24.第5階層橙エリア
「それでまたダンジョンに潜るってわけなんだ」
「な、なんだよ、何か問題でもあるのか?」
「別にぃ~、ただあたしの頼みは断ったくせにそのヘキサって子の頼みは聞くんだ」
言い訳をする翔琉をナナがジト目で見てくる。
「だからそれはさっきも言っただろ。こっちにも事情があるんだよ」
翔琉とオットシ、ナナは再び九頭竜異港に来ていた。
「まあまあお二人とも、痴話げんかはそれくらいにして準備を進めないと」
「「痴話げんかじゃないです」」
オットシの言葉に二人が声を合わせて否定する。
「おっと、これは失礼。ともあれまずは買い出しに行かないか」
「「…わかりました」」
再び二人の言葉がはもる。
ともかく三人は異港の中にあるスーパーへと向かうことになった。
「それにしてもナナちゃんが来てくれるとはね。ひょっとしてこれはチャンスなんじゃないのか?」
買い物をしながらオットシがひそひそ声で翔琉に話しかけてきた。
「そんなんじゃないですってば。って言うかナナを誘ったのはオットシさんじゃないですか」
「いや~、最初は乗り気じゃなかったんだけどね、カケル君も来ると言ったら即座に行くと言ってきたよ。おいおい、これは脈ありなんじゃないの~?」
「いやいやいや」
(俺もそうだと思うぜ~。さっさと押し倒しちまえって)
オットシの言葉にリングが同意する。
(お前はちょっと黙ってろ)
「それにしても今回はやけに食べ物が多いですね」
翔琉が見ている中、オットシもナナもカートの中にどんどん食べ物を詰め込んでいる。
しかもチョコやキャンディ、チップス類、おにぎり、レトルト食品と言った駄菓子やチープな食べ物ばかりだ。
「今回は情報収集も兼ねてまずは町に向かうからね。そういう所では下手に金よりもこういう物の方が受けがいいんだよ」
「そ、特に5層まで下るとこういう物を持ってくる人が少なくなるからみんなお菓子とかチープなものに飢えてるんだよね」
ナナが頷きながら季節限定のお菓子をカートに落としていく。
「そういうものなんだ」
「ダンジョンに住んでる人はもう何年も地上に来てない人が多いからね。漫画とか雑誌、トイレットペーパーなんかも喜ばれるよ」
「中にはダンジョンの町にものを売って歩く行商人だっているんだよ。私もダンジョンに入りたての頃はよくやっていたもんだよ」
こうしてバックパックにどっさりと食料を詰め込んだ三人は第5層橙エリアに行くために出国ゲートへと向かっていった。
「カケル君…何故そんなものを買ったんだ?」
出国ゲートでオットシが不思議そうに翔琉を見てきた。
それもそのはずで、翔琉のバックパックには巨大なスレッジハンマーが突き刺さっていたからさ。
「…それが、自分でもよくわからないんです。何故か買わずにはいられなくて」
出国ゲートに向かう途中にあったホームセンターで翔琉は何かに導かれるようにこのハンマーを手にしていたのだった。
(そりゃおそらく俺のスキル、予知だな。まだ能力が完全に開放されたわけじゃねえから俺にもよくわからねえけど、おそらくそれが近いうちに役立つんだろうぜ)
頭の中にリングの言葉が響いてくる。
(こんなものが役に立つってどんなシチュエーションだよ!)
(さあな。鍛冶屋にでもなるんじゃねえの?)
「ま、まあどうしても持っていきたいなら止めはしないけど、重くないのかい?」
「ええ、それなら大丈夫です。なんかあまり重さを感じなくて」
「そ、そうかい…じゃあ行くとしようか」
こうして三人はゲートをくぐって第5階層へと入っていった。
「えーと…この場所だったら一番近い町は…」
「それだったらこっちにありますよ」
スマホで位置を確認しようとしたオットシに翔琉がそう答えながら指差した。
「ほ、本当だ…そっちに行けば30分ほどでオレンジ・ワンという橙エリアで最大の町がある。よくわかったね」
オットシは翔琉の言葉に目を丸くした。
「これも運び屋のスキルらしくて、頭の中に地図が浮かんでくるんです」
(エリアマッピングだな。まだ第5階層だから本調子じゃねえけどな)
「えーと、エリアマッピングというスキルだそうです」
翔琉はリングの言葉をそのまま言葉にした。
「…だそうです?」
「いやいや、エリアマッピング、です!」
「ふーん、とまあれかなり便利なスキルだね。私の持ってる探知よりもよっぽど役に立ちそうだな。レベル5でそんな広範囲までわかるなんて」
「アハハ、まあ運び屋ですから。それよりも早く行きましょう」
余計な突っ込みをされる前に翔琉は荷物を持って歩きだした。
「…結構人気がある場所なんですね。第5階層橙エリアと言うのは」
道すがら翔琉は周囲を見渡しながら呟いた。
壁にはジオタグを含め色んな標識が貼り付けられている。
「第5階層は現在最も人気がある階層だからね。1~4階層で経験を積んだ初心者の腕試し、あるいは更に下の階層を目指す冒険者のベースキャンプになっているんだ。特に橙エリアはその傾向が強いね」
「なるほど」
「ここから先は難易度が一気に上がるからここでスキルや装備を整える冒険者も多いんだよね。あたしもそろそろ5層より下を目指そうと思ってたところ」
ナナが隣で翔琉に話しかけてきた。
「オレンジ・ワンはそういう冒険者が一番集まってる町だけどそのせいで治安もそんなに良くないから気を付けた方が良いよ」
「そ、それは楽しみだ…」
そうこうしているうちに二人はオレンジ・ワンの町へとやってきた。
オレンジ・ワンは第2層のアズライトタウンよりも更に広く、四方500メートルほどの広さがあった。
街の中心に泉が湧いていて、そこから放射状に道が伸びている。
建物もアズライトタウンよりもしっかりとしたものが多く、道を行く人々も冒険者から町の住人と思しき人まで様々だった。
「ダンジョンにこんな広い空間があったんだ!」
「オレンジ・ワンはダンジョンの町でもかなり大きい方だからね。自治組織も運営されているくらい」
「それじゃあまずは聞き込みと行こうか」
こうして三人はオレンジ・ワンの町へと入っていった。
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