第132話~修羅場~

 ピンポーン、と家のチャイムが鳴る。



「い、いらっしゃい……」


「お邪魔します空君」



 扉を開けて挨拶をする。するとそう言って、穂乃果が家に上がった。……どうしてこうなった?



***



 昨日のことだ。



「空、テスト勉強をしよう」


「どしたの翔馬、急にそんな事言うなんて?」


「よし決定だね。小鳥遊さんもそれで良いよね?」


「問題ありません!」


「待て待て、2人とも一旦落ち着こう」


「場所は明日、空の家に決定で良いよね?」


「意義なしです!」


「いや良くないよ。……あれ、決定しちゃった? 待って一応確認とるわ…………あ、OKだって」



***



 と言う昨日の会話を思い出す。何故か急に強引な手を使ってきた翔馬と、それに何故かノータイムで肯定する穂乃果は謎だったな。あとLINEして秒で返してきた母さんも怖かった……!


 父さんは仕事だし、今日は母さんもパートで居ない。水葉は小学校の友達と遊んでくるとのことなので、今日は3人っきりだ!



「そう言えば翔馬は?」


「か、風邪ひいたそうです」


「言い出しっぺのくせにっ!?」



 ふ、ふざけやがって、あいつバックれやがった! 待て……つまり今、この家には穂乃果しか居ないことに……やべぇ、すごい緊張してきたんだけど。


 だって中学校入ってから家に誘うとか無かったし。今回も翔馬が居るからOKしたのに。多分両親もそのつもりだっただろうから……。



「ごめん穂乃果、さすがに2人っきりはちょっと色々まずいと思──」


「だ、大丈夫、です! 空君の両親の許可は得てます。諸星君が居ないことも、報告済みです」


「用意周到だねっ!? ……じゃ、とりあえず部屋行こうか……」

 


 僕は穂乃果を部屋に案内する。ちゃんと片付けはしたし、窓も開けて空気の入れ替えもしてる。ファ◯リーズも振ったし、問題は無い……はず。



「そう言えば前回のテストはクラス何位だった?」


「に、二位です」


「おう。僕は六位だ。一方的に教えてもらう感じになりそうだけど……大丈夫?」


「ぜ、全然、大丈夫。むしろ、それが狙い……!」


「狙い?」


「っ!? あ、いや違──」


「なるほど。……つまり今日のテスト勉強会は、僕がクラス三位になるための物だったわけか」



 翔馬はクラス一位だからな。1人だけ離されてるのもなんか悔しいし……ちくしょぉ!!!



「ぁ……うん、そうそう! 始めよう空君」


「おう!」



 ノートと問題集、教科書と板書を移したノートを机に並べて勉強を開始する。しばらくはカリカリとシャーペンを走らせる音が聞こえたが、僕はそれどころではなかった。


 ……今更だけど、女子を上げるの超緊張するんだけど!? 昔は全然意識してなかったけど、今ってもう中学2年じゃん!? そりゃ色々と意識しちゃうわけで……。


 少しでも集中力を切らして前を向けば、そこには穂乃果がいるからどうしても視界に入ってしまう。……集中だっ! 唸れ、僕の思考回路っ!



「空君、これ教えてくれませんか?」


「ぇ……?」



 僕の集中力がマックスにまで高まった瞬間、穂乃果の言葉で粉々に砕け散った。



「これなんですけど……」


「ちょっ……」



 穂乃果が問題のページを開きながら、自然と僕の隣に座り込んでくる。近い近い近いっ!? ……くそ、こんな状況で穂乃果が分からない問題を僕が解けるわけな…………いや解けるわ。



「あ〜、これはこの公式に当てはめる。そしてこれを置き換えて……」



 穂乃果、本当にこれが分からないのか? 精神不安定な今の僕でも解けるのに……?



