【勇者Side】希望と野望を胸に秘めて
カテラからの手紙を読んだ日から二日が経ちましたが私たちは未だに同じ宿屋に滞在していました。
何故かと言うと……
「本っ当にどこ行っちまったんだ勇者の野郎はよ……お陰でここから動くに動けねぇじゃねぇか」
苛立ちを隠せない口調でロズさんが吐き捨てます。それに対してエルトさんが宥めるような口調で答えました。
「いいではないですか。このところ進行速度が速すぎて私やアリシア先輩はついてこれませんでしたし。それに――」
彼女は不意に言葉を切り、瞑想を続ける私を一瞥してから続けます。
「先輩の魔法を強化するのにも丁度いい機会でしょう。この先、こうも落ち着ける環境があるとは限らないですから」
そう。私は今、支援魔法を強化するために時間があれば瞑想をしています。カテラと落ち合う約束をした、魔王城に辿り着くには必要なことでした。度々私たちの前に現れるあの甲冑を倒すには、私の支援魔法を掛けた勇者に頑張ってもらうしかないと判断したからです。魔法の根源は想像です。確かなイメージを持つことができれば同じ魔力量でもその効果は段違いです。その為、昨日からずっと「強さとは何か」考えていました。
強大なモンスターを打ち倒せる人は「強い」でしょう。
それとは別に、何があっても諦めない、折れない心を持ってる人も「強い」と言えます。
力と心。どちらの強さを持っている者が真に強いのかと問われれば、私は迷わず折れない心を持っている者の方が強いと答えるでしょう。何故なら、心は鍛えることも出来なければ魔法で強くすることもできないのですから。ですが、今必要な強さは力の方です。いくら心が強かろうが、前に進めなければ意味はありません。
だから今は勇者の力をさらに「強く」して、魔王城へと向かいます。
「強い」心を持った、カテラも辿り着けると信じて。
一旦休憩を取るために足を横に流します。正座を続けていた為、足はジンジンと痺れていました。そんな私を見てロズさんが立ち上がります。
「アリシア嬢だけに負担を強いるのも悪いしな。少しでも力になれるように素振りでもしてくるぜ」
そう言って、彼女は外に出ていったかと思ったら、すぐに戻って来ました。
その横に勇者を連れて。
――――
「心配かけて済まなかった。この通りだ。許してくれ」
そう言って彼女達に頭を下げた。甲冑に負けた悔しさを鎮める為とはいえ、丸一日以上姿をくらましたことは事実だし、それについては謝るべきだと思ったからだ。
エルトが立ち上がって俺の前まで来て言った。
「無事なのは良かったですが、一体今まで何をしていたのですか?」
彼女の表情は今までと変わらず無表情だったが、その瞳には俺を咎めるような色が窺える。
「あの甲冑に幾度となく負けたのが悔しくてな……少し修行をしていた」
事実、負けた悔しさと鬱憤を晴らすためにそこいらのダンジョンを回っていた。その中では実戦形式での魔法の鍛錬も行っていたのだ。
「おいおい勇者、鍛錬するならオレたちも呼んでくれりゃ良かったのによ。そっちの方が効率的だろうが」
「いえ、私はヒストさんの判断は正解だと思いますよ」
アリシアの声がするが、なぜか遠い。それもそのはず、彼女はベッドの前に座ったまま話していたからだ。
「ヒストさんもお一人になりたい時はあるでしょうし、その時間を使って私は支援魔法の効果を上げることも出来ましたから」
「魔法の効果を上げる?どうやってだ?」
俺の疑問にエルトが答える。
「魔法の根源はイメージだと、先日お話ししましたよね?確固たるイメージを持てば、同じ魔法でも威力や効力は増します。そのため、アリシア先輩は先ほどまで正座で瞑想をしていたのですよ。だから足が痺れて座ったまま、と言うことです」
成る程。通りで彼女は忙しなく足をさすっている訳だ。
そんな彼女が少々顔をしかめながら俺に語りかけてきた。
「ヒストさん。私たちで考えた甲冑対策を聞いてもらえますか?」
「いや、オレから話させてくれ。いいか勇者。よく聞けよ?」
ロズがいつになく真剣な顔をする。魔法すら効かないアイツを倒す策。さぞかし練られた戦略なのだろう。期待が膨らみ、固唾を飲んで説明を待つ。
「まずこれからの旅で、アリシア嬢には支援魔法の強化に専念してもらう。そんでその魔法でお前を強化して勝つ!以上だ」
「前半は具体的で良さげだが、後半は雑すぎやしないか⁉︎」
「お前を信じてのことだ。だからそんときゃ任せたぜ?」
今の状態であれば、雑魚は俺一人で十分だ。それに加えて甲冑も俺だけで制したとなれば報酬の独占は決まったも同然だろう。
「ああ。分かった。俺に任せろ」
全ては野望の為に、全力でアイツを倒してみせる。
――――
聖女は希望を、勇者は野望を、そして魔王は復讐を、各々の胸に抱いて魔王城へ集う。彼らの物語が交錯する時は、刻一刻と迫っていた――
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