第93話~圧倒的敗北~

 2人が同時に飛びかかってくる。ヘレスとアムラスという名のエルフたちの実力は大体B級ぐらいか? とりあえず一番簡単な奴から片付けるか。


 俺は考えをまとめあげ、迫ってくる2人とは逆の方向に逃げ出す。



『なっ、待て!』



 女性エルフのヘレスが驚きながら慌てて追いかけてくる。アムラスって青年エルフは動いていない。前衛と後衛で分けているな。


 とりあえず2人同時は無理かもしれないから、浮いた駒……ヘレスの方から先に片付ける。俺は背を向けて逃げ出したように見せかけ、追いかけて来たヘレスを確認してからUターン。アムラスと離れたヘレスに向かう。


 追撃をして来たヘレスの体で死角になるようにしてあるので、アムラスからの弓矢での援護射撃は来ない。間違ってヘレスに当ててしまったら目も当てられないからな。エルフも仲間の命は大事らしい。



『このっ、人族がっ!』



 誘い出されたと気づいたヘレスだったがもう遅い。俺は短剣で真っ直ぐな突きを放つ。だが、心臓を狙った一撃だったが狙いが単調だったからか、片足を後ろに下げて正面だった体の向きを側面に変えて回避される。



「しゅっ!」


『かはっ!?』



 そうして回避したのを狙い、突きを放った腕を引くと同時に、横向きになったヘレスの体正面に向かって蹴りを放つ。腹をまともに蹴られて口から少量の唾液が飛ぶ。



『……がっ……!?』



 蹴られた腹をとっさに抑えるヘレスだったが、ただではさえ俺とあった身長差がさらに広がる。俺は手頃な位置にあるヘレスの頭に、短剣の柄を叩きつけた。



『ヘレス! このやろーー』


「油断しすぎだ、舐めすぎだろ」



 ヘレスが倒された事でようやく射線の通るようになった弓を構えたアムラスだったが、俺とヘレスの攻防に夢中で気づかなかったんだな。後ろに最上のおっさんが迫っていることなんて……!



『なっ!』


「しばらく寝てろ!」



 上に構えた大剣を思い切り振るった最上のおっさんの一撃が、アムラスにもろに放たれた。その攻撃は殺してしまわないように峰打ちだったが、アムラスを気絶させるには十分だったようだ。


 戦った限りB級だと思ったが油断か疲れか、あまり思っていたほどの強敵ではなかったな。まぁ、最上のおっさんが一対一で挑めば負けていたのは確実だと思う。


 それよりも牧野さんを1人にしてしまった……いや、ちゃんと大地さん達の方に向かわせたと、最上のおっさんがジェスチャーで示してくる。ナイス判断!


 ともかく、これで後は大地さん達の方に加勢をすればーー。俺は途中で考えるのをやめて、背後から放たれた矢を振り返りながら避ける。



「見つけた」



 俺は矢を放った4人目のエルフ……男性エルフに向かってものすごい速さで近づいていく。それにしてもやっぱり、敵を倒した直後って一番油断する所を狙ってくるのはさすがだな。警戒しておいて正解だった。


 それより大地さん達遅いな。俺でも最上のおっさんと連携して2人倒したんだから、そろそろ来ても良いはずなんだが……?


 まぁ良いか。ともかく俺は襲ってくるエルフ達を倒すだけだ。女性エルフ、青年エルフの2人は無力化済み。


 岸辺さんを矢で射抜いたエルフ1人は大地さん達が倒すだろう。現在進行形で俺が追っている男性エルフが4人目。一体何人のエルフが今俺たちを狙ってるんだ?



「ともかくさっさと片付けるか」



 俺はそう呟きながら、草木が生えつつ小石や木の根でゴツゴツとした舗装されていない道を走って追いかける。そして距離が近づいていき……最後に一気に加速した。



『消えーー!?』


「てない」


『っ!? ……ぁ……っ……!』



 俺のあまりの速さに男性エルフは視界で捉えきれず、消えたと錯覚したのだろう。その間に後ろに回り込み、スリーパーホールドで押さえ込む。


 契約したことで上がった力を死なない程度に最大限に使い、腕の筋肉で頸動脈を絞め、脳への血流を止めて失神に持ち込んだ。



「3人目の無力化成功。さて、とりあえず戻るか」



 周りを見渡すと知らない風景が広がっていた。と言ってもどこもかしこも森なので、面識ある場所なのかは分からないが。


 ともかく男性エルフを追いかけているうちに、大地さん達が戦っている場所から少し離れてしまったようだ。


 気を失っている男性エルフを片手で持ち上げ元の場所へ帰る。今無力化したエルフは、先ほど無力化した2人のエルフと同じところにまとめて置いておこう。多分、最上のおっさんがエルフ2人を見張ってるだろうし、俺もそれに加わるとするか。



「……は?」



 先ほどいた場所まで戻ってきて目に写り込んだ光景を見て、俺はそんな間抜けな声を漏らした。信じられなかった……誰一人として、他の探索者たちが立っていなかったのだから……。



「……嘘だろ? 大地さんに、氷花さんまで……?」



 最上のおっさんを最初に見つけ、次に牧野さん、そして柏崎さんを見つける。柏崎さんを守るように馬渕さん、岸辺さんを発見。


 奥に目を向けると、北垣さんが。そして……大地さんと氷花さんが倒れているのを、視界に収める。A級探索者だぞっ? それを……俺が男性エルフを倒している間に……全員やられたのか?


 と、とりあえずみんなを倒したエルフはどこだ? 襲ってこない? それよりも、倒れてるみんなの治療を優先するべきか? 治療なら琴香さんが必要だけど……どこにもいない。一体どこに……?



『ほう? 小僧、そっちの伸びてる男はワシの仲間じゃ。悪いが返してもらうぞ?』



 予想外の出来事の連続に頭を悩ませていると、少し年老いた初老エルフが現れる。見たことがない……5人目のエルフ。こいつがみんなをやったのか?


 初老エルフは伸ばした白い毛色の顎髭を触りながら、俺が掴んでいた男性エルフを指差してそう言ったかと思った瞬間、その姿が消えた。



「なっ!」


「主人逃げろ! 殺されるぞ!」



 驚きで一瞬固まると、エフィーが今までに聞いたこともないほど焦った声を上げる。



『ふむ、小僧でもワシの素早さにはついて来れんか』


「くそっ!」



 持っていたはずの男性エルフが消え、それと同時に後ろから聞こえた声。俺は舌打ちをして短剣を構えながら振り返るが、姿はなかった。



『どれ、お礼じゃ。1発で倒してやろうぞ』


「がっ……?」



 再び背後からそんな声が聞こえたと同時に、首に鋭い衝撃が走る。俺はその一撃で気を失った。

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