今後の目標

 事実を全世界へ知られてしまった俺はリィンに協力してもらってそのショックから何とか立ち直った。昼飯を食べてなかったこともあり、腹も悲鳴を上げていた。


「お昼、食べに行きましょうか」

 また俺の心を覗いたのか、リィンはそう言う。


「ああ、そうしよう。誰かいるかもしれないしな」

 皆心配しているだろう。もう問題ないことを伝えないとな。


「おそらく皆さんまだお食事中ですよ。食堂へ急ぎましょう」

 リィンの声に従って、小走りで食堂へ向かう。


 丁度皆で食事をしていたのか、魔王城にいる全員がそこにいた。皆俺の顔を見て驚いている。それもそのはず、ずっと泣いていたせいもあり、俺の目はものの見事に腫れていたからだ。


 いの一番に口を開いたのはケルベロスだった。俺に抱き着いてきて心配の言葉をかけてくる。


「ご主人…大丈夫?」

 癖のある栗毛から生えている犬耳は畳まれており、茶色の瞳からも心配の色が伺える。


「問題ないよ。心配かけたな」

 微笑みながらそう言って、彼女の頭を撫でる。気持ちよさそうなその顔を見ていると自然に顔が綻んでくる。


 ドラゴ、レリフの二人は俺のその顔を見て問題ないと判断したのか、何も言ってこなかった。


「ドラゴ、俺の分も頼む。腹が減って死にそうだ。今すぐ何か出せるか?」

 いったん撫でる手を止め、ドラゴに飯を催促する。ケルベロスが『もっともっと‼』とせがんでくるため今度は少し激し目に撫でくりまわす。


「スープとパンでいいか?肉は焼かねェと用意出来ねェぜ」

「問題ない。むしろ軽めの方が助かる」

「分かった。座って待ってな」


 言われた通りに着席するとケルベロスが問いかけてきた。


「ご主人、お膝の上、いい?」

 潤んだ瞳で上目使いをする彼女を見ると、『No』の言葉は喉元で引っかかる。


「いいぞ。ほら」

「やったー!」

 そして今朝と同様に俺の視界は癖のある栗毛で覆われるのであった。


 ――――――――


 食事も終わり、俺たち5人は大広間に居た。ケルベロスは着くと早々に昼寝を始めてしまった。


 まずは王座に座ったレリフが切り出した。

「してカテラ、お主これからどうするのじゃ?魔界に残って魔法を使えるようにするのかの?」


 一番の目標だった、『俺が魔法を使えないことを隠す』のは失敗に終わった。だったら、魔法が使えるようになって『実は使えましたー』と証明すればいい。


 その質問に俺は頷いて口を開く。


「そのつもりだ。ついでに魔王になって勇者への復讐を果たす。復讐の方法も考えてあるが一つ確認したい」

「ついで、で魔王になってほしくないんじゃがのう…。まあよい。それで確認したいこととはなんじゃ?」

「魔王にはすべての魔物のコントロール権がある、それは間違いないな?それを確認したい」

「当然じゃろ!それがなかったら魔王の役職が形骸化するわ!」

「分かった分かった、落ち着けって」


 目を吊り上げて怒る幼き魔王、レリフをなだめる。そのやり取りを見てけらけらと笑っていたドラゴが俺に質問する。


「んで、まずは何からする予定だ?アタシに手伝えることがあれば何でも言いな」

「助かるよ、ドラゴ。まずは…回復魔法と変身魔法の習得だな。コツを掴みたい。協力してくれないか」

「おっしゃ任せな‼飯と戦闘ならアタシの独壇場だ‼」

 彼女はそう言うと胡坐をかいていた両足を崩し、立ち上がった。


「それと、レリフ。勇者達がダンジョンに入る兆候を見せたら言ってくれ。襲撃に出る」

「戴冠式まで日はまだ有るが……魔王の冠作りが上手くいってないのか?」


 レリフはやや強張った表情で俺にそう投げかける。勇者襲撃の本来の目的は戴冠式までの時間を稼ぐ為だ。だが今後の襲撃は勇者への復讐の前準備を目的として行う。


「いや?今後の襲撃は別目的で行う。勇者への復讐だ。そして俺の魔力に耐えられる触媒物質には目星がついている。まだ一工程残っているがな」


 そう俺が続けるとレリフの顔はますます強張り、恐怖の表情に染まっていく。彼女のその顔を見て察したのか、リィンとドラゴの表情にも緊張が走る。


「…カテラ。お主が見つけたその『答え』、聴いてもよいか?」

「ああ。朝食後、俺はお前にこう質問したよな?『触媒物質に成り得る物の特徴を教えて欲しい』と。そしてお前はそれに『魔力を持った生き物の死体』と答えた」


「……」

 彼女は沈黙で答える。構わず続ける。


「ただし、一つ俺に言ってないことがあるよな?『触媒物質の許容量は生前の魔力量に比例する』。つまり、魔力量が大きい奴の死体であれば俺の膨大な魔力量に耐えうる触媒物質になるってわけだ」


 リィンとドラゴはその言葉で勘付いたのか、レリフの前に陣取り戦闘態勢を取る。そして俺へ制止の言葉を投げかける。


「お兄さん、考え直してください。きっと他に方法はあるはずです」

「そうだぜカテラ‼魔王ちゃんを殺してお前が魔王になったとしてもアタシたちは納得しねェぞ‼」


 彼女たちの言葉には耳を貸さず、護身用の短剣を引き抜く。そして、こう宣言するのであった。








「魔王の冠の材料は、魔力量の一番大きい、だ」


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