【勇者Side】仲間探し
謎の甲冑の襲撃から一夜明け、私たち勇者一行はフェレール王国の宿屋に居ました。なぜここにいるかと言うと、先の戦闘で負傷してしまった勇者であるヒストさんの右手を治すために休息が必要なこと。それと、抜けてしまったカテラ、魔法使いの穴を埋める為に魔法使いを募集しようとしていた為です。
「一時はどうなるかと思ったよ。ありがとう、アリシア」
ヒストさんが私に対して礼を言います。
「礼は要りません。右手、動かせそうですか?」
彼の右手は剣による筋断裂の他に、何本か骨折していました。
「問題なさそうだ。……ロズは?」
ヒストさんは手を何度か握ったり、手首を回したりして調子を確かめているようでした。私の回復魔法である程度は治っていたみたいです。
「ロズさんは素振りに行ってるみたいです。そう書き置きがありました」
そう告げると、『そうか。君はここにいてくれ』とヒストさんは答え、ロズさんを探しに外へ出て行ってしまいました。
部屋に一人残された私はお二人を待つ間、カテラのことを考えます。彼と別れた洞窟に行っても見つからず、周囲の街で聞き込みをしてもそのような人物を見た人はいませんでした。やはり彼は――
最悪の想像が頭を過ぎります。
『あの甲冑に殺された』
いくら頭を振ろうが別のことを考えようが頭にコビリついて離れません。そんなことをしているうちにお二人が戻ってきたようです。
「おい嬢ちゃん、大丈夫か?顔色悪いぞ?」
戻ってきた剣士ロズに心配の声をかけられます。
「も、問題ありません。昨日のことを考えていたら……」
彼女の問いかけにそう答えますがお二人に諭され、私は宿屋で休んでいることになりました。
「万が一、具合が悪くなったら宿屋の主人に声をかけるといい。話はしてあるから」
ヒストさんはそう言い、ロズさんと仲間を募集しに酒場へ向かうのでした。
―――――
俺は酒場までの道を剣士ロズと一緒に歩いていた。石畳の大通りを挟むように店が連なっており、ある店の主人が声をかけてきた。
「おーい勇者様!うちの商品見ていかないか?」
その声を皮切りに俺たち二人に向けて人が群がってくる。
「えっ嘘!?勇者様!?どこどこ!?」
「頑張ってくれよ!!勇者!!俺たちの希望!!」
十秒もしないうちに黒山の人だかりができてしまい、動くこともできなくなってしまった。中にはロズのファンもいたのか、ロズ自体にも人が集まってくる。結局しばらくして解放されたのだが思わぬところで時間を食ってしまった。
「すげぇ人だかりだったな」
ロズは満更でもないような顔をして俺にそう問いかけてきた。
「そうだな。今でこの有様なら、魔王を倒した後はもっと沢山の人から称賛を受けるだろう。」
そう彼女の問いに答え、そのまま続ける。
「名声も手に入れられるだろう。冨も手に入るだろう。それこそ一生遊んで暮らせるくらいの量が」
「だからこそ許せない。無能の癖にその恩恵にあやかろうとしたアイツが!俺の、勇者の威光を借りて成り上がろうとしたアイツが!!」
そう声を荒げる。幸い周囲には誰もいない。――ロズを除いて。
彼女は俺の言葉を聴いて呆れるような、驚いたような顔をしながら諭してきた。
「まぁまぁ、落ち着けってヒスト。あいつは恐らく死んでるんだしもうその話はいいだろう?」
「死んだ?死んだから何だ?それでもあのペテン師は『稀代の魔法使い』とかいう何ともまぁご大層な二つ名もってるじゃねぇか。俺はそれが許せないんだよ!無能には無能なりの称号与えてやらねぇと気がすまねぇんだよ!」
俺がそう怒鳴ると、彼女は黙り込んだ。
―――――
俺は地方の村で生まれた。そこはフェレール王国とは違い、石畳も大通りもないような小さな村だった。そこで俺は3人兄弟の末っ子として生まれ、農作業をしては飯を食べて寝る、という日常を送っていた。食事は兄弟の上から取り、俺はいつも最後だった。来る日も来る日も土をいじり、爪の間に泥が入っていない日はなかった。そんな中、三年前のあの日、俺に転機が訪れる。
運命の女神に選ばれ、勇者になったこと。
その日から俺の扱いは一変した。農作業をしなくても良くなった。末っ子なのに兄貴よりも待遇が良くなった。俺だけ王国で生活できるようになった。
なのに。
村は『勇者の生まれた村』として栄えた。兄弟は『勇者の兄弟』として一躍有名になった。畑の農作物は『勇者が耕した畑』から獲れたと言うだけで高値で売れた。
一体お前らが何をした?神託に選ばれなかったお前たちが?「三年後には死ぬかもしれない戦いに身を投じてください」と言われなかったお前たちが?剣一つろくすっぽ握って来なかったお前たちが?
勝手に俺の名前を使うんじゃねぇ!!
選ばれなかった無能共が、選ばれた俺の名を語るんじゃねぇ!!
俺の名前を使っていいのは俺が認めた奴だけだ!!
――勇者ヒストは、傲慢であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます