第81話~空、シスコン認定される~
「いや〜すまない! つい我を忘れてね!」
「本当に、ね……!」
烈火さんが何事もなかったかのように立ち上がり、頭に手を当てながら謝罪してくる。氷花さんは烈火さんを汚物でも見るような目を向けていた。
「あ、空君! 話は……終わったんですか?」
「はい、お互いに話し合えましたよ」
少し遅れて合流した琴香さんが、少しだけ遠慮気味に尋ねてくる。一応確認の意味があったんだろうな。
「それよりも空君、大事な話があるんだが、聞いてくれるか……?」
「え……? あ、はい……なんですか?」
突如、烈火さんが俺の肩を掴みながら真剣な眼差しでお願いしてくる。俺としては断る理由もないので、多少動揺をしつつも肯定した。
「兄貴……もし、変なこと、聞いたら……殺す」
「…………はい」
なんか烈火さんと戦う前と似たような会話が少し挟まれた。
「では改めて……君、なんだか俺と同じような匂いがする」
「えっ? それってどう言う……?」
匂い……? 同じシャンプー使ってるってこと? いや、S級とF級が同じ値段のシャンプーやリンスを使う訳ない。
「もしかしてだけど……空君は、妹がいないかい?」
「一応いますよ?」
「そぉぉれだぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
「うぎゃぁぁぁぁっ!?」
烈火さんが激しく叫びながら俺を抱きしめてきた。当然、俺は必死に逃れようと暴れるが引き剥がせない。
「死ね……!」
「あぶなっ!? ちょっ、それはマジでやばいよ氷花!?」
「だから、こそ……!」
氷花さんが試験でも使用していた氷の剣を創り出し、烈火さんの首が存在していたところに一閃を加える。烈火さんは辛うじてそれを避けて反論するが、氷花さんは聞く耳を持たなかった。
「それよりも、空。妹、いたんだ……」
「うん。水葉って名前で、すごく可愛いんだ」
「やはり空君も俺と同じシスコンだったぶへっ!?」
余計なことを言おうとした烈火さんの腹に、氷の剣の柄部分がめり込む。もう烈火さん、口を開くたびに株をどんどん落としていくな……。
「ごめん、兄貴、うざいと思う。それに、もう遅いし、そろそろ帰る……またね、空……」
「こっちこそまたね、氷花さん」
氷花さんがそう言って、烈火さんをズルズルと引きずりながら帰っていく。《灯火》は解除していってくださいね〜?
「空君、また会おう! 同じシスコン仲間としてね!」
元気よく引きずられていく烈火さんが最後まで余計なことを言い、氷花さんにボコられていた。あと、また会いまーー……いや、やっぱりちょっと考えさせてもらおう。
「所で空君」
「な、なんですか琴香さん?」
琴香さんがにこりと笑い、優しげな表情を浮かべてくる。俺はその笑顔にただならないナニかを感じたり、タジタジになりながら尋ね返す。
「なんで綾辻さんが名前呼びになってるんです? 私でも何ヶ月もかかったのに、1日目でお互いの名前を呼び合うほど仲が進展したんですか?」
張り付いた笑顔の琴香さんが眉間に皺を寄せ、俺の服の裾を掴んで逃がさないという意思表示をしながら訪ねてくる。
やはりこの顔は怒っている時の顔だったのか! ……とりあえずスマイルスマイル〜……って言える空気じゃないな。
「いや、俺を名前で呼び始めるのは氷花さんが勝手に呼び始めて、名前で呼ぶことになったのは氷花さんがそうしてほしいってお願いされたからでですね。えっと……」
俺はそのままあったことを伝えるが、琴香さんの顔色は変わらない。どうすれば良いんだ?
「空君……確かにそう言われて断りづらいのも分かります。それにこれは、私の身勝手な我儘(わがまま)ですね。それでも……ずるいと、思っちゃったんです」
琴香さんが下を向き俺と目を合わせないようにしながら、そんな事を言葉にした。
「だって……私の方がずっと前から空君のことを想ってたんですよ? それなのに、今日会ったばかりの人と、お互い名前で呼び合うぐらい親しくしてて……すみません、こんな嫉妬みたいなことをしてしまって……」
琴香さんが少しだけ涙声で謝ってくる。……俺は何が悪かった? いや、彼女自身が言っている通りならただの嫉妬なのだろう。それでも……。
「あの……琴香さん、こちらこそすみませんでした……。氷花さんは、俺に戦いを教えてくれた師匠がいたんですが、彼女も同じように教えてもらった弟子だったそうです。それでその、こうした接点が出来て……」
あぁもう、話がまとまらない! 結局出てくるのは言い訳っぽい言葉だし……うん、あとはこれしか思いつかないな。
「琴香さん! 明日……は急すぎますね、3日後にデートしましょう! さっき約束してた奴です!」
ええいもう直球だ! これが一番ストレートに伝わるし良いだろう!
「……本当ですか? 私で良いんですか?」
「いいえ、琴香さんで良いんじゃありません。琴香さんが良いんです! だって俺たち……その、友達以上の関係なんでしょう?」
琴香さんが少しだけこちらを確認しながら見てきて尋ねてくる。自信があまりなさげだったので、もう一押しと思い、俺は次の言葉を言い放つ。まぁ、恥ずかしくてはっきりとは言えなかったが……。
「……はい! 分かりました、約束です!」
琴香さんは普段の明るさとまでは行かずとも俺の誘いが嬉しかったのか、はにかみながら笑顔を浮かべた。……良かった〜! 嫌われたかと思った!
「あ、そろそろこっちに着くみたいです」
するとちょうど良いタイミングで、翔馬からメールでそんな連絡がきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます