Ⅱー4

「はぁ・・・寂しい。」


おかしいな。集団が苦手で、仕事以外はほぼ一人で過ごしていたというのに、妙に人恋しく感じる。もう人じゃないから鬼恋しいかな。他に鬼いないけどなHAHAHA。


更に50日ほど経ち、順調に過ごしている。危険を冒さず、準備に重きをおいたたまものである。


新たに得た素材は、木材、丈夫なつた、黒曜石(に似た鉱物)、よくわからない芋虫(旨い)、ピスタチオっぽい木の実。


基本的にはこの岩場エリアを探索した成果だ。この岩山に囲まれた地域は、直径およそ2~3kmの円形をしている。岩の切れ目のある北ではなく、北西、西エリアの探索を進めた結果、蔦が多く木々に絡んでいるエリアと、ピスタチオのような実が成る木の群生エリアを発見した。ピスタチオもどきは、実を茹で、岩塩と共に煎ってやるとかなり旨い。歯が丈夫なので殻ごと食ってるが、香ばしさと塩気とほのかな甘みで手が止らなくなる。ウィスキーが欲しい。


方角を意識するのに不便なので、こちら側の箱庭のかどを南東とした。なんとうなく。・・・なく。


というわけで、巨木は岩場に囲まれた円形大地のやや南東にある。


芋虫の発見はプレーリーのおかげである。ある日水を汲みに下の湖まで行った際、珍しく森に近づくプレーリーを見かけたため、こっそり跡をつけた。すると、木の幹の下の土をガリガリ掘り返し、何かを咥えて帰っていった。真似してガリガリしてみたところ、浅めの地中から出てきたのが何かの幼虫のような白い芋虫。茹でて食べると白子のようで甘味すら感じる。


黒曜石は西側の山を探索中に見つけた。もう少し慎重に探索から始めていたら楽ができたと思ったが、何事も経験と割り切った。グリグリと蔦で編んだ縄を巻き、黒曜石のナイフの完成。これにて石のナイフはお役御免。だが、黒曜石を見つけたことで、やや心配事が。ここ火山じゃ無いよね?見れば見るほど火口にに見えてくる。死火山だよね。(震え


新たに作った物は、木刀10本、黒曜石のナイフ、毛皮を使ったショール、毛皮の腰当て、毛皮の篭手、毛皮の脛当て、毛皮の肩掛け袋、干し肉、木材をくり抜いた木の桶というか臼と木の皿各種。蔦を編んだ縄。木の棒にプレーリーの爪を括り付けてつくったすきくわ、と頑張った。


木刀は失敗を重ねながら、納得の行く物に仕上げることができた。丈夫さを重視し既知のものよりは太めだ。多少重くても筋力でカバーできる。嬉しい誤算だったのがこの木が乾燥するとやたら硬くなること。石のナイフでは歯が立たず難儀したが、黒曜石の発見が大きく、削りが捗った。そして木の皮をヤスリ代わりに仕上げた。小剣相手に強度を試すと、勿論傷は付くが、なまくら相手なら数合は打ち合えそうだ。


毛皮の装備は勿論プレーリーの毛皮だ。一部ゴブリンの腰巻きも流用している。裂いて形を整え、紐で結んでいる。はい。私はプレーリー様に生かさせていただいております。誠にありがたく。


なので俺の装備一式は


頭:なし

胴:毛皮のショール

腕:毛皮の篭手

腰:布の腰巻き、毛皮の腰当て、蔦縄の腰帯

脚:毛皮の脛当て

足;なし


武器:木刀、黒曜石のナイフ


どうも蛮族です。


木の薄い臼。略して薄臼は、桶が作れなかった為の妥協の産物である。用途は水などの運搬。木の皿は食器である。


そして、プレーリーの鍬と鋤は穴掘り道具。穴で連想したのが彼等だったので、強度はあるだろうと採用。私はプレーリー様のおかげで(以下略。

これらで地面を削り、臼薄(土運搬用)で土を運び出す。勿論露天掘り。だいぶ掘り進んだが、まだ水は出ない。だが最近変化が出てきた。湿った土が出てきたのだ。これは期待せざるを得ない。




最近の一日の流れはこんな感じ。


空が白んできたところで、目が覚める。薄臼を担ぎ、肩掛け袋を下げて湖まで走る。行きは軽いので岩山を越えていく。湖につくと水を汲み、浅瀬に入り身体を洗う。帰り際、木の根を掘って幼虫を探し、袋にいれて持ち帰る。勿論帰りは水満タンの薄臼を担ぐが、最近はかなり楽になってきた。そのうち天秤棒でも通して2個で行ってみようか。


水を洞に運び込むと、そのまま軽く食事。昨日残した枝肉を、火を起こし焼いて食べる。芋虫と木の実をつまみながら。最後は白湯で締め。


食事が終われば、木刀を握り素振りを始める。斬撃九種を振っていく。ちなみに、武術などやったこともない俺の剣術バイブルは、明治の頬に十字傷の剣客譚である。いつかは俺も片手一本平突きを。ぐっ。


