第94話~無事~
視界が晴れない。意識はゆらゆらと、混濁しながらもある。だがそれは夢のような……あぁ、そうか。俺は今、眠っているのか。なんでだっけ……?
俺たちは確か、C級迷宮に潜った。中ではエルフたちと遭遇。特級迷宮に変化していることを確認。なんとかエルフを3人倒してみんなの元に戻ったら、そこには……みんなが倒れてて、そして……。
初老エルフの姿が浮かび上がる。あの圧倒的な実力、肉弾戦なら烈火さん以上は確実。当然だが師匠よりも強いな。……最低でも、S級の強さか……。
C級迷宮だったはずだけど、特級迷宮に変化したってことは、多分A級ぐらいには上がってるだろうな。はぁ……。
そう言えば契約をする際、エフィーが珍しく正解を当ててたな。あと俺も、水葉に無事に帰ってくるぜと言ってたな。それにあの、琴香さんが迷宮を見て緊張もしてた……。
うん、すっっっっごいフラグとか立ててたな。もしかしてこれって、こうなるのも必然だったの? いや、さすがに……。
それよりも、倒れたみんなの様子を思い出してみれば、誰も血は流していなかった。いや、最初の岸辺さんは例外でお願い。それ以外は誰も……。
もしかして、全員俺も同じように眠らされただけだった? なら……向こうもこちらと同じように、殺すつもりはなかったと考えていた?
でも馬渕さんに放たれた一撃は殺意満々だった……。分からない、そして一番重要なことだが、琴香さんだけがいなかった。
あれはあの初老エルフに連れ去られたと考えて良いのか? くそっ、分からないことばかりだ。俺が倒されて、あの後エフィーはどうなったのかも分からないし……。
***
だんだんと意識が覚醒していく。体の感覚が戻り、頭がふわりと柔らかい感触に包まれていることが分かる。なんだこの感触、すっごく気持ちいい……。
「……はっ!」
慌てて目を開けると、二つの双丘が目の前に飛び込んでくる。これって、もしかして……。
「あ、空君! 気がつきましたか?」
「琴香、さん……?」
俺はゆっくりと体を起こす。なるほど、俺は琴香さんに膝枕をされていたわけだ。はっきりとはしない視界を頼りにあたりを見渡す。
氷花さんに……北垣さんもいる。それに大地さんや最上のおっさん……うん、牧野さんたちも含めて全員いる。見た限り、俺と同じように眠っているだけのようだ。本当に、良かった……。
「ん……?」
よく見たら俺が倒したヘレスって名前の女性エルフにアムラスって名前の青年エルフ、それと片手で運んできた男性エルフもいた。それだけではなく、大地さん達が戦った男性エルフもだ。4人のエルフ全員も、同じように寝かされている。
「琴香さん、守ってあげられなくてすみません」
「気にしないでください! あんなのが相手じゃしょうがないです!」
とりあえず俺は謝るが、琴香さんは気にした様子もなくにこりと笑い慰めてくれた。くそ、いつもはポンコツ中学生みたいなのに、こんな時だけ大人っぽいとか反則だろ……!
「あ、主人〜!」
「(スッ)」
エフィーが俺を見て涙を溜め込みながら飛び込んできたので軽く避ける。エフィーの空振った抱擁は地面へと激突した。
「なぜ避けたのじゃ! あんまりなのじゃ!」
「いや、つい……」
体が勝手に反応したんだから仕方がない。それよりも、エフィーも生きていて良かった良かった。俺は軽く膝をつき、自分からエフィーを抱きしめる。
「ふにゃっ……ま、全く。最初からしてあれば良いのじゃ。心配させおって……全く……」
エフィーの小さく華奢な体を軽く抱き、その温もりを感じながら頬同士を軽く擦らせる。エフィーは同じ言葉を2度も繰り返すほど動揺していた。
「空君空君!」
琴香さんが「早く来いや」と言わんばかりの顔で両手を広げてくる。
「恥ずかしいので無理です」
琴香さんにはさすがに出来ない。
『ふ〜む、やはり最初に目覚めるのは小僧じゃったか。して、その目からしてまだ寝ていた間までの状況を聞いてないと見えるぞ』
聞き覚えのある声に俺は敵意を丸出しにしながら振り返る。そこには俺を一撃で倒した初老エルフが立っていた。
「空君、この人は大丈夫です。私たちの敵じゃないです」
「……分かりました」
琴香さんが肩を掴んでまで止めてくるので、俺はその言葉を信じて手を引く。まぁ、仲間が殺されていない時点で少しばかり安心するべきだったか? こう気を張りっぱなしは疲れるだろうし。
「あ、忘れてました! こうなった経緯です! 任せてください!」
琴香さんはそう言って、俺と別れてからの出来事を話し始める。初老エルフは小さい木の実をぽりぽりと食べていた。俺にも一粒くれないかな……?
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