無能な魔法使いとして勇者PTを追放された俺。次期魔王として魔界に招待されたので打倒勇者を誓って魔王になることにしました

子獅子(オレオ)

プロローグ

序章 カテラ・フェンドルという男

 俺、カテラ・フェンドルはある手紙の前で思案していた。


『カテラ・フェンドル 魔王討伐の為、勇者一行に参加することを命ず』

 それは、フェレール王国王室からの手紙だった。


 ――――カテラ・フェンドル殿


 あなたの功績はかねがね耳にしております。

 その類稀なる才能をどうかこの世界を救うために役立てて頂けないでしょうか。とある村にて勇者の素質を持つ者が現れました。その者と力を合わせ、どうか魔王を討伐してほしいのです。3年後は忌まわしき人魔戦争が始まってから100年です。そのため3年後に勇者と共に出発するという予定になっております。この節目ともいえる100年目を人間の勝利で飾るためにあなたの力添えを期待しております。


 フェレール王国国王 アキレウス・フェレール―――――


 レイノール魔法学院――フェレール王国有数の魔法学院――の寮の一室で、俺はその文面に目を通す。この手紙を頂いたという事は王室にその実力を認められたという事だ。思わずニヤけてしまう。


 実際、俺は数々の勲章や称号を手にしてきた。その数は優に100を超える。すべて発表した論文の成果だ。『魔力を持たないものでも使える魔法』を始め、魔法と付くものであればすべて研究し、論文を発表してきた。

 そして使という魔法使いとしては最も栄誉な称号も手にしている。


 にも拘わらず、俺はこの手紙に『はい』という返事を書くのに躊躇していた。


 なぜなら―――――使


 何故なのかは分からない。生まれた時から魔力はあるのに魔法は使えない。俺が発明した『魔力を持たないものでも使える魔法』もなぜか使えない。膨大な魔力を持っていることを見抜かれ、数々の魔法使いに師事してきた。だが、この10年間一度たりとも魔法を使えたことはなかった。基礎中の基礎、『灯の魔法』すらもだ。この事実は俺以外に誰も知らない。


 魔法が使えるようになる手掛かりを求めて俺はこのレイノール魔法学院にいる。 入学試験は膨大な魔力量とそれまでに発表した論文のおかげでパスできた。それからというものの、俺は『研究』と称して寮の自室に籠りきりで蔵書を読みふける毎日を送ってきた。そうすることで人の目を避け、『魔法が使えない』という事実を隠してきたのだ。おかげで学園内で出会えると魔法の腕が上がるなんて噂も立っていた。


 ともかく、勇者一行に加わるとなれば今までのように魔法を使わずに誤魔化す、なんてことはできなくなる。つまり、この事実がバレる可能性が高い。しかも全世界に。かといってこの誘いを断れば『才能はあるのに魔王に立ち向かわなかった臆病者』というレッテルを貼られることになる。やはり全世界規模で。

 どちらにしても今まで賞賛しか受けてこなかった、この膨れ上がった自尊心プライドには耐えがたい屈辱なのは火を見るよりも明らかだった。


 ―――――考えていても仕方がない。少し気分を変えよう。

 そう思った俺は自室から出て学園の敷地内を散歩することにした。


「おーい、カテラー」

 後ろから声を掛けられる。振り返ると修道服に身を包んだ少女がこちらに向かってきていた。肩までかかる金髪を揺らし、愛嬌のある笑顔を携えて。


 彼女はアリシア・クロウス。修道院生まれで、回復魔法と支援魔法の腕を見込まれてこの学院に在籍している。その手腕はすさまじく、50年前の勇者一行にいた僧侶、『聖女』の再来として期待されている。俺とアリシアが同時に入学したというニュースは界隈をザワつかせることになった。


 勇者が覚醒し、同時期に俺とアリシアがいる、その結果魔王討伐の話が持ち上がったのだろう。頭が痛い話である。


「珍しいね。外に出てるなんて」と彼女は水色の瞳でこちらを見つめてきた。

「たまには気分転換に、と思ってな」

 ふーん、と彼女は頷くがすぐさま話題は変わる。

「そういえばさ、王室から勇者一行に加わるように、っていう手紙届いてたよね?もちろんカテラも参加するよね?」

「あ、ああ……も、もちろんだよ……」

 なんか顔色悪いけど大丈夫? と心配する彼女に対し、問題ないよと答えるも俺は内心冷や汗をかいていた。


 ――――計算外だった。俺に手紙が来るのであればアリシアに来ることも予想できたはずだ。これからどうするのかを考えるあまり頭から抜け落ちていた。


「そう?それじゃあ学長に報告しに行こ!!」

 彼女は俺の手を取って学長室へと駆ける。


 ――――もう腹をくくるしかない。


 学長に手紙が来たことを話すと、「なんと喜ばしいことでしょう!!」と嬉しそうだった。そこに俺はある提案をする。

「学長。俺は魔王討伐までに魔法を極めたいと思っています。不躾なお願いであることは重々承知しておりますが、研究室を一つ貸していただけますでしょうか。お願いします!!」

 そう言って頭を下げる。

 返事は快諾だった。研究室だけではなく、図書室にあるすべての蔵書――禁書は除くという条件付き――も借りることができた。


 学長室から出た俺はアリシアと別れ研究室に籠る。そしてある決意を胸に刻む。



 ――――環境は整った。あとはこの3年間で魔法を使えるようにするだけだ。


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