幕間~3~

「我の主との逢瀬は楽しかったかの?」


『逢瀬……ふむ、まぁ中々だったな』


「よし、くたばるのじゃ」



 我の冗談に冗談(に全く見えない)で返してきおったヴォルフの父親……黒狼族の族長にストレートな悪口をお見舞してやったのじゃ。



『それで何故ここに?』


「お主は我の正体に気づいておるようじゃからの。一応クギを刺しておこうかと」


『はっ、バラす事などしないさ。黒狼族の誇りにかけて』


「ならば良いのじゃ」


『……あなたは獣人族を恨んではいないのかい?』



 黒狼族の長がそう尋ねてきおった。確かに向こうがそう思うのも無理はないの。我は精霊族とその眷属であるエルフ族、ドワーフ族以外の7種族と敵対したのじゃから。



「おらぬよ。特に獣人族は……獣王の奴は、一番最後まで我に味方してくれたほどじゃからの」


『……敢えてこう呼ばせて頂こう、精霊王。……黒狼族は代々獣王様からの遺言を預かっていると聞けば、どうするおつもりか?』


「……なんじゃと? 死んだと申すか、あ奴が?」



 我の記憶の中では強く気高き戦士であったはずじゃが? ……そして、我と1番仲良くしてくれた人格者でもあったはず。



「いや、むしろそのせいかの。我と関わったせいじゃな」


『その考えは間違いではない。獣王様だけでなく獣人族がこうして冷遇されている主な理由もそれなのだから。今は獣王様も亡くなってさらに扱いは酷くなった。……だからこそ、さきほどの言葉は取り消してもらいたい。必ずや獣王様の遺言を愚弄することになるであろう』


「む、それは済まないことを申したのじゃ。自虐で他人を傷つけてしまうとはの……読ませてもらっても構わんのじゃな?」


『あぁ、今お持ちする』



 長がその場を離れ、我1人の状況になる。特に何もすることはないの。主はお風呂に入った後にルプスの奴の所に行ったようじゃ。


 いや、主の事だから万が一の事もあるまい。主は絶対ロリコンじゃが、手は出さんよ。ちなみにロリコンと言う決め手は我がロリだからじゃ! 異論はあるまい?


 ハズクの奴は……適当に里を見回っておるの。何をしたいのか分からんが、特に支障は無さそうじゃ。



『お待たせした。……こちらです』



 そう言って長のやつが手渡しで端がボロボロの手紙を渡してきたのじゃ。受け取って開封し、中身を読み込む。……はは、いきなり我を友と呼ぶか。


 ……自らの種族が不利な立場に置かれることは承知していたじゃと? 全く、我じゃあるまいしもう少し保身に走ることも覚えるよう忠告しておけば良かったのじゃ。


 そんな感じで手紙を読み進めていくのじゃが、書いてあることのほとんどは日頃の我に対する愚痴のようなものじゃった。


 あまり長い年月を過ごした訳では無いが、それほど濃い日々を過ごしたと向こうは認識しておったようで良かったのじゃ。



『如何か?』


「十分じゃよ、満足じゃ。……我はあ奴と友として過ごして良かったと、今心の底から感じておるのじゃ。……のう、黒狼族の長よ」


『何かね?』


「精霊王エフィタルシュタイン、その傘下に加わるつもりはないかの?」



 我の味方は……誇張して敵の敵は味方と考えて人類、精霊と眷属のエルフ、ドワーフじゃからの。人類全てを合わせても、日本以外の強者は分からんが王1人に勝てるかどうか……。



『ない。私たちの主はいつだって獣王だけだ。……しかしまぁ、多少の手助け程度なら、出来る程度は行うと約束しよう。我らが王の友となれば当然の事だからな』


「……敵にならぬだけで十分すぎるのじゃ。それよりも裏で暗躍しておるのは蟲王かの?」


『うむ、豚人族の集落で起きた話を聞く限りは……』



 蟲王、虫型モンスターを多く揃えており、性格から嫌な奴じゃな。主はやたらと虫型モンスターと縁があるようじゃし、警戒しておくに越したことはないかの。



『一応聞いておくが、この地に精霊はおらんの?』


『申し訳ないが』



 長が首を横に震る。はぁ……まぁ、エルフの里でさえ風の上級精霊ソロンディア、闇の大精霊シェイドの2人しかおらんかったからのう。仕方ないのじゃ。


 地球の状況を見ればわかるであろう? 殺されたであろう精霊達は全員……はぁ、考えても仕方ないのじゃ。もうどうしようもないことなのじゃし、切り替えるしかないの。


 じゃが、もし本当にやばい状況になった時には躊躇わずに行わねばの。ただし、くれぐれも主にはバレぬようにせねば。主は止めるじゃろうからな……。



『精霊王?』


「む、いや何でもないのじゃ。それよりもこの先、黒狼族達はどうするつもりなのじゃ? 既に獣王のやつはおらん。このままではいずれ……いや、豚人族の話を聞く限り既に始まっているであろう?」


『例え王がいなくとも、我々は生き続けるだけよ。再び王が生まれるその日まで、他種族からの侵略程度、耐えてみせる』



 特に蟲王の奴は好戦的かつ狡猾じゃからの。心配してみせるが、獣人族は皆、協力をしたりはせんじゃろう。あるとすれば、それは再び皆を束ねる王が現れた時のみ……。



「我は汝らの繁栄を、いつまでも願っておるのじゃ」


『はは、王の1人にそう言って頂けるとは……感極まってしまうではないか。精霊王、ありがとう』


「気にするでないわ。獣王の奴の手紙にも気にかけてやって欲しいと書いてあったからの。この程度じゃ、まだまだじゃよ」


『っ……かたじけない』



 我と長の会話はそのまま流れるように解散となった。さて……主は取り込み中じゃろうし、ハズクに絡んでくるとするかの。

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