第181話~主なんて嫌いじゃぁぁっ!!!~

 俺は全速力でエルフの里から離れた所にある地下室……ララノアちゃんが住んでいた所に向かっている。そこにエフィーがいるからだ。


 何故かといえば少し長くなるのだが、白霊草モーリュを採取しに行く選抜メンバーには、最初エフィーも含まれていた。


 しかしエルフの3人が恐れ多いと宥め、エフィー自身も行くことを拒否したのでエフィーは留守番となる。行かなかった理由は俺の予想だが、幻影迷夢……つまり実は虫が苦手って説を押したい。


 なのでその間に過ごす場所を探すことになった。普段は俺のポケットにいるんだが、それは出来ないからな。代わりの場所には、事情を知る族長の家に居候させてもらうことにした。


 しかしエフィーはそれに待ったを掛けてくる。『我はそこの娘……ララノアの住んでいた所で構わん』と言ってきたのだ。


 これにはエルフ達が全力で止めたのだがエフィーの『お主らにも事情があったとはいえ、我が数日でも過ごすことを許容できない場所に、肉親を何年も閉じ込めたことを理解させるにはこれがいちばん早かろう?』と言う言葉を聞いて絶句していた。


 これには俺も納得を示した。攻めてもの意趣返しと言うわけだな。そういう訳で、エフィーはララノアちゃんが住んでいた所に居る。


 そうして目的の場所に着いた俺が地下室への階段を駆け下り、部屋の扉を開ける。



「すぅ……すぅ……」


「…………」



 そこにいたのはクルゴンさんのせめてもの気持ちから与えられた大量の食料を消費し、腹をパンパンにして食っちゃ寝生活でダラけきった豚……ではなくエフィーだった。


 忘れていた俺が言うのもあれだが、過去を追体験したせいで2年以上も離れていた感覚を持ちながら、こんなにも感動しない再会は生涯で今だけだろう。


 俺はつい膨らんだエフィーのお腹をペチンと叩く。当然、何日も放置しておいて今は気持ちよく寝てるだけなのに叩くことを悪いとは思ってるよ(思ってない)。



「む、ぅ? ……あと5分だけ寝かせてたもう」



 簡素なベッドで寝返りを打つエフィーが寝言をつぶやく。くそ、普通に可愛いのはずるい。そう思いながらもう一度お腹を叩いた。……ポヨンってしてて意外と面白いな、これ。



「ふわぁ~~……なんじゃ先程から……。我は今、せめて夢の中だけでも主と会おうとしておると言うのに。誰じゃ、我の睡眠を妨げる不届き者めは──」



 大きく欠伸をして目元を擦りながらブツブツ文句を言ってくるエフィーの言葉が途中で止まる。



「……主かの?」


「主だよ。ただいま」


「~~~っ! お、お帰りなのじゃ!!!」



 そう言ってエフィーが飛び込んで来る。俺は軽く受け止めて抱き寄せた。



***



「という訳で、7月24日に公開した122話以来、約五ヶ月半ぶりの登場のエフィー様、参上! なのじゃ!!!」


「ごめん、ちょっと何言ってるかよく分からない。でも久しぶりって感覚は分かるよ。すっごい懐かしい気持ちしてるし」



 急に来たメタ発言を無視して、両手を腰にまわして尊大な態度のエフィーを見つめる。



「ふっ、空は身も心も既に我の虜じゃったか」


「心はともかく、お前の体にそこまでの魅力はない」


「久しぶりでツンデレかの? 我のないすばでぃーを駆使すれば空など一瞬で悩殺できるのじゃ」

 

「お前、琴香さんに軽く影響受けてない? なんか対応が似てきた気がする」


「嘘じゃぁぁッ!?!?!?」



 腰あたりを掴んでグワングワンしてくるので、頭を撫でて落ち着かせる。



「……主の様子から察するに、悪夢とやらは無事退けたようじゃな」


「あー、うん」


「まっ、当然我のお陰じゃろう?」


「いや、どっちかと言えば琴香さんが主で、お前はその他の有象無象あたりだったはず」


「主なんて嫌いじゃぁぁっ!!!」



 駄々をこねるエフィーの頭をまた撫でて落ち着かせる。あ、落ち着いた……ちょろいな。そう思っていると、急に真顔になったエフィーがベッドから起き上がる。



「どしたの?」


「……そろそろ察するのじゃ、空のばかちん」



 じっと見つめて来るエフィーに問いかけるが、エフィーはそう小さく呟きプイッと顔を横に逸らすだけだった。あぁ、全く、口に出せばいいのに……。



「よしよーし、おいでおいでー」


「我は犬か何かかのっ!?」



 そう言いながらも俺の体のあちこちを触ったりして、無事を確認してくる。お前は俺の母さんか何かかな? 



「……ふぅ。大事がなくて、良かったのじゃ。……本当に、良かったのじゃ」



 そう考えていると、エフィーはか細く小さな両腕を目いっぱい広げて抱きしめてくる。そして小さく呟くと共にギュッと力が入ってきた。


 腰が軽く締め付けられ、エフィーの温もりがじんわりと広がっていく。俺のお腹あたりに顔をうずめて表情を隠していた。


 しかしほんの少しだけ、顔が赤くなっていたことには気づいていたよ。恐ろしく早い一瞬のデレ、俺でなきゃ見逃しちゃうね。


 頭を撫でていた手を下に降ろし、プニプニで柔らかい頬っぺたをムニムニしたり、銀色の髪の毛先が覆い隠している背中を撫でながらそんな風に思っていた。



「む、主よ。誰か来たようじゃ」



 唐突にエフィーが言ってくるので、扉の方へ振り返る。あれ、なんかこの展開に覚えがある気がする。




『ソラよ、薬ができ──……精霊王様、失礼致しました。存分にご堪能ください』


「うむ!」



 戦士長サリオンさんが吉報を知らせに来てくれたが、ちょっと犯罪スレスレだった様子を見ても2度目だったからか気にすることなく消えてしまった。


 てか『うむ』じゃねぇよ! 見られたのがサリオンさんで、本当に良かった……! 例えば琴香さんだったら死んでたね!!!

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