第97話~休戦~

 ん〜〜? ストップ、一旦停止。大地さん今なんて言った? エルフの言葉が分かる? ……どう言うこと?


 俺と琴香さんは普通にサリオンさんと会話してたけど……大地さんにはその言葉がわからないってことだよね?



「サリオンさん、この人の言葉分かりました?」


『ふむ、人間の言葉など分かるわけなかろう?』


「では俺の言葉は?」


『今会話してる通り、分かるに決まっておるじゃろう?』



 あ〜はいはい、理解しました。……俺と琴香さん、無意識に異世界の言語使ってた感じかな?


 俺はエフィーと契約してるからで、琴香さんは精霊だから。それぞれの理由でサリオンさんと言葉通じてたのか。しかも言語を変える意識もなく……。


 つまり俺たち以外はエルフ達と言葉が通じない。……嘘やろ? 俺たち通訳係させられるじゃん。いやそんなことよりも俺たちだけが通じる理由を探さないと!



「……あ〜大地さん、どうやら俺と琴香さんはエルフに言葉が通じるらしいです」



 いや無理! そんなすぐに言い訳出てこないよっ? もう少し準備期間があればどうにかなったかもしれないけど、今その場で答えを出すなんて無理!



「篠崎さん達は言葉が通じる……? な、なら、なぜ私たちを襲いながらも、こうして生かしているのかを尋ねて欲しい」


「それは俺と琴香さんの言葉が通じたからです。本来なら通じないはずなのに通じた。この人も何かあると睨み、こうして話し合いの場を設けてもらいました」



 大地さんの一つ目の質問はやはりその謎だったか。俺は既に知っていたので簡単に答える。



「……なら、敵対はしないと約束して欲しい。それと私たちを1ヶ月、村において欲しい。こちらとしては返せるものは何もないが……頼む、そう伝えてくれ」



 大地さんが頭を地面につけて頼み込む。1ヶ月……ってことは大地さんもあの事を知っているのか。いや、最初に特級迷宮と気づいていたから当然か。



「ーーだそうです。サリオンさん、俺たちからもお願いします」


「わ、私からもです! お願いします!」


「我からも頼むのじゃ」



 俺も大地さんの通訳を終えると同時に頭を下げる。琴香さんが慌てて続き、エフィーも軽く頭を下げる。元精霊王のエフィーが頭を下げたなんて、サリオンさんが知ったら驚くだろうな〜。



『ふむ……精霊様、しかも2人からそう頼まれてはこちらとしては断ることなどあり得んよ。いくつか条件はあるが、ワシが忠言すればおそらくだが構わんじゃろう』


「本当ですか! ありがとうございます!」



 サリオンさんはふ〜と、鼻息を吐きOKの返事をした。それに対する俺たちの反応を見て、唯一言葉を理解できてない大地さんも喜びの笑みを浮かべる。



『よし、それならばひとまずそちらの者を起こすとしようぞ』



 サリオンさんがそう言い切った瞬間、目の前がブレた。それと同時にパンッと何かを叩く音がほぼ同時に発生する。


 おそらく超高速で動き回り、寝ている探索者全員の頬を軽く叩き回ったのだろう。サリオンさん、いつの間にか元の場所に座り込んでいるし。



「っ……お腹、痛い……空、離れて! そいつ、やばい……多分、兄貴よりも……!」



 一番最初に目覚めた氷花さんがクルリと回って立ち上がり、サリオンさんを見てそんな事を呟く。確かにその意見には賛成だ。


 おそらく烈火さんでも一対一ならサリオンさんには負けるだろうな。まぁ魔法系だからそんな想定はほぼ無意味だが。



「氷花さん、大丈夫です。エルフ達とは休戦しましたから」


「休戦……? 空が、そう言うなら……分かった」



 少し不服そうな表情をしつつも氷花さんは攻撃する意思を抑え込んだ。その後、目覚めた人達全員が似たような反応を見せるが、俺や大地さんがそれを思い留まらせる役割を果たした。ただ……。



「栄咲さん、正気ですか!? 彼らはモンスターです! しかも私たちを襲ってきた危険な……。それなのに、そこの2人が言葉が通じるから安心だなんて……信じられませんわ!」



 柏崎さんと馬渕さんに岸辺さんの3人だけは否定的な意思を見せる。北垣さんたちは俺たち2人と知り合いだったし信じられたのだろうが、彼らからの俺たちの印象は最悪だからな。そうなるのも無理はない。



「はぁ……柏崎さん、今は俺がマスターです。そのことを分かってますか?」


「もちろんです。そしてマスターが間違った道を行くと言うなら、私たちはそれを止めますわ!」



 大地さんが説得を試みるが、柏崎さんはそう言う。まぁその気持ちも理解できなくはないが……。


 後ろの2人もとりあえず柏崎さん側に付いているが、今ここでエルフに逆らえばどうなる分かってはいるんだろう。そんな表情をしていた。



「柏崎さん、では選んでください。今ここでエルフ達に殺されるか、裏切られる可能性を考えながらエルフの住処に行くかを……」


「くっ…………分かり、ましたわ」



 大地さんからほぼ選択肢のない選択問題を告げられ、柏崎さんは悔しそうに折れた。俺たち探索者達は、全員でエルフ達の住処に向かう方針となった。

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