変わらずお人よしだね~」
ナナがトカゲの肉を齧りながらぼやいた。
「…お金は確かに欲しい…でも…それよりも私は居場所が必要なの」
ナイトライトがポツリとこぼした。
その言葉にみんなが静まり返る。
「…家出か…」
オットシが重々しく唸った。
「まあダンジョンでは珍しいことではないけど」
ボリボリと頭を掻きながらダイゴが呟く。
「…ひょっとして、まだ18歳以下?」
ナナの言葉にナイトライトは小さく頷いた。
ダンジョンは18歳以下が入る場合は親の承諾がいることになっている。
15歳以下の場合は保護者同伴でなければ入ることができない。
「「「う~ん…」」」
オットシ、ナナ、ダイゴの3人が大きな唸り声を上げた。
「未成年の家出となると…ちょっと、ねえ?」
「流石に親御さんに連絡を入れないわけには…」
「だよなあ…」
「それで、ナイトライトはどうしたい?家に帰りたい?それとも帰りたくない」
困り果てる3人に構わず翔琉が尋ねるとナイトライトは大きく首を振った。
「あそこには帰りたくない」
「そっか…じゃあそうしたらいいんじゃないか?」
あっけらかんと答える翔琉。
「ちょ、ちょっと、カケル!それは流石に不味いんじゃ…」
ナナが慌てたように翔琉の側に詰め寄った。
「いや、いいんだよ」
翔琉はナナに向かって首を振った。
「本人が帰りたくないというのを無理強いして帰らせても問題解決にはならない。それに帰らせることが必ず正しいという訳でもないしね」
「でも…」
「ともかく、ここは俺に任せてくれないかな」
翔琉はそう言うと改めてナイトライトに向き直った。
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