第96話~擦り合わせ~
「ーーと言うわけです。私は一応精霊ですから、こうして温情? を貰ってるわけです!」
琴香さんのそれまでの出来事を聞き終わり、俺は自分たちが殺されなかったことに安堵しつつ、警戒を消せないでいた。
もし琴香さんが元人間であることがバレた場合はどうなるのか? ……いや、こっちには元精霊王であるエフィーもいるから問題は無い。
待て待て、仮にも瓶の中に封印されてた存在だぞ? 目の前にいる初老エルフがエフィーをどう認識しているか……。
と言うか、普通にエフィーがいるけどなんの反応もないって事は、エフィーが精霊だと気づいていないのか? その理由は分からないが、もしそれなら精霊との契約の証である手の甲の紋を見られるわけにはいかなくなったな。
元精霊王が人間と契約を結んでいるなんてどんなスキャンダルだよ。多分エルフ達からエフィーが大バッシングされる未来しか見えないぞ?
『まぁ、お嬢さんの言う通りじゃの。お嬢さんが精霊様であったからこそ、小僧らがそばにおるのも何かの理由があってのことじゃと認識しておる。その理由までは聞かんよ? 精霊様のやることじゃからの』
初老エルフがポリポリと木の実を齧りながら捕捉してくる。ふむ、初老エルフの態度を見る限り、精霊を敬う人、もしくは種族なのだろうか?
『それに……小僧らはワシの仲間を殺そうと言う気はなかったじゃろう? それならワシも、殺す事はせんことにしたのじゃ』
おぉ、俺がエルフたちを殺さなかったことがここで効いてきたのか。普通にいけどりにするつもりだったとか、余計な事は言わない方が良さそうだ。
「なるほど……ひとまず、命を救っていただきありがとうございました」
『な〜に、そもそもこちらが仕掛けたのじゃ。そこの伸びとる奴らは殺されても文句は言えんぞ?』
初老エルフはそう言って主に俺が倒したエルフたちに視線を移す。そう言えばエルフの方から襲ってきたんだったな。理由はなんだ? やっぱ下等な人族めがっ! みたいな感じ?
『まぁ、小僧らは異界からの侵略者と認識されておる。勘違いされても文句は言えんぞ?』
異界からの侵略者……? ……待て待て、なんだその認識は? 異界ってのは俺たちの世界のことだろう。異世界からすれば、地球の世界だって異界になるはず。だが……侵略者だと?
「あのゲートは、エルフ側が開いたものじゃ無かったんですか?」
俺たちの世界の人たちは、てっきり異世界側からの干渉だと考えていた。だが初老エルフの発言を聞く限り、こちら側からゲートを繋いだと言うことになるぞ。
『ゲート? ……あぁ、異界に繋がると言われている門の事じゃな? あれはいつどこに現れるかも分からず、開くとほぼ同時に人間が現れおる。てっきりワシらは人間がエルフなどを捕らえ、土地を侵略するために発明した魔導具と認識してあったが、その反応じゃと……違うのか?』
違う……全然違う。どうやら地球側の認識と異世界側の認識がこんなにも異なっているとは……。まさかどちらも相手側が開いていると思っていたなんて……。
いや、この話が全て本当である保証はない。だが……全て本当だと仮定して考える場合、俺たち地球側と異世界側を戦わせている黒幕がいる。
それが第三勢力なのか、どちらか側の裏切りかは不明だが…………そんな事をしている奴がいるとしたら、俺はそいつを絶対に許さない……!
待て待て、勝手に知的生命体と決めつけていたが、これが自然の摂理、世界の
……変に話がどんどん飛躍していってしまった。落ち着け、とりあえず初老エルフの問いに答えよう。
「違います。あのゲート……特急迷宮は3年前、急に俺たちの世界に現れたんです」
『3年じゃと? ワシらエルフ達からは何百年も前から現れるものじゃったはず。しかも現れる相手は決まって人族のはずじゃが?』
何百年!? ……あ、なるほどそう言うことか。俺は一人であることに納得していた。
「それについては誤解です。おそらく、発生したのは同じ時期です」
『同じ時期、じゃと? ………なるほど、そう言うことじゃな』
お、向こうも納得してくれたようだ。話を聞く限り初老エルフは何百年も生きてきた。それなのに、毎回現れる人間を見て違和感を覚えたんだろう。
『そうじゃそうじゃ小僧、名を何と申す? ワシはエルフの戦士長を務めてあるサリオンじゃ』
初老エルフがそんな自己紹介をしてきた。なるほと、ある程度向こうの警戒は解けたと考えて良いだろう。ならばこちらも……。
「俺は篠崎空。空と呼んでください」
「私は初芝琴香です!」
俺と琴香さんが自己紹介を名前だけです簡単に済ませる。今はそれで良いだろう。
「それではソラよ、そちらの小さなお嬢さんも精霊様じゃな? ソラはその契約者と言ったところか?」
初老エルフことサリオンさんがエフィーに視線を向ける。分かっているかエフィー。お前が元精霊王だとバレるのだけは避けろよ?
「ふふん、よくぞ気がついたなサリオンとやな! その通りじゃ! 我の名前はエフィターー」
「俺の契約した精霊のエフィーです」
こら、この馬鹿っ! お前が元精霊王だとバレたらどうなるか分からないんだぞ! 仮にも封印されてたんならもう少し慎重に動きなさいっ!
「何をするか主人! 我の自己紹介を遮るとは何様のつもりじゃ!」
「お前の主人様だ」
「…………」
エフィーが何も言えずプルプルと涙を浮かべていた。何も言い返せなくて悔しいらしい。絶対に笑っちゃダメだ……ブハッ!
「ん〜〜〜っ!!!」
ポカポカと拳を握ってエフィーが殴ってくる。暴力反対!
『ふははははっ、種族が違うと言うのに、ソラはたいそう仲が良いようじゃ』
サリオンさんが高笑いでその光景を眺める。
「ん……くっ……」
するとサリオンさんの高笑いで意識を取り戻したのか、大地さんが呻き声をあげる。
「エフィー隠れろ!」
「了解じゃ!」
急いでエフィーに指示を出すと、すぐに妖精姿に変わって俺の胸ポケットに入ってくる。それとほぼ同時に大地さんが起き上がり、こちらを見てきた。ギリギリだったな。危なかった……!
「……エルフっ!? 篠崎さん離れろ! そいつは危険だ!」
大地さんは意識がはっきりすると同時に飛び上がり、サリオンさんに向かって腕を構える。まぁ、やられたんならそう言う認識になるわな。
「大丈夫ですよ大地さん、この人はサリオンさん。エルフ族の戦士長をしている人です」
『サリオンじゃ。ソラよ、此奴(こやつ)がこの団体の長か?』
「そうなりますね」
俺は慌てて大地さんに名前から自己紹介を済ませる。いや〜危ない危ない! 一歩間違えれば一触即発の状況だったな!
「は? ……し、篠崎さん、一つ質問があります……」
「なんです?」
大地さんはこちらを見てあり得ないと言った表情を見せる。確かに先程まで敵対していたエルフ達と仲良くなってるんだから無理もないか。
だが、大地さんから飛び出た言葉は俺の予想してない言葉だった。
「あなたは……そこのエルフの言葉が分かるんですか?」
…………え?
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