4.ダンジョン第1階層緑エリア - 3 -
「7割!?」
突然の言葉に翔琉は素っ頓狂な声をあげた。
「おいおい、当然だろ。私がボランティアでここまでしたと思っていたのか?」
オットシが呆れたように息を吐いた。
「ダンジョン初体験のカケル君に入り方からナビの使い方まで全部教えたんだ。これは当然の報酬だよ。それにカケル君も私がガイドすることを了承したじゃないか」
「そ、それは確かにその通りですけど…」
確かにオットシのガイドを受け入れたのは翔琉自身だ。
それにしても7割とは…
「納得できないのならそれでもいいけどね。その場合ここで契約終了だ。その場合カケル君は自力で戻ってもらうことになる。マーカー石は持っているのかい?」
「う…」
オットシの言葉に翔琉は言葉を詰まらせた。
もちろんマーカー石など持ってるわけもない。
「ひょっとして、オットシさんってそのために僕に声をかけたんですか?」
「その通り。初心者のためのガイドは需要が高いし安全で確実だからね。でもカケル君は私についてきて正解なんだぞ。中にはガイドと騙して身ぐるみ剥いでダンジョンに置き去りにする質の悪い連中もいるんだから」
オットシの言葉に翔琉は身震いした。
もしここで一人取り残されなんかしたら…
「…わかりました。それでいいです」
翔琉はため息とともに頷いた。
「それでいいんだ!まあ今回は授業料だと思って、次に頑張るといいよ」
オットシはそう言うとジュエルを2つに分けて自分の分を懐にしまい、マーカー石を取り出した。
「じゃあ帰ろうか」
「もう帰るんですか?」
「ああ、もうそろそろ日没の時間だ。不思議なことにこのダンジョンは地球上の時間と連動していて日没後はモンスターが凶暴になるんだ。このダンジョンの七不思議の一つだね。まあこのダンジョン自体が不思議そのものだから何があってもおかしくないんだけど」
オットシの言葉に翔琉の背筋が寒くなった。
ますますこんな所に一人でいるわけにはいかない。
翔琉が肩を掴むとオットシがマーカー石を地面に叩きつけた。。
マーカー石が明るく輝き二人の周囲が光に包まれ、気付いた時には入国ゲートの中に立っていた。
入国ゲートは巨大なホールのような空間になっていて、あちこちに冒険者たちが点在している。
ある者たちは声高に話し合い、他の冒険者に何かを売りつけようとしている者もいる。
出国ゲートとは違ってにぎやかなお祭り会場のような雰囲気だ。
「これで今日の冒険はお終いだ。あそこにある買取窓口でさっきのジュエルを買い取ってもらえるよ」
オットシの指差した先には買取窓口と書かれたアクリルで区切られた窓口があり、ダンジョンで獲得したものを手にした冒険者が列をなしていた。
「ついでにさっきの包丁も処分した方が良いだろうね。入国ゲートを出たら危険物所持で捕まってしまうぞ」
「そうなんですか?」
「ゲートの向こうは日本だからね。点数稼ぎの私服警官がそこら中にいるから荷物の中に刃物なんかあったらあっという間にしょっ引かれるぞ。だからナイフなんかは買取保証付きで売ってるんだけど、包丁はまあ処分価格で売るしかないだろうな」
「マジですか…」
何から何まで知らないことばかりだった。
こんなことは講義でも教えてくれなかった気がする。
翔琉とオットシは買取窓口の列へと並んだ。
第一階層の買取窓口は一番人が多いけどその分窓口の数も多く、ほどなくして翔琉たちの番が来た。
オットシが大きめのジュエルをサービスしてくれたのが効いたらしく、翔琉の持っていたジュエルの売値は4万円だった。
結構な額だがスマートウォッチの弁償額にはまだまだ足りない。
「ダンジョン探索初日でそこまで稼げるのは滅多にないことなんだぞ。それだけあれば異港の外にある安宿には充分泊まれるはずだ。明日また頑張ればいいんだよ。それじゃ、お疲れ様」
オットシは慰めるようにそう言うと去っていった。
こうして翔琉のダンジョン初体験は終わったのだった。
◆
翌日早朝、オットシが異港のカフェで朝食を食べていると目の前に人がやってくる気配がした。
「おはようございます」
それは翔琉だった。
「な、なんだ?言っておくけど昨日のあれは正当な報酬だぞ。今更足りないと言われても通じないからな」
「いえ、それはいいんです」
身構えるオットシに翔琉は首を振った。
「あれからよく考えてみたんですけど、確かにオットシさんの言うことはもっともでした。オットシさんがいなかったらきっと何も得られなかったと思います。それどころか無事に帰られたかどうか…」
翔琉はそう言うとオットシを見つめた。
「だから今日は正式にお願いに来たんです。今日も僕のガイドをしてくれませんか?報酬は昨日と同じく獲得物の7割。ただし申し訳ないんですけど何も得られなかった場合は報酬なし、これでお願いできないでしょうか?」
翔琉の言葉に目をぱちくりさせていたオットシだったが、やがてその口元がほころぶと大きな声で笑いだした。。
「やっぱり君は私が見込んだ通りだな!冒険者の素質があるぞ!もちろんその条件でいいとも!責任もってガイドさせてもらおうじゃないの!」
オットシはひとしきり笑うと立ち上がって右手を差し出してきた。
翔琉がその手を強く握り返す。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「じゃあ早速行こうか。今日はひとつ第2階層に足を伸ばしてみようか!」
オットシが声高く宣言した。
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