第2話 日本人

 何分いや何時間ここで眠ったのだろう。

 …………っう!いってて。

 力が入らない。自分の体が重すぎて立ち上がらない。体の節々が痛すぎる。頭が割れるように痛い。目が開かない。開けようとしても目眩が酷い。

 なんだこの陽気な音楽は。

「_″_″″″_」何語で話してるんだ?てかうるさいぞ。

 大音量の音楽は寝起きには辛い。

 けどそのお陰かだんだんと意識が覚醒し目を開く。


 そこにはどー見てもドワーフとエルフらしき人がこっちを覗いていた。

「おい!大丈夫か」

 ……あれ。言葉が分かるようになってる。

「手を貸してやるからほら立ちな」

「え、あ……ありがとうございます」

 ドワーフの大きな手を握り重い体を持ち上げてもらい久しぶりに立ち上がった。

 グラッと立ちくらみ顔に手を当てる。

そんな俺を見てドワーフが質問をする。

「あんちゃん何やってたの喧嘩かい?」

「いえ、そんな物騒なことは特に」

「じゃあなんで……いややっぱ聞くのはやめだ。男には言いたくないこともあるだろうし」

 屈強なドワーフとエルフのお姉さんはうんうんと頷いた。

 「……は、はぁ」

「お兄さんこれ。少ないけど、1日くらいはご飯も宿も泊まれるから好きに使ってね」

 手に銀の硬貨が5枚ほど握らす。

「え、いや良いですよそんなの。こんな見ず知らずの人に」

「別に大丈夫よ。困った時はお互い様。それじゃあね」

 押し切られる形で受け取るとドワーフとエルフは立ち去った。

 改めて周りを見渡すがここがどこなのか全く検討もつかない。

 情報を処理したくてもしきれねぇ。周りの視線を感じるし体が痛い。

 ……金があるならここはとりあえず宿に行くべきか。


 日本語じゃない言語の文字でホテルと書かれていた看板を置いてる店に入る。色々調べてからホテルとかは決めたかったが今そんな余裕俺はにはない。

「すいません。1泊分お願いします」

「宿代のみ2500バイツね」

 手持ちは5枚の硬貨のみ。

 これが幾ら分の価値があるのか全く分からないのでとりあえず全部差し出してみる。

「ほらお釣りの500バイツとこれは要らんよ」

 そう言われて2枚の硬貨は返却されお釣りとして500バイツと言う硬貨を貰った。

「部屋は12番ね」

「分かりました」


 シングルベット1個に事務机と椅子のシンプルで簡素な作りの部屋。

 広げる荷物もないのでとりあえずベットに横になる。

 ポッケットに手を入れ硬貨を1枚取り出す。

 この銀貨は約1000円と考えても良さそうな気がするな。

 綺麗に掘られた柄をランタンの火に照らすとより鮮明に輝いて見えた。


 ベットから起き上がりとりあえず状況の整理だ。

 荷物は財布と着替えのジャージのみ。

 とっとと家に帰りたいがここが日本ではないのは確かだし、そもそもドワーフとエルフがいた時点で地球なのかすら怪しい。

 夢オチ……ないだろうかそれに期待したい。


 ……考えても仕方ない。とりあえず寝るか。


 次の日

 目が覚めても現実は変わらずだった。

頬を抓ってみるがちゃんと痛い。

 廊下の突き当たりにある共同トイレで尿を足し今日の予定をかんがえる。

 ……とりあえず情報が欲しい。警察か。それとも昨日のドワーフとエルフを探し出すか。

「きゃっ……ご、ごめんない」

「あ、いやこちらこそ」

 トイレを出て部屋に向かう途中前を見ずに考え込んでいると人にぶつかった。

 目の前に居る少女は思わず見惚れる黒目にサラサラの黒髪のボブヘアーでローブを身に纏っている。

 異世界で魔法使いと呼ばれていそうな格好のアジア系の日本人っぽい顔だ。

どこか見覚えがあり思い出せない感情がすごくもどかしい。

 そんなことを考えていると、少女は小首を傾げるとこう言った。

「あの失礼かもですがもしかして日本人……ですか?」

「そ、そうですがあなたも?」

 相手から聞いてくれるとは!これは絶好のチャンス。

「すいませんが話を聞いて貰ってもいいですか!」

「はい構いませんよ」

「ありがとうございます!早速なんですがここってどこか分かりませんか?昨日目が覚めたらここ近くの広場で目が覚めていきなりドワーフとエルフが目の前にいるし、言語も違うのに言葉も分かる状態でして……」

「お、落ち着いてください。語ると長くなりそうなので良かったら部屋きますか?」

「い、いいんですか?」

「構いませんよ」


 少女は部屋に着くとベットに座り俺は事務机の椅子に座る。

「まずは初めまして。私の名前はアリスって言います。同じ日本人でこの世界に来て2年位になりますかね」

「俺の名前は加藤 佑真です。年近そうだし気軽にユウマって呼んでください。ちなみに年は今年で20になります」

「私は今年で15になります」

 ……思ったよりずっと若かった。

「それでは本題です!さっき質問された答えを言うとここは異世界です。間違いなく異世界です!」

 ……まじか!本当に異世界なのか!

「そうなんですね。ちなみにどんな感じの世界観なのか分かったりしますか?」

「RPG系ってよくやられましたか?そんな感じの魔法や剣有りモンスターもいるそんな世界です」

 ……剣に魔法!そんなのが沢山あって仲間と協力してモンスターを倒すそんなゲームみたいな世界なのかな

「やります!やりました!なんなら大好きでした!てことはギルドとかパーティーとか組んだりするですよね!?」

 興奮する俺に「ふふん」と自慢げに語る。

「ギルドに登録して冒険者として活躍したり、農家や貴族に雇われて専属の短期護衛をやったり。もちろんパーティーを組んでダンジョン攻略を目指す人もいます」

「ちなみにアリスさんは何をしている方なんですか?」

「私この世界に来る時に女神様から頂いた転生特典で魔力、魔法知識、魔法センスがありこの世界でトップクラス魔法を使うことができるのです。

 それなので少し離れた地域を収める領主様に最近まで務めて居ましたね。ある程度のお金も溜まったのでこうして旅をしているのです」

 …………世界トップクラスの魔法を使える魔法使い―いまなんて!?

「女神様?そんな人に俺会いませんでしたよ?」

 女神なんて知らない!

興奮とテンパりで初対面にも関わらずタメ口になっていた。

「そんなはずは無いですよ。私今日までに数人の日本人と会ってきましたたがみんな女神様からチートスキル貰ってましたよ」

 …………まじかよ。

「そういえば、ここに来た時の記憶があんまり無いんですよね」

「は、はい。気づいたらこの世界に居て……」

「それはおかしいです!女神様が言ってましたもん。この世界に行く者全てが1度この神界に来て即戦力になるよう何らかの能力をもらうって」

「なら尚更なんでなんだ!?」

 頭を捻るが何一つ浮かんでこない。

「悩んでいても仕方ありません。物は試しと言います。職が無いならとりあえず冒険者になってパーティーを組みましょう。そして女神様から貰った力を一緒に探してみませんか?」

 ……願ってもない提案だ!

「いいのか!俺はまだこの世界に来て間もなくてこの世界の一般教養もなければ金も無い。迷惑をかけるかもしれないが」

「構いませんよ。2人の1ヶ月分の食費は持ってますし、冒険者になってモンスター討伐やダンジョン攻略で特別報酬も貰えます。なので早速、ギルドに向かいましょう!」

 そう言ってアリスは俺の手を掴み宿を出た。

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