「へ、へぇ……じゃあここは?」


「っ!? ……こ、ここなら分母を合わせて……」



 そっと横を見れば、肩が触れるほど距離は縮まっていた。僕はなんとか解説を続ける。



「ありがとう空君」


「ど、どういたしまして……?」



 ノートを握りしめ笑顔でお礼を告げてくる穂乃果に、僕は激しく脈を打つ心臓を押さえながらそう返した。



「あの……そう言えば空君って、明日が誕生日だったよね?」


「え? あぁうんそうだよ?」



 唐突に話題を変える穂乃果に疑問を持ちつつも肯定する。多分水葉が出かけている理由も、隠してはいるが僕のプレゼントを買うためだろう。去年もそうだったからね。



「……あの、これっ! 1日早いけど、明日の誕生日プレゼントっ!」


「あ、ありがとう……開けるよ?」



 穂乃果が凄い勢いで鞄から取り出した物を受け取る。紙袋から中身を取り出すと、そこにはプ◯マのスポーツタオルが入っていた。



「そのっ……良かった? 要らないならまた別のを買ってくるけど……」



 穂乃果が気まずそうに僕の顔を伺ってくる。



「いや、めちゃくちゃ嬉しいよっ! ありがとう穂乃果! 今度は穂乃果の時にもお返しするね!」


「そ、そう……? 喜んでくれたなら、良かった……。あ、それとこれ、諸星君からも預かってるんだけど……」



 そう言って穂乃果が取り出してきたのは万年筆のような高級シャーペンだった。



「くそ、今度会ったらバックれたお礼参りしようと思ったのに、ガチのお礼をしないといけない事に……」


「ふふっ、諸星君の今日教えてくれた反応通りだ。この事伝えたら、わざわざ休んだ甲斐があるって言いそう」


「そうかそうか…………ん? わざわざって何?」


「あ……」



 ……張り付くような、微妙な空気が流れる。僕がジーッと穂乃果を見つめると、穂乃果は目線を逸らした。顔を近づけて、強制的に向かい合う。顔を逸らされた。追いかける。逸らされた。



「…………ち、違うの。私は普通に勉強をしようと思ったの。でも諸星君が『僕は風邪で休んだ事にしてプレゼントを渡すんだ。そうすればきっと好感度は爆上がりだよ』って……」

 


 翔馬、お前への好感度は爆下りだよ。



「なんだよ好感度って……僕、別に穂乃果のこと嫌ってないぜ? どっちか聞かれれば好きって即答するよ?」


「ふぇっ!?」


「だってずっと一緒にいるんだから当然だろ?」



 だが翔馬、てめぇはダメだ。



「ほ、本当っ? 本当なのっ?」



 すると穂乃果がガバッと近づいてきたかと思うと、俺の両手を取り、熱い眼差しと凄まじい勢いで尋ねてくる。



「お、おう……僕、穂乃果のこと──」

「兄さんただいま戻りました! 愛しの水葉です!」

「──好きだよ……ぁ、水葉? おかえり……」



 なんかヤバそうなタイミングで僕の部屋に入ってきた水葉の目がやばい。人でも殺してきたんじゃ無いのか? って感じのイっちゃってる目だ。


 穂乃果とは両手を繋いでいるので、その震えが直に僕へと伝わってくる。よく分からんがとりあえず離した方が良さそうに感じるが、穂乃果の手が固まって離せない。



「……兄さん? 愛しき最愛の妹の私が、兄さんの誕生日プレゼントを買いに行っている間、兄さんはそこの女とイチャコラしてた訳ですか? そういう訳ですかっ?」



 ふふふふふっ、と効果音がつきそうな引き立った笑顔を浮かべ、一歩をズッシリと、ゆっくりと歩みを進める水葉。



「イチャコラって……ただ勉強してただけだよ?」


「なるほど。保健体育の実践ですか?」


「そんな知識、どこで覚えてきたのっ!?」



 最近の子供はませてるな〜。



「水葉、これはちょっと一息ついてただけで……」


「なるほど。デート中の休憩みたいな物と」


「おかしいな〜、休憩が別の意味に……」



 なんでそんな隠語を知ってるのかな? 多分情報源は母さんだ。許さん、水葉になんて事を教えてるんだっ!



「ってか水葉、いくら何でもませすぎじゃない!? 兄さん将来が心配だよっ?」


「私の将来の夢は兄さんのお嫁さんだよ?」


「一気に子供っぽくなった〜」



 よし、そろそろ誤魔化せたかな?



「それで兄さん」


「なんだい水葉」


「さっきの発言は何?」



 無理でした〜。



「誤解なんです違うんですけっしてやましいことではありません神にいえ水葉に誓いますよ」



 このあとめちゃくちゃ説明した。



***



「──ってことが2日前にあったんだよ翔馬」


「お疲れ様。大変だったね」


「そうなんだよ……とりあえず1発殴らせろやおらぁっ!」


「ぐはぁぁぁぁっっっ!?!?!?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【悲報】作者、今更気づいた模様


琴香、氷花、烈火、一香、穂乃果……かで終わる人多すぎ問題。


一応、3章終わった所で人物紹介挟む予定です。


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