第218話~3つ目の精霊魔法~
「ふ、ぐっ!」
傑さんが芋虫モンスターの迷宮主からの一撃を受け止める。同じタイミングで輝久さんと芽衣さんが反撃し、烈火さんが追い打ちを掛ける。数回ほど同じ展開が続いた。
「食らえっ!」
そこに俺も参加する。身体のぶん回しで輝久さん達が下がった所を、迷宮主が攻撃を終えたタイミングで斬撃を飛ばした。
「ちっ」
だが弾かれたように霧散する。やはり生半端な攻撃は通らないらしい。直接の一撃の方が望ましいか。
迷宮主は糸を吐き出し、木に向かって飛ばす。引っ付いたことを確認すると伸ばした糸を引き戻し、その勢いを使って俺たちの連携攻撃から脱出を試みた。
「なっ!?」
そこから木の周りをグルリと1周し、遠心力を利用して突っ込んでくる迷宮主の攻撃をジャンプして避ける。
だが攻撃はまだ終わってない。グッと短い足で地面を踏ん張った迷宮主が追い討ちの頭突きを放つ。
「空君っ! ぬぅぅ!」
傑さんが俺の前に現れて盾となってくれた。だがその威力は凄まじく、傑さんは吹き飛ばされてしまった。芋虫の癖に強すぎるだろ!?
「やぁぁぁっ!」
芽衣さんの膨張した腕での一撃が迷宮主の身体に決まる。だが気にすることも無く宙返りをし、身体を振り回して反撃をしてきた。
糸と木々を巧みに利用しているから、俺たちの攻撃も上手く決まらない。アスレチックにあるターザンロープを想像すれば良いだろうか。
もちろん縄ではなく糸を使って、立体機動装置のように激しく細かな動きをしてくるのだが。葉や枝が一々大きいのもそれを補助している。いっその事、全ての森を烈火さんに焼き尽くしてもらいたい気分だよ。
傑さんと芽衣さんはすぐに琴香さんの《回復》で何も問題はないな。烈火さんが魔法で迷宮主を牽制しつつ、糸で張られた罠を潰していく。
「行きますっ」
そう告げて俺は行動を始める。迷宮主に負けず劣らずと呼べる程度には動けていたと思うぞ。エルフ達と森での訓練をしていたのが役に立ったな。
ピィィィッ! そんな鳥に近い鳴き声を上げながら糸を吐き出してくるが、木々を盾にアクロバティックな動きで回避していく。
糸で罠を張りつつ高所の位置を取られると攻撃しにくい。身軽な俺が1番役に立てる場面だろう。牙狼月剣を振るいながら俺はそう考える。
輝久さんも俺をメインにしつつ、ちょっと遅れていながらもついて来ていた。ちゃんとした連携は取れないが、交互の攻撃や支援をすることは出来るからな。
「【
精霊魔法で速度を上げた。短剣に分類される牙狼月剣の間合いまで一気に詰めることに成功する。俺よりは遥かに巨大な体だ。
回避行動をすることは見えていたが、普通に攻撃は当たった。だが、やはりかすり傷にしかならない。【縮地】で速度は上がっていたが、あまり目に見えて威力の変化は無いな。
「ぬおっ!?」
驚いたのはその後だ。まるで蛇のように身体を捻らせて頭突きを放ってくる。こいつ、本当に身体がしなやかで柔らかいな!
昆虫。しかも芋虫なんだ。骨がある訳でもないし当然と言えば当然か。だが、こいつの攻撃パターンは俺たちからの攻撃を受けてからのカウンターが主だ。
虫のモンスター。迷宮主なら頭が潰れても、身体が半分なくても死なないかもしれない。とは言え、この様子ならいずれは倒せるだろう。何事もなければな……。
「《縮地》っ!」
俺は迷宮主の歩いた糸の部分に足を伸ばす。やっぱりだ! ベタつきが感じられない。蜘蛛系とは違って普通の糸なだけだ。バランスは取りにくいが足場にはできる!
弾性力はあっても粘着力の感じられない糸の上を走り回り、木々と交互に足場を変えながら再び近づいていく。その間にも輝久さんが先に攻撃を仕掛けた。
「オラララァァァッ!」
拳を使った凄まじい速度での連撃だ。迷宮主が得意としていた反撃……頭突きをするための溜めの時間を与えない。最後に1発、重いのが入った。
「空君っ!」
「決めますっ!」
ドガッ、と鈍い音がして上空に打ち上がる。輝久さんが絶好の機会を作ってくれた。あまり攻撃が通らない俺のために、だ。絶対に強烈な一撃を加えたい!
「《炎槍》!」
進路に存在する邪魔な糸を烈火さんが燃やしてくれる。あの芋虫が抵抗する前に辿り着く! だが、迷宮主は空中でもバランスを取り戻してしまった。
俺が接近してくることに気づくと同時に慌てた様子で大量の糸を吐き出してくる。
「ハズクっ!」
『仕方ねぇの。【
俺の掛け声と同時に姿を見せたハズクは、かつてサリオンさんがソロンディアの力を借りて使っていた精霊魔法を発動させる。
俺も牙狼月剣を振り抜いて斬撃を飛ばした。斬撃と【鎌鼬】が芋虫の糸を粉々に消滅させる。
「【縮地】! からのっ……!」
糸を斬り裂いた俺は再び速度を上昇させる。でもこれだけじゃ致命の一撃にはならない。だからもうひと手間を加える。
「【剛力】ッッッ!」
契約上書きをした際に得た、【堅牢】とは別の新しい精霊魔法だ。速さの【縮地】、防御の【堅牢】、力の【剛力】。俺は3つの自身を強化する精霊魔法を手にしている。
その最後の1つをついに解禁した。牙狼月剣を握る手に力が入った。芽衣さんほどじゃないが、腕の血管が浮かび上がり熱を感じる。
「いっ、けぇぇぇっ!」
俺の会心の一撃が振るわれた。とっさに糸を使って盾を作ったようだが、関係なく一閃する。芋虫モンスターの身体は真っ二つになった。
速度と力。それに最高の武器を合わせてようやく切断できたほどの硬さだった。S級迷宮の迷宮主、文句無しに今まで戦ったモンスターの中で1番強かった。……光輝竜レンドヴルムは戦ってないから除く。
あ、やべぇ。気が緩んだ。ちゃんと着地しないと……。上手く体勢が整えられない。まずい、地面に激突しちゃ──。
「お疲れ様~」
「芽衣さんっ、ありがとうございます。でも……お姫様抱っこは恥ずかしいんですが」
ふわりと優しくキャッチしてくれた芽衣さんには感謝したいが、その持ち方がお姫様抱っこだったのはまずい気がする。主に俺の男としてのプライド的に。
「烈火君、虫系のモンスターは──」
「分かってます。生命力が強いんで灰すら残さず焼き尽くします」
俺が真っ二つにした芋虫の迷宮主に烈火さんが炎を飛ばす。メラメラと徐々に表面から黒く焦げていくな。烈火さんの火力でも燃やし尽くすのは時間が掛かるほどの防御力。
牙狼月剣が無かったら精霊魔法を使ってもかすり傷が付いたかどうか……。本当にマテオさんと顔を合わせといて良かった。
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