【勇者Side】疎外感

 少し遅めの朝食を取った俺たちは、旅を再開して草原を進んでいた。出発からかなりのハイペースで進んできたのも甲斐あって、あと1~2週間で魔界に辿り着けるだろう。つまり旅の中間地点を迎えたといっても過言ではない。ただ、魔界の正確な地図がないため、着いてからはどのくらいかかるかは分からない。

 今までは魔物が弱かったのも相まって順調に進めていたが、あの甲冑が出てきてからは目に見えて進行速度が落ちている。あの忌々しいクソ甲冑さえいなければもっと早く進めるというのに……


 そんなことを考えている俺の後ろでアリシア達3人は仲良くおしゃべりをしていた。


「にしてもアリシア嬢は菜食主義者なのか?もうずっとサラダしか食ってねぇじゃねぇか。そんなんじゃ倒れちまうし、大きくなるモンも大きくならねぇぞ?」

「ロズさん、どこ見て言ってるんですか……私はこのくらいで満足ですよ?食べ物については教会の教えで、野菜以外は誰かに勧められたときしか食べてはいけないのです。物心ついた時からこうでしたからもう慣れっこですよ」

「アリシア先輩こそなんで私を見ながら胸の話するんですか?当てつけですか?」

「ん?オレは身長の事を話してたんだが……」

 ロズのその言葉を聞いた二人は『今のは絶対違いましたよ‼』と異議を申し立てていた。


 さっきからずっとこんな調子だ。賑やかなのはいいのだがどうにも話に入りづらい。このパーティーのリーダーは俺なのにどこか疎外感を覚える。そもそも見晴らしのいい草原とは言え索敵を行わないというのも問題だろう。仕方なく俺が行っているが本来は全員でやる物だろうが。何故リーダーの、神に選ばれた俺がしなくちゃならないんだ?お前らは俺より偉いのか?違うだろうが!!


 怒りを表に出さないように彼女らの方向を向かずに前を見て進む。ダンジョンに入ったら流石に気を引き締めるだろう。我慢の限界を迎えてしまう前に洞窟なりを見つけて気晴らしに雑魚を蹴散らすとしよう。

 そんな願望が天に届いたのか、すぐに洞窟を発見できた。全員に探索しようと意向を伝えるとロズから待ったがかかる。


「洞窟だが問題ないのか?あの甲冑に遭遇したらかなりヤバイと思うが」

「風が吹いていれば問題ないでしょう。少し潜ってみて風の確認をしてから進退を決めても遅くはないと思います。それに、洞窟なら昨日の遺跡よりかは掘りやすいと思いますよ」


 エルトの意見を聞いたロズは渋々ながらも探索に同意した。そして風を確認するためにエルトが松明を持って進むことになった。ロズが『オレが持とうか』と提案するも、『松明より剣を持ってください。こういった閉所で魔法は扱いづらいので』と断られていた。しかし、そう断った彼女エルトの顔は心なしか嬉しそうに見えた。


 結局、その洞窟ではあの甲冑は出ず、雑魚敵が何体か出ただけで、ボスも取るに足らず、『少しタフな雑魚』程度の物だった。この程度の敵であれば俺一人で事足りる。ロズの剣も、エルトとアリシアの魔法も出る幕はなかった。

 その後も進んではダンジョンを見つけ、俺一人で蹴散らすという事を何回か繰り返した。気づくと夕方になっており、時間的にも先ほど見つけた遺跡の探索で最後だろうという事は推測できた。


 昨日甲冑と遭遇した遺跡とは異なり、地上に出ている上に石造りの壁はところどころ崩壊しており穴が開いている為密室になるという事はないだろう。そう伝えて全員の意見を聞く。

 

 三人とも同意見だったため、そのまま探索に乗り込むことにした。

 

 道中は遺跡というロケーションも相まって、物理攻撃が効きにくい鎧やゴーレムが多数出現する。ここは魔法の得意なエルトに任せて俺は後衛に攻撃が飛ばないように立ち回ることにした。


 5回ほどの戦闘を終え、一息ついたときに俺はある提案をエルトにする。

「エルト、もしよかったら俺に攻撃魔法を教えてくれないか?今のままじゃ魔法攻撃要因が君しかいないから負担になりそうでな。勇者である俺なら君までとはいかなくても扱えるはずだ」

 勇者――剣と魔法を一定以上の練度で行使できる者。事実俺は簡単な魔法――灯の魔法――位であれば難なく発動できる。今までは剣技に偏っていたが攻撃魔法を覚えれば対応できる幅も広がるだろう。


 彼女は『問題ありませんよ。ただ、教えるからには容赦しませんからね』と表情を変えずに言った。お手柔らかに頼むよ、と答えるとやはり変わらぬ表情で『冗談ですよ』と彼女は言った。


 その後もエルトの魔法を頼りに突き進み、最深部に到着した。


 入口から内部を確認する。20m四方の石造りの部屋で、壁には小さい窓がいくつか開いていた。これなら密室にはならないだろう。ここであればもし甲冑が出てきたとしても魔法は使える為、甲冑に後れを取ることはないはずだ。

 部屋の中心部に立つと、前方に見覚えのある魔法陣が展開される。奴が出てくるときに使用する物だ。


『全員戦闘準備‼奴だ‼エルトとアリシアは魔法の準備、ロズは二人の前に陣取れ‼』

 そう言って俺も両手に持った剣と盾を構えて準備を整える。


そして、予想通りあの甲冑が姿を現した。

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