第149話~いざ白虎組合へ~

 それから1年が経った。中学校は一香さんの家からは通えるように、京都から大阪へと移した。翔馬には……会う勇気が無かった。


 家とか、ついでに戸籍とか苗字もよく分からんけど何とかなったらしい! まぁ一香さんだしな!


 訓練も僕は体力作りや一香さんとの模擬戦を繰り返し、ある程度戦えるようにはなったと思う。もちろん、実力差がありすぎたら何も出来ないが……。


 それにちゃんと声変わりもしたし、身長だって165cmまで伸びたぞ! 一香さんは「ひゃ、170cm代に乗らなきゃまだ大丈夫……!」とか言っていたな。目指せ170cmだ!



「よし空、明日から違う人間と闘うように」


「え?」



 その日の模擬戦の終わりに、師匠からそう告げられる。僕は思わず飲んでいた飲料水から口を離し、ポカンと間抜け面を見せてしまった。



「そろそろ停滞期に入るだろう。同じ相手とばかりしていると、お互いの癖や弱点も見えるだろうし、丁度良いから私が違う相手を用意してやる」



 なるほど、師匠の言う通りだ。精神的にもマンネリ気味に感じていた可能性が高いし、経験的にも師匠以外の人とも試合をした方が良いだろう。



「わかりました」



***



 次の日、僕は一香さんに車で白虎組合へと連れていかれた。



「ほ、本当に入るんですか?」


「当たり前だろ? 何今更怖気付いてんだ?」



 巨大なビルを丸ごと借りた白虎組合の大きさを見て、僕は少しだけ尻込みする。



「だって、大阪じゃまるで英雄のようにもてはやされてる白虎組合ですよ?」


「お前はそのマスターの私と一緒に住んでるんだが?」


「あぁ、そう思えば気楽になりました」


「おいこら、何でだよ」



 僕が落ち着きを取り戻すと、一香さんが納得いかないと言いたげな視線を向けてくるが当然無視する。一香さんは「はぁ……」とため息を吐き、中へと入っていくのでついて行った。



「おはようございますマスター。おや? そちらの少年はもしや例の?」



 入口の受付にいた女性が一香さんの事をマスターと呼び、綺麗に45度のお辞儀をする。ま、マスター? 実際にそう呼ばれてるんだ……社長、みたいな感じか?



「あぁ、悠斗ゆうとの奴はいるか? 第3訓練所まで呼び出してくれ」


「かしこまりました」



 その会話が終わるとすぐに一香さんが移動を始めたので、僕も後ろについて行く。第3訓練所ってところに行くんだろうか? そして悠斗、って名前の人が、僕の新しい練習相手になると……。


 そう考えていると、さきほどの女性による悠斗さん呼び出しのアナウンスがビル全体に放送される。多分、予想通りだろう。しかしそれよりも、一香さんに聞きたいことがある。



「一香さん、例の少年って、一体どんな説明をしたんです?」


「……中学生のガキを1人、一緒の家に住まわせてるって話がどこからが漏れてな。今じゃ白虎組合の半分以上は知ってるはずだ」



 どこからが漏れた、については一香さんが僕に構ってくれるのが原因だろう。性別はともかく、一緒に住んでるや中学生まで漏れていたのは謎だな。



「ここだここ……お?」



 体育館のような場所に到着して部屋に入ると、一香さんがそんな声を漏らす。見ると、既に一人の青年が第3訓練所の真ん中に立っていた。



「はえーなおい、悠人」


「い、一香さん……マスターからのご指名とか初めてなんで、絶対遅刻しないように急ぎました!」



 手をヒラヒラさせる軽い挨拶をした一香さんに、悠斗さんはビシッと敬礼をして大声でそう報告する。はてはて、一香さんは慕われてるのか、恐れられているのかどっちなのだろうか?



「空、こいつは悠斗。23歳のB級タンク系探索者だ」



 一香さんにそう紹介された悠斗さんは、長身に筋肉の鎧で覆われた肉体の持ち主だった。僕とは正反対と言っても過言ではない……。



「んで、こっちは空。15歳のF級探索者だ」


「はじめまして、空君……で良いよね?」


「はい、では悠斗さん、と」



 お互いに軽い自己紹介を受けると、悠斗さんの方から握手を求めてきたので、僕はそれに応える。



「それでマスター、一体なんの用で私を呼び出したんでしょうか?」


「あ? こいつの模擬戦相手になってやってくれ。F級だから手加減してやれよ?」



 その言葉を聞き、僕は一香さんに怪訝な表情を向ける。だって用意するとか言いながら、その相手に一切説明してなかったんだぜ?


 一香さんの事だから、多分今このビルにいるメンバーの名前を適当に上げて、偶然居た奴と闘わせようとでもしたんじゃないかな?



「了解です。あの、この少年はスポンサーの関係者か何かですか?」



 悠斗さんが一香さんに尋ねた。もしそうなら万が一にも怪我をさせないようにしないといけないし、接待もしなきゃ行けないからな。



「いや、私と同棲してんだ」


「ごふっ!? ど、同棲!?」



 悠斗さんが噴き出し、僕をなんとも言えない表情で見てくる。



「マスター、失礼を承知で申し上げますが、中学生は犯罪です」


「んなことは分かってんだよ。居候みてぇなもんだ。気にすんな」



 いや無理だろ、と心の中でだけ突っ込む。最近はいちいち説明するのも面倒くさいからな。



「ともかく、私は用事があるからあとはよろしく頼むわ」



 一香さんはそう言ってどこかへと行ってしまった。



「あ~、それじゃあ早速始めようか」


「よろしくお願いします」



 一香さん以外との初の模擬戦が始まった。

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