第240話~VSガノー《前編》~

 ヴォルフの手を取った俺は虚空に手を伸ばしたルプスちゃんの手も取り、優しく起き上がらせる。目が見えないからこういった配慮も必要だ。ヴォルフ? いらんいらん。



『随分と、勝手な事を言ってくれますね』


『っ!? ガノー……』


「思ったより早く立ち上がってきたね」



 瓦礫をパラパラと払い砂埃を立てるガノーは少し顔を歪ませながらそう言ってきた。ダメージが深いからか、それとも俺の先程の言葉を聞いて不快だったのだろうか? ……後者っぽいな。



『女……いや貴様、女ではないな? 油断でも誘うためか? 小賢しい』


「あらら、さすがにバレちゃったか。見た目で判断するな。良い教訓になっただろ?」



 何が決定的な証拠となったかは分からないが性別がバレてしまった。という訳でこの格好をするのはもう要らないよな! 脱ぐ! そしてちょっとずつ煽っていく。


 でもこの教訓、一香さんからも言われた言葉なんだけど自分にも思い切りブーメラン突き刺さってるんだよね。ほら、子供にお財布スられたやつ……うぐっ、古傷を抉られた。


 

『ソラの兄貴! ガノーは黒狼族の中でも偉くて、なおかつ強者に入るっす! できれば殺さずに倒して欲しいっすよ!』


『ガキが、舐め腐りおって』



 そう言ってガノーさんが動いた。と同時に四方八方から矢が放たれる。異常事態に気づいたガノー達の仲間によるものだ。



「見た目のことか?」



 だが矢よりもガノーの方が動くのは速いな。突っ込んできての剣による一撃を牙狼月剣で受け止める。避ければ2人に被害が出ていた。



「それとも年齢か?」


『どっちもだ!』



 グッと力を込めてガノーの剣を下に押さえつけると同時に顔を狙って斬り返した。ガノーが避けた所を狙って横から蹴りを入れて相手との距離を取る。


 と同時に蹴りの勢いで自分も下がり、俺ではなくヴォルフとルプスの2人に向けて放たれていた矢を周りに弾いた。


 コイツらやりやがったな。確かに人質を狙うのは得策だけど、自分たちの獲物もヴォルフ達のはず……死なない程度に痛めつけるつもりか? それとも俺が護ると踏んで……? まぁ良いか。



「下らないね。歳と見た目だけいっちょ前のガキが俺の世界にも結構居る。でもヴォルフは妹を守るために1人で立ち上がった。めちゃくちゃ立派だ。そんなコイツをガキ扱いは、本物のガキである俺が認めん」


『……はっ、貴方もヴォルフ様も、いい加減に理想だけ語って叶えられもしない夢物語を追いかけるのはやめたらどうだね? 妥協して、諦めて、大人になりなさい』


『だから、大人になることがそんなんだったら俺はガキのままで十分っすよ! 何回も言わせんなっす!』



 個人個人で大人と子供の定義が違うせいでごちゃごちゃになっているが、依然として主張は変わらないな。



「力なき正義は無力。だからこそ俺は強くなる。今までも、これからも」


『……確かに、認めましょう。貴方は強い。大抵の願いを叶えられるだけの力はあります。だからこそ、得体の知れない貴方にだけはヴォルフ様とルプスと共に歩ませる訳には行きませんっ!』



 要するにめちゃ強い不審者と関わらせる訳には行かないってわけねっ!? 普通に解釈したら良い言葉なのに、それを受け入れた未来でヴォルフ達が笑っている訳が無い!


 そう思うと同時にガノーが動いた。いや、攻撃を仕掛けてきた訳では無い。ただ……何かをしようとしている。



『っ!? ソラの兄貴、気をつけてください! 多分ガノーの奴、獣化してくるっす!』


「じゅうか? ……獣化の事か」



 なんかヤバそうな技だ。止めた方が良いな……と思ったが、当然それをさせるわけないよな。俺は目の前に現れた、さきほど矢を飛ばしてきた集団を見てそう思う。



「【縮地】」



 でも残念だね。俺はとてつもない速さで彼らを交わし、ガノーに向けて拳を振るう。ズドンッ! ……確かに一撃は入ったはずだ。だがその一撃を受けたガノーはビクともしなかった。



『ぐぉぉぉおぉおぉっっ!!』


「っ!」



 何事も無かったかのようにこちらの腕を掴んでこようとするガノーの手を避けて、そのままヴォルフ達の元まで下がる。


 ガノーの筋肉隆々な肉体が全体的に膨れ上がり、元々老人にしてはあった身長は2mを超える。マテオさん並の身体になった。毛並みは逆立ち、力が上がったことは一目瞭然だ。



『……ぬんっ!』


「【剛力】!」



 俊敏な動きで最速の一撃を繰り出そうとしてきたガノーさんに、俺も渾身の一撃をぶちかます。お互いの拳がぶつかり、僅かに拮抗。そして次の瞬間にはガノーさんが吹き飛ばされた。



「ぐっ……いった~」



 拳と拳のぶつかり合いには勝ったが、骨と筋肉が軋むように痛い。とか思っていると、いつの間にか目の前に現れたガノーが再び腕を振るってくる。


 後ろにはヴォルフ達がいるので受け止めるが、軽く体が浮くぐらいの衝撃はあった。そこを狙ってガノーの仲間たちが俺目掛けて一斉攻撃を仕掛けてきた。



「くっ! がふっ!?」



 牙狼月剣で捌くが、その隙を狙ってガノーから3度目の攻撃が繰り出される。受けきれずまともに食らってしまい、吹き飛ばされた。



『兄貴!』



巻き添えにならないよう、いつの間にかその場を離れていたヴォルフの声が響く。その声に釣られるようにガノー達はヴォルフに向かっていった。


 獣化したガノーだけなら俺でも抑えられるが、圧倒的に手数が足りない! ヴォルフ1人ではルプスを守れない!



「エフィー、ハズク! 時間を稼いでくれ!」


「任せるのじゃ主よ! その代わり帰ったらハンバーグを作ってもらうのじゃ」


『しょうがないけどやってやるの。帰ったら美味い飯待ってるの』



 サラッと手料理をご馳走することが確約された。そんな妖精姿から幼女姿になったエフィーとその隣で羽ばたくハズクの2人がヴォルフ達の前で立ち塞がる。


 ガノーの手下たちは2人に任せよう。俺の方もガノーさんを止めないとな。



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ゼノブレイドDEって知ってるか? あれ攻略するのに100時間以上かかるらしいぜ? ……後は分かるな?

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