第20話
仮面姿の半吸血鬼の二人に連れていかれるままに彼と三日月は長い地下廊下を歩いて行った。歩いて行った先には先ほどまでいた牢からは想像できないような部屋に到着した。そこはかなり大きな部屋で学校の体育館のような大きさで赤を基調とした色で統一されていた。そして部屋の玉座には深紅のドレスをまとった三日月の母親である宵月の姿があった。宵月はこちらの存在を認めると表情を和らげた。
「三日月、また会えてとても嬉しいわ。」
宵月は妖艶な笑みを浮かべながら言う。
「私はもう二度と会いたくなかったわ。」
三日月はキッと睨みつけ、宵月に毒づいた。
「あらあら、そんなに興奮しちゃって…それはそうと私の可愛い三日月の隣にいるその小汚い人間は何なの?目障りよ!」
「そうですか…それじゃあ俺はしばらく退席していますね。」
彼はその場から立ち去ろうとしたが、宵月の言葉によって遮られてた。
「その必要はないわ。なぜならあなたにはもうここで消えてもらうからよ。」
宵月は不気味に笑うと、血晶でできたナイフのようなものを彼に向けて投げつけた。彼は突然のことに恐怖と驚きで体が緊張して動かなくなった。それに対して脳の方は冷静に働いていて、宵月が放ったナイフの軌道がスローモーションのようにはっきり見える。そして、ナイフは彼の左胸のちょうど心臓の部分に命中する。彼の脳はそのことをはっきりと理解していた。しかし緊張と恐怖によって彼は全く動けなかった。
ナイフの刃先が彼に命中しようとしたその時、三日月が彼に体当たりして、彼を突き飛ばした。三日月もとっさのことで力加減ができずに、彼は数メートルほど先の床に投げ出されていた。
「あなた、大丈夫?けがはないかしら?」
「俺は大丈夫ですけど…」
ナイフは三日月の右肩に深々と刺さっていて、患部からは血が流れていた。三日月はナイフが刺さっている右肩を左手で抑えてかばっている。
「私は大丈夫だから気にしないで頂戴。」
そうは言いながらも肩から血は流れていて、三日月自身もハァハァと肩で呼吸をしている。彼に心配を掛けないように強がっている。
「なんであなたは人間なんかをかばっているの?何を考えているの?あなたは当家の跡継ぎになるべき存在であるのに自覚を持ちなさい。」
「跡継ぎ?なんの話かしら?私はそんなものになるつもりはないわよ。私は当分の間はこの人といようと思っているし、吸血鬼のしきたりに従うつもりなんて毛頭ないわ。私はしばらくこの人と生きていこうと思ってる。もうあなたと会うこともないかも知れない。」
先程までの余裕が嘘のように宵月は怒り始めた。宵月はプライドが高い性格のため侮辱されるということが本当に屈辱的に感じていた。
「あなたたち、ちょっと三日月に痛い目を見せてあげなさい!娘といえども容赦ははしないわ!」
宵月が合図すると同時に仮面姿の半吸血鬼の集団が一斉に三日月に襲い掛かった。
「み、三日月さん!」
三日月の方へと駆け寄ろうとしたが、後ろから何か縄状のものが彼に巻き付いて彼の動きを制止させた。縄の先端は宵月が握っていて、宵月によって操られている。
「あなたは私とゆっくりお話ししましょうね。」
宵月が縄の先端を引っ張ったことで彼は宵月に抵抗できずになすが儘にされた。
「離せ!話してくれ!そして三日月さんを解放しろ!」
彼は力いっぱい宵月を威嚇するように叫んだ。
「あらあら怖いわね。あなたみたいな人間が私のかわいかった三日月を変にしちゃってね…でもね三日月があなたを求めた理由も気になるの。」
「クソ!この縄を解け!」
「あなたは馬鹿なの?縄を解けって言われたからって解くと思う?人間の世界ならといてあげるのかもしれないけどここは吸血鬼の世界。そんなに甘くないわよ。」
宵月は俺を見下して馬鹿にするように言った。
「まぁいいわ。うるさいし意識を落としてあげるわ。それじゃあ目覚めたときゆっくりお話ししましょうね。」
ガツン!
彼の後頭部に鈍い衝撃が走ったと思うと意識が吹き飛んでいった。
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