突飛なことはさておき、師がいないのでひたすら考えながら振る。体重の乗る振り方、剣速がでる振り方、初動が速い振り方など。体捌きを交えて試行錯誤。ある程度納得したら二の太刀を打ってみて違うと思えばやり直し。最後は仮想敵に銀ゴブを浮かべて、死合う。俺の現時点でのライバルはあいつだ。やつを倒さねば先は無い。稽古にも熱が入る。


一通り満足したら、狩りに行く。プレーリーさんだ。最近は巣穴から均等に狩るようにしている。僅かでも心労が分散するようにとの考えからだが、向こうからしたら余計なお世話かも知れない。自分の勝手なエゴだな、これは。取ってきたら拠点で血抜きしておく。


ここからはひたすら穴掘りが続く。掘っては運び、掘っては運ぶ。時折大きめの石なども出てきて、これに鋤や鍬の爪が当るとさすがに欠けたりする。


空が茜空になってきたところで作業終了。

血抜きしていた獲物を解体し、今日の分と、明日の午前の分、それと保存加工用に切り分ける。今日の分に塩とニンニクを塗り込み焼いて食べる。

それ以降の時間は道具の修繕であったり、予備を作る時間にあてる。最後に余った水でかるく身体を流して就寝だ。水浴びできるものならしたいが、夜目が利くとは言え、夜の湖につかるような真似はまだできない。


とまあ、今は、鍛えることと井戸掘りに短期目標をおいて行動している。






更に10日ほど経ち、今日も今日とて元気に穴を掘り進めていたところ、


ガンッ


「またか。」


とため息をつく。時折こうして岩にぶち当たる。初めてではない。当る度に右に左にずらして掘り進めていたのだ。恐らくこの岩があるおかげで、水が完全に抜けず、上の木々が生存しているのだろう。有り難いことだが、ため息もつきたくなる。岩盤で覆われている可能性も充分あるが、ここまでくると意地が出てくる。掘れるだけ掘る。


ならばと、また少しずらして鍬を振り下ろした。手応えが抜けた。


「ウェッ!」


と情けない声をあげながら、バランスを崩し、前の壁に顔面をしこたま打ち付けた。鼻血を流しながら叫ぶ。


「なんじゃこりゃあ。」


水は出ず、空洞とはこれ如何に。ガリガリと穴の周りを削り広げていく。そこそこ広がったところで、鬼火を先行させ中を照らす。ぐいと頭を覗かせてみると、大きな岩盤が重なりあい空間を作っているらしい。すすす、と鬼火で奥まで進める。更に進めそうだ。


「まぁ、行かない手はないだろ。」


斜面を軽快に駆け上がる。正直、久々の探索に浮ついてしまう。水が出なかったのは残念だが、予想を超えて面白そうな状況に心が弾む。


木刀を手に持ち、袋にナイフを忍ばせ、準備完了。


即座に戻り、ストっと穴の中に降り立った。下から見上げる。正に岩盤、これはさすがに抜けないなと井戸は諦める。気を取り直して奥に進む。岩と岩の間をくぐり、時に段差を飛び降りる。空間は奥へ下へと続いていた。

ここまで都合良く進めると、作為的なものがあるなと感じていた。


「ダンジョンのエリアの一つなんだろうか。それにしては埋まり方が尋常じゃないけどなぁ。他に入り口があるとか。もしくは隠しエリア?」


一人が長いと、独り言が増えてくる。やれやれだぜ。


しばし進むと横穴が大きく口を開け、地面がなくなっていた。

終点か?とのぞき込む。空洞の様だが、光一つ差し込まない暗闇が広がっていた。夜目をこらすも、完全な闇の中ではあまり効果を発揮できない。ならばと、鬼火の出力を上げて、炎を最大火力で燃え上がらせる。これも訓練の賜だ。


鬼火を下へと走らせる。地面はありそう、水面も見える、きらりきらりと何かが光る。決意し、壁に明かりを寄せ、足場を探し降りて行く。


地面に辿り着くと、ぴちゃり、と足下から水につかる感触と音が響いた。周囲を最大火力で照らし続けると、周りにあった光る何かが、炎の明かりを吸い取るように淡く光り始めた。水晶のように見えたそれは、更に光を強め、反射をして輝き始める。光の波は空間全体に伝播してゆく。そして俺の目の前に全貌をさらけ出した。


「おおおおおおお。地底湖!」


息をのむ美しさだ。広がる地底湖が、幾百とも幾千ともありそうな水晶の反射する光に照らされて、水面を輝かせていた。


しばし呆然としてしまった。はたと気を取り直し、ゆっくり水面に近づいて、手をつけてみる。


めて。」


そのまま片手でひとすくい。


「うまい。」


泥臭さもない。これはとんでもないお宝を掘り当てちまった。水面に映った小鬼の顔がニヤリと笑ったとき、その顔がグワンとゆがんだ。





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