第87話~C級迷宮~

 そして2日後、つまり試験から一週間が経ち、諸星組合初の迷宮攻略が始まろうとしていた。俺は現在、目的のゲート前に建てられた仮設テント内にいる。



「空君……私、柄にもなく緊張して来ましたっ!」


「俺もです」



 ゲートを目の前にした琴香さんの報告に、俺はそう返答をする。にしても琴香さんが緊張することって珍しいな。何か悪いことでも起きそうだ!


 ちなみにエフィーは置いてきた。この先の戦いにはついて来れそうにないからな……って言う冗談こそ置いておいて、今は翔馬と一緒にいる。


 本当なら連れて行きたかったが、そうなるとエフィーには妖精状態になってもらわなきゃいけない。すると翔馬がエフィーを家に置いてきたなどと勘違いする可能性もあるので、それはできない。


 結果、迷宮攻略をする際にはエフィーは翔馬の所に預けることとなった。今回は初の迷宮攻略と言うわけで、別のテントにいるらしい。



「し、篠崎君……ちょっと、そこの胃薬を取ってくれないかい?」



 近くにいた北垣さんも同じようにゲートを見て、胃をキリキリさせていた。琴香さんってやっぱり図太いのか? それとも北垣さんが小心者すぎるだけ?



「はっ、たかだかC級迷宮なんだぞ? これぐらいで怯えてるようじゃ、これからやっていけんのか?」


「最上のおっさん、北垣さんを舐めすぎだぜ? この人は、間違った道に進もうとした俺を止めてくれた人なんだから」



 藤森に復讐しようとした時だな! あなたが止めてくれなきゃ、俺の倫理観はその時に多分狂ってた!



「なんか気になる部分もあるが、篠崎がそう言うならそうなんだろうな!」


「相変わらず、頭、悪い……?」


「なんだと綾辻てめぇ!」



 俺を全面肯定した最上のおっさんに氷花さんが辛辣な言葉を投げかけ、最上のおっさんがそれに反応する。相変わらず、仲、悪い……?



「まぁまぁ、2人とも落ち着きなよ〜。綾辻さんも煽るのはやめよ? 最上さんは年上なのにちょっと沸点低すぎ。大人でしょ?」



 そう言いすぐに仲裁に入ったのは、試験で俺が倒した弓使いの牧野弦矢まきのげんやさんだった。俺の知り合いの中で2人しかいない一般人に分類されている。ちなみにもう1人は北垣さんだよ。



「よろしくお願いしま〜す」



 俺たちと知り合いでは無いが、今日の選抜メンバーに選ばれた人たちと挨拶を交わしながら、攻略の開始時間は続々と近づいていく。



「やぁやぁ、お待たせしてすみませんね皆さん。本日の迷宮攻略でリーダーを務める、諸星組合のマスター、栄咲大地です」



 最後に栄咲さんが来て、今回迷宮を攻略するメンバー全員が集合することになった。



「まずは、初芝琴香さん。A級探索者への再発現、おめでとうございます」


「ありがとうございます」



 栄咲さんが用意していた花束を琴香さんに手渡す。それを見た他の人たちの、微かな驚きや困惑の声が聞こえた。あ、そう言えばその場にいた俺以外の人は知らないんだったな。



「それにしても……篠崎さん、あなたは違うのですか?」



 栄咲さんが急にスッと薄く細めた目でこちらを見ながら確認してくる。おっと、当然気付いていたか。



「いやいや、琴香さんの知り合いだからって俺も再発現が起きたりなんて、そんな奇跡あるわけ無いと思いますよ?」



 はぁ、ともかく誤魔化しておこう。今、再発現と知られれば面倒なことになる。企業に雇われた形の栄咲さんとしては話題性があるので自白が欲しいだろうがな……。



「ふむ……それは残念だ。でも……もう少し時間が経ったなら良いかな?」



 おっと、この人もしかしてだけど大本さんと決めた再発現の発表に間を開けるって約束、分かっちゃってるんじゃ?



「何のことかはわかりませんが、マスターである栄咲さんには逆らえないと思いますよ?」


「そうかい、では期待してるよ? それと、俺のことは大地さんで構わない」


「了解です、大地さん」


「……さて、話は変わりますが、1時間後には突入の予定です。各自、最後の準備をお願いします」



 栄坂さんはそう言って、再びどこかへと行ってしまった。多分、諸星社長との最後の打ち合わせとかだろう。



「なぁ、初芝って言ったよな? 再発現したのか?」



 最上のおっさんが開口一番にそう尋ねた。やはり気になるか……。



「そうですよ! 回復系なのであまり実感はありませんが、身体能力は高くなってます!」


「へぇ、やっぱり……。だから私とも、闘えたんだ……」



 琴香さんの言葉を聞き、納得した表情で笑みを浮かべる氷花さん。だがその視線は次に俺へと向けられる。



「ねぇ、空。あなたは、受けないの……?」



 おやおや、やっぱ氷花さんも疑ってるのか。もう普通に直球に尋ねてきた。



「そうだね……。琴香さんで世間の目を集めてるから、熱りが覚めてから一応受けてみるよ」


「そう……なら、良い。でも……出来るだけ、早く……」



 氷花さんは受けるという言葉を買いて安心したのか去っていった。まぁ、いずれは受けるしな。具体的な期限は決めてないし、最低でもS級ぐらいの強さになってから受けよう。俺はそう心に決めた。

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