夜に祈りを、朝に願いを

雪瀬ひうろ

第1話

「おはよう、修司」


 私は腕時計を確認して、時間を確かめてから愛しい夫に向かって、朝の挨拶をする。

 けれど、彼が返事をしてくれることはない。彼は身動ぎ一つせず、リビングのソファに座ってテレビを見ている。こちらを振り向くことはおろか、瞬き一つすらしない。私は彼の正面に回り込み、そんな彼の唇にそっと口づけた。

 次の瞬間、私は床に崩れ落ちていた。


「もう、嫌だ……」


 気が付けば涙で私の頬はぐしゃぐしゃになっていた。そう認識してなお、とめどなくあふれるそれを私は止めることができない。

 ――世界の時間が止まってしまってから、およそ三か月の時が流れていた。

 私は改めて思い返す。

 この悪夢のような世界が始まった、そのときを。

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