第148話~武器は己の体の1部と思え~
それから数日が経ち、僕たちは今、白虎組合が所有する空き地を貸切にして訓練を行っていた。元は一香さん専用グラウンドだったらしい。
「ふっ、ふっ……ぬわぁぁぁっ!!!」
「おい、もっと足動かせや! あと声出すな! 楽になんのは一瞬だけだ!」
僕と一香さんはまず、体力作りのランニングや筋トレ、素振りなどの基本をやる事にしている。
これらの運動は実力向上としてはあまり意味が無いが、元が全く同じ等級や能力ならば、その小さな差が現れる。
また、発現者なのに努力をしたという自信も手に入れることが出来るので一生続けるように、と言われた。
ちなみに一香さんが小さく「これで少しでも身長が伸び悩めば、成人しても女装が出来るかもしれないしな……」と呟いていた事を僕は知っている。
それを1ヶ月続けた。その少し前の頃から、一香さんは一緒に居れなくなった。恐らくは迷宮崩壊での謹慎期間が明けたのだろう。
その間の白虎組合は大幅な戦力ダウンだが仕方がない。幸いにして、近場にA級以上の迷宮は現れていなかったらしいからな。
「お前、剣向いてないな」
「えぇぇっ!?」
基礎を終えると、次に武器を使っての模擬戦が始まった。基本的に相手は一香さんで、居ない時は1人で稽古。そして1番最初を含めて3回目の模擬戦で、僕はそう告げられた。
「いやな、最初に気づくべきだったわ。弟子なんて初めてだったからしょうがないかな!」
一香さんに笑って誤魔化された。
「り、理由はなんです?」
「お前逃げる方が向いてるんだわ。だから真正面からの剣は向いてない。最初の模擬戦でもへっぴり腰で逃げ回ってたけど、こうしてやってればいずれ治ると思ってたけど治んなかったわ。すまんすまん!」
…………つまり、僕が最初に攻撃を与えず、逃げに徹していたからそう思ったってことかな? 確かに木剣投げ捨てて逃げに徹したけど……。
「つまり、僕は弓とかの遠距離攻撃で戦えって事ですか?」
「それでも良いが……多分、一番合ってるのは短剣だな。弓もそうだが、スピード系の発現者がよく使ってる武器だ」
なるほど、剣より軽いから機動力は上がるな。避けて避けて懐に入り込み、致命の一撃を加える……そんな戦闘スタイルか?
「短剣か……父さんは何の武器でしたか?」
「お前の父親はタンク系だったから盾と片手剣だ」
父さん、タンク系だったのか。……僕たちを守りきれたのはそのお陰かもしれないな。はっきり言って争いごとは苦手だから、それ以外の系統ならやられていたかもしれないし……。
「じゃあやっぱり片手剣にします」
「やめとけ、向いてない。武器は己の体の一部だ。今のお前の選択は、自分に合ってない義足をわざわざ付けるようなもんだぞ? ……妹を救いたいなら、少しでも強くなれる可能性に賭けろ」
父さんと同じ武器を選びたかったが、一香さんにもう一度はっきりと忠告される。それに水葉を引き合いに出されては、こちらに返せる言葉はない。
「っ……分かりました。短剣にします」
「へっ、その何かを決めた時の顔、私は好きだぜ?」
諦めて短剣を選ぶと、ニカッと笑った一香さんが茶化すようにそう言ってきた。
「良いからやりましょう。でも、合ってないと思ったら剣にしますよ?」
「良いぜ、どうせお前は短剣を選ぶ」
そう言って僕は、一香さんが手渡してきた本物の短剣を、今までの経験での見様見真似で構える。対する一香さんは木剣だ。
「ふっ!」
一香さんが動いた。僕が視認できるギリギリでの木剣の横薙ぎだ。いつものようにその一撃を武器で受けようとする。
しかし剣の一撃を短剣でまともに受けきることは不可能だ。ついいつもの癖でやってしまったと後悔する。
慌てて僕は咄嗟に腕を引き、受け流すように弾いた。それと同時に後ろに跳躍して距離を取る。
「なっ……!?」
「はは、自分で自分の行動に驚いてやがる。ほら、だから言ったろ? お前は短剣みたいに小回り利く武器の方が向いてんだ。より近くまで間合いを詰めることに関しても、覚悟を決めたお前には関係ないしな。すぐにあれだけ使いこなせるとは、大した才能だぜ?」
一香さんに素直に褒められ、改めて短剣を見る。自分のカスみたいな魔力が減っている訳でもない。つまりこれは本当にただの短剣……今のを、僕自身の力で発揮したのか……?
「ほら、次行くぜ!」
「っ……!」
一香さんが楽しそうに笑い、再び攻撃を仕掛けてきた。
***
「それで、お前は剣と短剣、どっちが良い?」
あの後、いつもより機敏に動いたせいで体力をより多く消費して倒れた僕に、ニヤニヤしながら笑いかける一香さんの姿があった。
くそ、武器が軽い分いつもより楽勝かと思ったけど、いつもの倍は動いたからむしろ逆だ……! まぁ、お陰でまだまだ体力不足ってことも理解出来たが……。
「意地悪やめてくださいよ…………短剣です」
「はは、言ったろ?」
どうだこの野郎! と言いそうなくらいに笑みを浮かべる一香さんに、僕は心の中で謝罪と感謝をした。……え、口にはしないよ? だって調子乗ると思うし、は、恥ずかしいからね……。
***
汗を掻きまくった空を先に風呂に入れた私は、パソコンを開きとあるサイトを眺めていた。そこは探索者組合が武器を販売しているサイトで、その中の短剣コーナーの部分だ。
「やべぇなあいつ、あの才能は化け物だぜ、ったく……」
私は今日やった模擬戦を思い出しながら、空が将来扱えそうな短剣を探していた。あいにく今は諸事情(復興のための資金)でお金が足りないが、私がいずれ買うと予約しておけば、この申請は通るだろう。
「持ったいねぇなぁ……空がもっと強かったら……S級だったなら、日本で1番を……あいつとも争えるレベルになるだろうに……」
愚痴るように、まるで自分の事のように悔しげに呟く。
「はぁ……再発現でも起こらんかね~。まっ、そんな奇跡、あるわけねぇか!」
私は馬鹿みたいに都合の良い妄想を忘れようと笑い飛ばした。
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