【勇者Side】新たな仲間
私たちが勇者ヒストへの疑惑――魔王討伐の功績を独り占めしようとしているという疑い――を固めてから1時間ほど経って、彼は新しい魔法使いを連れて、宿屋に戻ってきました。
黒い、大きな三角帽子を深く被っているため顔は見えません。しかし彼女の纏っている漆黒のローブと手にしている杖、そして、長い薄紫色の髪に見覚えがありました。何故なら、彼女は魔法学院の後輩だからです。
「紹介しよう。新しい仲間のエルトだ。レイノール魔法学院がカテラの代わりに、と推薦してくれた凄腕の魔法使いだ」
優しい笑みを浮かべながら勇者ヒストは私たちに彼女を紹介します。その言葉を受けて、彼女は顔を上げて自己紹介をします。
「エルト・レイノール。魔法使い。得意な魔法は全部。」
私と目が合うと彼女はふい、と顔を逸らしてしまいます。彼女には学院時代から嫌われていました。何故かはわかりませんが……
「おいヒスト、この子はカテラよりもやり手なのか?」
そうロズさんが質問した時でした。
「カテラ?あの詐欺師の名前を出さないでください。八つ裂きにしますよ?」
エルトさんが怒りをあらわにしてその濃い紫の瞳でロズさんを睨みます。
「おお、怖い怖い」
ロズさんがおどけたように返します。その表情からを見るに真剣には受け取っていないようなので慌てて私が補足します。
「ロズさん、彼女はレイノール魔法学院主席です。実技・座学ともに凄腕ですよ」
「へぇ。なかなかやり手だったのか。そりゃ悪かったな」
「授業にも出ず、論文の成果だけでギリギリ卒業できた詐欺師を、魔法学院開祖の血を引く私と比べるなんておこがましいですよ。次はないですからね?」
そう、彼女は私たちが通っている魔法学院を開いたアルティナ・レイノールの血を引く、いわば魔法使いの名家なのです。
へいへい、とロズさんが受け流すように答えてました。そして、私にアイコンタクトをします。その目はこう語りかけていました。
『彼女は勇者と同類だ』と。
つまり、彼女はカテラを勇者と同じくらい嫌っている。これでもしカテラが戻ってきたとしても居場所を作ることは一層難しくなりました。そんなことを考えていたら勇者ヒストがこう切り出しました。
「アリシアの体調も戻ったみたいだし、旅を再開しようか」
私たちはその言葉に従い、宿屋から出ると転移魔法で旅の途中に立ち寄った町へ転移します。その光景を見てエルトさんは口を開きました。
「たった一週間でここまで……勇者さん、かなりやりますね」
彼女は表情を変えず、勇者ヒストを称えます。学院時代、彼女は無表情で有名で、その整った外見と似合わぬ毒舌から隠れたファンクラブもありました。
「ありがとう。君の協力があればもっと早く旅が終わらせられるだろう。改めて、これからよろしく頼むよ」
勇者はにこやかにそう告げ、エルトさんと握手をしていました。そして二人して先に歩き出してしまいました。私とロズさんには握手しないまま。
――――――――
その後、私たちは地下遺跡に足を踏み入れました。
そこは壁や天井、床にも古代文字がびっしりと書かれた5m四方のブロックを繋げたようなダンジョンでした。道中はゴーレムや鎧などの物理攻撃があまり効かない魔物が多く、一度に何体も出る為エルトさんの攻撃魔法が大活躍でした。
『
エルトさんがそう唱えると、横に落ちる雷が鎧の軍団を貫きます。それを受けてもなお立ち上がる者はいませんでした。
「やっぱりエルトを仲間に入れて正解だったよ。もし魔法が使えない状況でここに踏み入ったと思うと寒気がする」
勇者ヒストが大げさに寒がるような演技をしながら言いました。
「光栄です。勇者様。この後もお力になれるよう精進します」
エルトさんは相変わらず表情を変えずに誉め言葉を受け取ります。
「にしてもよくもまぁ、色々な魔法の中から一番いい手をだせるねぇ。魔物の弱点属性とか全部暗記してるのか?」
ロズさんがエルトさんに問いかけます。
「魔物の弱点属性の暗記は必須です。まさかそんなことも考えずに戦っていたんですか?あ、剣士さんには難しすぎますか」
エルトさんはやはりそのままの表情でロズさんを挑発するように答えます。
不穏な空気が流れ始めたので私が仲裁に入ります。
「まぁまぁ。エルトさんのレベルを全員に求めるのは多少酷というものですよ?それに、ロズさんもどの部位が切りやすいかは把握してますもんね?」
お二人は私の言葉を聞くと渋々と口を閉じました。
そんな中、ダンジョンの最深部が見えてきます。
そこは30m四方の広い空間でした。道中の魔物の傾向から、ボスは巨大なゴーレムか何かでしょう。
私たちはその広い空間の中心まで臨戦態勢をとったまま歩みを進めます。ですが、真ん中にたどり着いても一向に何も起きません。引き返そうと入口を見ると、ちょうど音を立てて閉鎖されるところでした。
慌てて前方に視線を戻すと、転移魔法の魔法陣が展開されていました。
「来るぞ!!全員、戦闘準備!!」
勇者ヒストの声で全員が身構えます。
魔法陣の光量が徐々に増加していきます。ひときわ眩しい光を放った後、そこに現れたのは巨大なゴーレムではありませんでした。
そこに立っていたのは、カテラと別れた洞窟で遭遇した、あの甲冑だったのです。
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